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第一章
第八話 婚約騒動①
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「愛しのゼフィー! この私が会いに来てやったぞ」
「……はぁ」
翌日――。正式に婚約が決まり、レオ様が我が邸へと花束を抱えてやって来た。鼻の下が伸びて緩んだ笑顔で、残念な顔が更にもっと残念な事になっているレオ様をわたしは無表情で見ていた。……なーんで、こんなのと婚約しなきゃいけないのよ、ホント。お顔が残念なだけなら別にここ迄嫌じゃないわよ、性格が問題なのよね。
「これでもうゼフィーは私のものだな。お前がローゼン様と恋仲だと言うから焦ったではないか」
「……そうですか」
「やっぱり照れていただけなのだな、可愛い奴め」
うあー……もう、発する言葉の全てが気持ち悪いわぁ。
「抱きしめてやるから、こっちに来い」
「嫌です」
「照れなくて良い」
「わたくし、まだ子供ですので遠慮致しますわ」
「……むむ。そうだったな、仕方ない。抱擁はもう少し待とう」
いくら待って頂いても嫌ですけどね。
「では、顔にキスくらいは良いだろう?」
「絶対、嫌です」
何だってこの人とは話が通じないのだろう。こんなに全身全霊で拒否ってるのに何故気付かない?
「ん、なんだ。やけに外が騒がしいな」
レオ様の言葉にわたしも部屋の扉の方へ目をやる。廊下の向こうから何やら声とバタバタとした足音が聞こえてくる。そして、コンコンコンと扉がノックされた。
「あ、あの、お話中失礼致しますお嬢様」
侍女のスワンの声にわたしは立ち上がって扉を開ける。スワンが何やら青ざめた様子で廊下に立っている。玄関の方からは『お、お待ち下さい!』と執事が何かを制止する様な声が聞こえてきた。それと共に何人かの足音も近づいて来る。
「どうしたの、何の騒ぎ?」
「それが、その……」
スワンが何かを言いかけた時、廊下からニュッと伸びて来た腕に引っ張られて誰かに抱きしめられた。ビックリして見上げると、そこにはコバルトブルーの瞳……。
「……え、タクト様?」
「助けに来た」
射抜く様な瞳に心臓が跳ね上がる。推しのタクト様に何故だか、抱きしめられちゃってますけど! これは神様からの何かのご褒美ですか!? わたし、きっとこのままドキドキし過ぎて死んじゃうんじゃないかしら。
そっと身体を離したタクト様は応接室へと入り、怒りで真っ赤になっているレオ様と向き合う。
「ろ、ローゼン様! これはどういう、おつもりですか」
「それはこちらのセリフだが?」
睨み合う二人――。状況がよく分からず呆然とするわたし。そして周りではオロオロする侍女やメイドや執事たち。そこへ騒ぎを聞きつけて、お母様がようやく姿を見せた。
「こ、これはローゼン卿。一体どうされたのですか」
お母様も事態が把握出来ずに、レオ様とタクト様をキョロキョロしながら交互に見る。タクト様はお母様に向かってスッと頭を下げられた。
「ピスケリー伯爵夫人、ゼフィー嬢が無理矢理婚約させられたと聞いて急に押し掛けた事をお詫びします」
「お顔を上げて下さい」
「ご挨拶が遅れたが、わたしはゼフィー嬢とお付き合いをさせて頂いている。なので、そこのレオナルドとゼフィー嬢の婚約は白紙に戻して頂きたい」
「…………な、なんと、まぁ! そ、そうでしたの!?」
驚きを隠せないお母様は『まぁ! まぁ! どうしましょう』と何故か嬉しそうにワタワタしている。
「そんな勝手な事は許されないぞ、ゼフィーはもう私のものなんだ」
「レオナルド、先日も邪魔はするなと言ったよな。覚えてられない程頭の中がカラッポなのか? 親の力を使ったらしいが、それならこちらも親の力を使わせて貰うが構わないか?」
「なっ……」
「我がローゼン公爵家を敵に回すという事になるが、覚悟はあるんだな?」
レオ様の赤かった顔が冷気を浴びたかの様に真っ青に変わっていく。筆頭公爵家のローゼン公爵家を敵に回したりなんかしたら、お家存続の危機に瀕するだろう。更にタクト様はキラキラ王子の親友だ。下手したら王家まで敵に回してしまうかもしれない。
「シャロン伯爵にはわたしから手紙を出しておくから、君は今すぐ帰りたまえ」
「……くっ」
悔しそうに唇を噛みながら、黙ってレオ様は部屋を出て行かれた。わたしは目をパチクリさせながら、自分の頬をつねる。――――これって夢じゃないよね。わたし、レオ様と婚約しなくて良いの?
「そ、それで……あの、娘と婚約されたいという事でしょうか?」
「わたしはそのつもりだが、実はまだわたしの片想いでしてね。恥ずかしながら、好きになって貰える様に口説いている最中なのです」
「まぁ! なんと贅沢な」
「今回の事もあるし無理矢理婚約するのは好ましくない。もう少しお時間を頂きたいと思ってます。必ず口説き落としてみせますので」
「まぁ! まぁ!」
わたしの入る隙もない様子でとんとん拍子に話が進んでいく。レオ様との婚約は免れたけど、なんだかとんでも無い方向に話が進んで行ってるのは気のせいだろうか。タクト様は『助けに来た』と言って下さってたから、これもまたお付き合いしてる振りをしてくれてるんだよね?
「……はぁ」
翌日――。正式に婚約が決まり、レオ様が我が邸へと花束を抱えてやって来た。鼻の下が伸びて緩んだ笑顔で、残念な顔が更にもっと残念な事になっているレオ様をわたしは無表情で見ていた。……なーんで、こんなのと婚約しなきゃいけないのよ、ホント。お顔が残念なだけなら別にここ迄嫌じゃないわよ、性格が問題なのよね。
「これでもうゼフィーは私のものだな。お前がローゼン様と恋仲だと言うから焦ったではないか」
「……そうですか」
「やっぱり照れていただけなのだな、可愛い奴め」
うあー……もう、発する言葉の全てが気持ち悪いわぁ。
「抱きしめてやるから、こっちに来い」
「嫌です」
「照れなくて良い」
「わたくし、まだ子供ですので遠慮致しますわ」
「……むむ。そうだったな、仕方ない。抱擁はもう少し待とう」
いくら待って頂いても嫌ですけどね。
「では、顔にキスくらいは良いだろう?」
「絶対、嫌です」
何だってこの人とは話が通じないのだろう。こんなに全身全霊で拒否ってるのに何故気付かない?
「ん、なんだ。やけに外が騒がしいな」
レオ様の言葉にわたしも部屋の扉の方へ目をやる。廊下の向こうから何やら声とバタバタとした足音が聞こえてくる。そして、コンコンコンと扉がノックされた。
「あ、あの、お話中失礼致しますお嬢様」
侍女のスワンの声にわたしは立ち上がって扉を開ける。スワンが何やら青ざめた様子で廊下に立っている。玄関の方からは『お、お待ち下さい!』と執事が何かを制止する様な声が聞こえてきた。それと共に何人かの足音も近づいて来る。
「どうしたの、何の騒ぎ?」
「それが、その……」
スワンが何かを言いかけた時、廊下からニュッと伸びて来た腕に引っ張られて誰かに抱きしめられた。ビックリして見上げると、そこにはコバルトブルーの瞳……。
「……え、タクト様?」
「助けに来た」
射抜く様な瞳に心臓が跳ね上がる。推しのタクト様に何故だか、抱きしめられちゃってますけど! これは神様からの何かのご褒美ですか!? わたし、きっとこのままドキドキし過ぎて死んじゃうんじゃないかしら。
そっと身体を離したタクト様は応接室へと入り、怒りで真っ赤になっているレオ様と向き合う。
「ろ、ローゼン様! これはどういう、おつもりですか」
「それはこちらのセリフだが?」
睨み合う二人――。状況がよく分からず呆然とするわたし。そして周りではオロオロする侍女やメイドや執事たち。そこへ騒ぎを聞きつけて、お母様がようやく姿を見せた。
「こ、これはローゼン卿。一体どうされたのですか」
お母様も事態が把握出来ずに、レオ様とタクト様をキョロキョロしながら交互に見る。タクト様はお母様に向かってスッと頭を下げられた。
「ピスケリー伯爵夫人、ゼフィー嬢が無理矢理婚約させられたと聞いて急に押し掛けた事をお詫びします」
「お顔を上げて下さい」
「ご挨拶が遅れたが、わたしはゼフィー嬢とお付き合いをさせて頂いている。なので、そこのレオナルドとゼフィー嬢の婚約は白紙に戻して頂きたい」
「…………な、なんと、まぁ! そ、そうでしたの!?」
驚きを隠せないお母様は『まぁ! まぁ! どうしましょう』と何故か嬉しそうにワタワタしている。
「そんな勝手な事は許されないぞ、ゼフィーはもう私のものなんだ」
「レオナルド、先日も邪魔はするなと言ったよな。覚えてられない程頭の中がカラッポなのか? 親の力を使ったらしいが、それならこちらも親の力を使わせて貰うが構わないか?」
「なっ……」
「我がローゼン公爵家を敵に回すという事になるが、覚悟はあるんだな?」
レオ様の赤かった顔が冷気を浴びたかの様に真っ青に変わっていく。筆頭公爵家のローゼン公爵家を敵に回したりなんかしたら、お家存続の危機に瀕するだろう。更にタクト様はキラキラ王子の親友だ。下手したら王家まで敵に回してしまうかもしれない。
「シャロン伯爵にはわたしから手紙を出しておくから、君は今すぐ帰りたまえ」
「……くっ」
悔しそうに唇を噛みながら、黙ってレオ様は部屋を出て行かれた。わたしは目をパチクリさせながら、自分の頬をつねる。――――これって夢じゃないよね。わたし、レオ様と婚約しなくて良いの?
「そ、それで……あの、娘と婚約されたいという事でしょうか?」
「わたしはそのつもりだが、実はまだわたしの片想いでしてね。恥ずかしながら、好きになって貰える様に口説いている最中なのです」
「まぁ! なんと贅沢な」
「今回の事もあるし無理矢理婚約するのは好ましくない。もう少しお時間を頂きたいと思ってます。必ず口説き落としてみせますので」
「まぁ! まぁ!」
わたしの入る隙もない様子でとんとん拍子に話が進んでいく。レオ様との婚約は免れたけど、なんだかとんでも無い方向に話が進んで行ってるのは気のせいだろうか。タクト様は『助けに来た』と言って下さってたから、これもまたお付き合いしてる振りをしてくれてるんだよね?
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