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第二章

炭鉱の町にて アーサーSide

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「戻りました」

 そう言って馬車に乗り込んできたのは僕の側近であるジョエル・ネリネ。クーデター事件の刑罰としてザッカリー・バーベンスはこの炭鉱の町の女装専門の店で働かされている。そんなザッカリーの様子を見に行ったジョエルだったけど、何だかあまり面白くなさそうな表情で帰って来た様だ。

「どうかした? 随分と仏頂面してるけど」
「いえ、別に……」

 言葉を濁し押し黙るジョエル。何だろう、何が気に入らないのだろう。走り出した馬車の中で暫く返答の続きを待ってみると眉間にしわを寄せながら右手でクイッと眼鏡のズレを直し、そして不機嫌さを隠しもせずに僕を見た。

「殿下、少しの間だけ“ただの幼馴染”として話を聞いてくれますか?」
「うん、いいよ」

 普段は王子と側近としての態度を取っている僕らだけど、元々は幼い頃からの仲だ。僕にとっては一番の親友だと思っている。

「有難う御座います。…………ザッカリーの処罰が甘すぎじゃないかと。俺はもっと色々と痛めつけるべきだと思うんだ」
「そう? あの処罰もなかなかな屈辱だと思うけど。僕だったらやりたくないなぁ」
「最初の内はそうかもしれないが段々と慣れて来たら罰にもなりゃしない」
「大丈夫だよ、あの店に居るのも暫くの間だけで慣れて来た頃には次の刑罰へ移行するから」
「え、そうなのか?」

 そうなのだ。現在のあの処罰はただの前菜みたいなものだったりする。慣れて来た頃には父親のバーベンス元公爵と同じく炭鉱作業の方へと回され、そこでボロボロになる位に働かされた後、最終的にはわずかな食事だけ与えられるだけの牢獄へと幽閉されるのだ。

「まぁ、ジョエルが思っている程甘くは済まないから。ちゃんと消える事になるから安心して」
「……なんか、時々お前って怖いと感じる時があるわ。やっぱりあのアルスト殿下の弟なんだな」
「え~? やだなぁ、僕はとっても優しい王子様だよ」
「はいはい」

 冷ややかな返事を返すジョエルに僕は不貞腐れた振りをして見せる。

「夜も冷えて来たね、もうすぐ雪が降りそうだ」

 馬車の窓から流れる景色へと視線をやり、街灯がポツリポツリと照らし始めた街並みを眺める。ジョエルもその景色へと視線を向ける。

 兄上ほど狡猾では無いにせよ、僕だって王族の一人だ。第二王子の僕は、何かあった時の為に兄上の代わりも務まる様にとそれなりに王子教育だって受けて生きて来た。優しい、甘いだけじゃ生きてはいけない世界なのだ。それは貴族以上に。

 でも……。

「兄上には感謝だな……」

 ジョエルには聞こえない大きさの声でポツリとそう呟く。王族の僕には叶う事なんてないと思っていた“愛する人との縁談”を手に入れる事が出来たのは、僕の人生において非常に喜ばしい事だ。兄上の弟で、王族で本当に良かったと思った。

 帰ったらロメリアンヌに手紙を書こうかな。彼女をデートに誘って、沢山沢山喜ぶ顔を見たい。あぁ、どう誘ったら良いかな。そして何処へ行こう。

 そんな思考を巡らせながら僕は王都へ向かう馬車に揺られるのだった。
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