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第一章

第十三話 呼び出し

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 馬車が王城の入口に到着した。今日は弟の従者であるビリーを護衛に借り、更に侍女のスワンもお供に連れて来ている。服装も恥ずかしくない程度に装飾の入ったドレスを着込んでいる。初めてこの国の王太子の元を訪ねるのだから緊張でガチガチだ。

 推し達の姿を遠目からでも見たい、と参加したあのお茶会……。行かなきゃ良かったかも。そうすればこうやって王子に呼び出される事も無かっただろうし、タクト様の事を思って胸が苦しくなったりもしなかったかもしれない。

「こちらへ、どうぞ。アルスト殿下が中でお待ちです。あ、お付きの方々は外でお待ち下さい」

 城の入口で待機していた殿下付き従者のデペッシュに連れられて、わたしは廊下の突き当たりにある大きな扉の中へと案内される。その先にも重厚な扉があり、扉の左右には護衛騎士が控えている。少し不安になって後ろを振り返ると、廊下側の扉の向こうでスワンが拳を握ってガッツポーズをしていた。うう、応援ありがとう、頑張って玉砕してくるわ。

「殿下、ピスケリー嬢をお連れ致しました」
「入れ」

 緊張でバクバクな心臓を押さえながら、開けられた扉の中へと入る。そこは応接セットと、大きな書棚、書斎机と……どうやらここはキラキラ王子の執務室の様だ。ここ……ゲームの中で見た事ある! ヒロインがここでキラキラ王子と仲良くお茶したりしてた場所だわ。あのソファーでは甘い囁きをされて、頬にキスをされるスチルがあった。うわぁ、本物だ~! 凄い!

「ピスケリー嬢、私を無視して部屋の鑑賞とは随分と余裕だな」
「はっ! も、申し訳ありませんっ!あまりにも素敵なお部屋だったもので。お、お招きありがとう御座います、アルスト殿下」

 ヤバイヤバイ。つい、ファン心理で浮かれてしまった。それどころじゃないのよ、今日は。慌ててアルスト殿下に頭を下げ、挨拶をした。殿下に促されてソファーに腰かける。おぉ……に座ってしまったよ、落ち着けわたし。

 いつの間にかお茶の準備を済ませデペッシュが何事も無かったかの様に扉の外へと消えた。一人残されてしまったわたしは、ただ俯いて殿下からのお言葉を待つ。

「早速だけど……ちゃんと人払いはしてあるから、本音で話してね」
「は、はいっ!」

 恐る恐る顔を上げて殿下の顔を見た。うっ……さすがメイン攻略対象者。キラキラオーラが半端ないんですけど。これをまともに受けれるヒロインと悪役令嬢、強すぎる。人って美形過ぎると凶器だな。

「……味噌汁って美味しいよね」
「は?」

 い、今なんて言った? 聞き違いだろうか。いや、聞き違いに違いない。この世界には無い。

「私は梅干しのおにぎりが好きなんだよね」
「…………」
「刺身、天ぷら、寿司、ラーメン……久しく食べてないなぁ」
「……………で、でん、か」
「ん?」

 これは、アレか? アレで間違いないのか?

「……わ、わたしは塩むすびが好きです」
「ふっ…………ふは、ははははははは! そうか、そうだな、塩むすびは最強だよな」

 意を決して口を開いたわたしの言葉に殿下はお腹を抱えて笑い出した。あ――…そうなのね、そうだったのね。わたしは一気に緊張の糸が切れて、ソファーの背にもたれた。
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