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第一章
第七話 少年スクト様
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酷い顔……。
数日振りに部屋の鏡を見たわたしは、自分の顔に溜息をつく。レオ様との婚約に泣き暮らして早五日。婚約の事を考えると、いくらだって涙は出て来るけど……一生泣いている訳にはいかない。所詮はモブなのだ。ゲームみたいにイケメンと恋に落ちて――――などと夢みたいな事が起こる訳ではない。別にイケメンじゃなくても良いんだけどね……レオ様じゃなければ、それだけで良い。
「はぁ…………」
タクト様と街を一緒に歩いたりしたの楽しかったなぁ。もうあんな素敵な事は起きないだろうな。モブはモブらしく生きるしかないよね。学園に入学すればタクト様達の事も眺めて過ごす事が出来るんだもの、それを楽しみに今は生きていこう。頬をペチペチと軽く叩いて気合を入れる。
「スワン、ちょっと気晴らしに外に出たいのだけど」
「お身体は大丈夫ですか、お嬢様。あまりお食事も摂れてらっしゃらないのに」
「うん、だからこそ、気晴らししたいのよ」
「畏まりました。では、どちらに?」
「本屋に行きたいわ」
素敵な恋愛小説でも読んで、物語の世界に浸りたい。現実逃避って大事な息抜きだもの。我が家の図書室にある恋愛小説はもう全部読んでしまったし、新しい本を幾つか買いに行こう。スワンが手早く馬車の用意をしてくれたので、わたしは少しウキウキとした気分で馬車に乗り込んだ。
◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆
「あれ? ひょっとして、ピスケリー嬢?」
本屋へ到着して早速、小説コーナーへと移動していた時、ふいに声を掛けられた。振り向けば馴染のある深いネイビーブルーの髪にローズレッドの瞳を輝かせて微笑む一人の美少年――。
「ス、スクトさ…ま」
タクト様の双子の弟であるスクト・ローゼン様がニコニコしながら近づいて来た。うわぁ……スクト様も凄くカッコいい。タクト様とそっくりなそのお顔にちょっとドキリとしてしまう。二人の違いは性格と、そして瞳の色――。タクト様は悪役令嬢のティアナ様とお揃いのコバルトブルーの瞳だ。
「やぁ、君とは話してみたかったんだよ~」
「え……」
ただのモブ令嬢のわたしにスクト様が一体何の用があるのだろう。理由が思い当たらなくて首を傾げると、クスリと笑われる。……笑い方は全然違うのよね、この二人。そういえば喋り方も若干違うわね。声はほぼ同じだけど……。
「タクトがやけに君にご執心みたいだから、どんな女性かな~と思ってね」
「そんな、とんでもないです。わたくしは、ただお友達になって頂いただけで……」
「……友達? あれ、じゃあタクトの片想いなのかな?」
かっ、片想いって!? それはむしろ、わたしの方だし。てゆーか、熱烈なファンですけど。何がどうなって、そんな勘違いなされてるのかしら。そりゃあ、ヒロインとかに生まれていれば絶対タクト様とラブラブになりたいけど、わたしはただのモブだもの。まず相手にされないわ。
「でもタクト言ってたよ、君から告白されたって」
「はいぃ?」
「タクトの事好きだって言ったんでしょ?」
ひょっとして……声とか顔とかが好きだって話した事かしら。――――え、あれって告白した事になってるの!? 嘘でしょ。
「お声とか、その……確かにタクト様の全部が好きですとは言いましたけど……それは、その、憧れというか……」
「……ありゃ。タクトの早とちりか~なんだ、残念」
「逆にわたくしが本当に告白なんてしたら、タクト様にご迷惑かけるだけですわ。それ位は身をわきまえております」
「え、何で? だってタクトは君を好きだよ、何が迷惑なの?」
「へ……?」
今、なんて言った? タクト様がわたしを好き?
「あれ? それもまだ伝えてないのか、タクトの奴。何やってるんだよ~」
「あ、あの……スクト様」
「うん、なぁに?」
「僭越ながら、きっとスクト様の思い違いですわ。タクト様はわたくしの事をお友達としか思っておりませんよ」
「…………ふーん。なるほどね、これは手強いや」
「?」
スクト様は手を顎にやり、何かを考え込みながらわたしを見つめる。わたしは変な緊張で冷や汗ダラダラだ。
「まぁ、いいや。買い物の邪魔して悪かったね」
「あ、いえ……」
「多分、近い内に君の邸にタクトが行くかもしれない。宜しくね。じゃあ、僕はこれで失礼するよ」
そう言ってスクト様は手に持っていた数冊の本を抱えて、店主の居る店の奥の方へと消えて行った。タクト様が我が家に来るってどういう事だろう……。
数日振りに部屋の鏡を見たわたしは、自分の顔に溜息をつく。レオ様との婚約に泣き暮らして早五日。婚約の事を考えると、いくらだって涙は出て来るけど……一生泣いている訳にはいかない。所詮はモブなのだ。ゲームみたいにイケメンと恋に落ちて――――などと夢みたいな事が起こる訳ではない。別にイケメンじゃなくても良いんだけどね……レオ様じゃなければ、それだけで良い。
「はぁ…………」
タクト様と街を一緒に歩いたりしたの楽しかったなぁ。もうあんな素敵な事は起きないだろうな。モブはモブらしく生きるしかないよね。学園に入学すればタクト様達の事も眺めて過ごす事が出来るんだもの、それを楽しみに今は生きていこう。頬をペチペチと軽く叩いて気合を入れる。
「スワン、ちょっと気晴らしに外に出たいのだけど」
「お身体は大丈夫ですか、お嬢様。あまりお食事も摂れてらっしゃらないのに」
「うん、だからこそ、気晴らししたいのよ」
「畏まりました。では、どちらに?」
「本屋に行きたいわ」
素敵な恋愛小説でも読んで、物語の世界に浸りたい。現実逃避って大事な息抜きだもの。我が家の図書室にある恋愛小説はもう全部読んでしまったし、新しい本を幾つか買いに行こう。スワンが手早く馬車の用意をしてくれたので、わたしは少しウキウキとした気分で馬車に乗り込んだ。
◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆
「あれ? ひょっとして、ピスケリー嬢?」
本屋へ到着して早速、小説コーナーへと移動していた時、ふいに声を掛けられた。振り向けば馴染のある深いネイビーブルーの髪にローズレッドの瞳を輝かせて微笑む一人の美少年――。
「ス、スクトさ…ま」
タクト様の双子の弟であるスクト・ローゼン様がニコニコしながら近づいて来た。うわぁ……スクト様も凄くカッコいい。タクト様とそっくりなそのお顔にちょっとドキリとしてしまう。二人の違いは性格と、そして瞳の色――。タクト様は悪役令嬢のティアナ様とお揃いのコバルトブルーの瞳だ。
「やぁ、君とは話してみたかったんだよ~」
「え……」
ただのモブ令嬢のわたしにスクト様が一体何の用があるのだろう。理由が思い当たらなくて首を傾げると、クスリと笑われる。……笑い方は全然違うのよね、この二人。そういえば喋り方も若干違うわね。声はほぼ同じだけど……。
「タクトがやけに君にご執心みたいだから、どんな女性かな~と思ってね」
「そんな、とんでもないです。わたくしは、ただお友達になって頂いただけで……」
「……友達? あれ、じゃあタクトの片想いなのかな?」
かっ、片想いって!? それはむしろ、わたしの方だし。てゆーか、熱烈なファンですけど。何がどうなって、そんな勘違いなされてるのかしら。そりゃあ、ヒロインとかに生まれていれば絶対タクト様とラブラブになりたいけど、わたしはただのモブだもの。まず相手にされないわ。
「でもタクト言ってたよ、君から告白されたって」
「はいぃ?」
「タクトの事好きだって言ったんでしょ?」
ひょっとして……声とか顔とかが好きだって話した事かしら。――――え、あれって告白した事になってるの!? 嘘でしょ。
「お声とか、その……確かにタクト様の全部が好きですとは言いましたけど……それは、その、憧れというか……」
「……ありゃ。タクトの早とちりか~なんだ、残念」
「逆にわたくしが本当に告白なんてしたら、タクト様にご迷惑かけるだけですわ。それ位は身をわきまえております」
「え、何で? だってタクトは君を好きだよ、何が迷惑なの?」
「へ……?」
今、なんて言った? タクト様がわたしを好き?
「あれ? それもまだ伝えてないのか、タクトの奴。何やってるんだよ~」
「あ、あの……スクト様」
「うん、なぁに?」
「僭越ながら、きっとスクト様の思い違いですわ。タクト様はわたくしの事をお友達としか思っておりませんよ」
「…………ふーん。なるほどね、これは手強いや」
「?」
スクト様は手を顎にやり、何かを考え込みながらわたしを見つめる。わたしは変な緊張で冷や汗ダラダラだ。
「まぁ、いいや。買い物の邪魔して悪かったね」
「あ、いえ……」
「多分、近い内に君の邸にタクトが行くかもしれない。宜しくね。じゃあ、僕はこれで失礼するよ」
そう言ってスクト様は手に持っていた数冊の本を抱えて、店主の居る店の奥の方へと消えて行った。タクト様が我が家に来るってどういう事だろう……。
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