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第二章

バハム邸 アルストSide

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 「はぁ……迂闊だった……」

 俺は今、鉄格子が掛かった薄暗い部屋の中に居る。ティアナが尋ねて来てくれた日。父上からの呼び出しの為、デペッシュの後について謁見の間へと向かっていた。久々にティアナに会えて浮かれていた事は否めない。謁見の間に到着し、部屋の中へと入った時……一瞬何か違和感を感じた。

 感じた――が、時既に遅し。足元に描かれていた錬金術用の錬成陣が展開し、気が付けばここ……この薄暗い牢の中へと転移されていた。転移させられる直前、傍に居たデペッシュがニヤリと笑ったのが見えた。いつすり替わったのか知らないが、あのデペッシュは偽物だったのだろう。

 王族には魔法封じの血が流れていて自身に魔法はかかる事はないのだが、錬金術は別物なので厄介だ。俺自身をこの部屋へと転移させれた……という事は、その代わりに元居た謁見の間には俺の対価に見合った“何か”が送り込まれたのだろう。確か前世で妹がプレイしていたゲームの中でと似たシーンを見た事があった。そう――ここは確かバハム邸だ。

 アクションゲームが苦手な妹に頼まれてこのバハム邸の部分だけ、俺がプレイしてやったのだが……乙女ゲームだというのに出て来る魔物達がアンデッド系でなかなか手強かった覚えがある。王子の癖に簡単に攫われてんじゃねーよ、なんて当時は思っていたが……実際こうして自分が攫われているんだから笑えない。

 「……魔法は……使えない、か」

 自身に備わっている光魔法を使ってみたが発動しない。ゲームでは救出に来たヒロインと協力者達は普通に魔法も使って魔物と闘っていたから、この牢の中だけが何故か魔法が使えないのかもしれない。

 ガンッ! ガンッガンッ!!

「くっそ、何て硬い柵なんだ!」

 少し離れた場所から金属と金属がぶつかる音と、聞き慣れた声が聞こえて来た。

「――タクト!? おいっ、タクト居るのか?」
「アル!?」

 俺の問いにタクトの声がすぐさま返ってきた。どうやらタクトも別の牢の中へと閉じ込められている様子だ。

「この柵をぶった切ろうとしてるんだけど、全然歯が立たねぇ!」
「あー……そうだろうね、魔法も効かないよ」

 さっきの音はタクトが剣を持って暴れていた音だった様だ。普通に考えてこの太い柵を剣で斬るだなんて出来る筈がない。タクトらしいといえばタクトらしいが……。

「アル殿下! あなたも牢の中に居るのですか!?」

 今度はスクトの声だ。

「あぁ、そうだ」
「殿下はお一人ですか? こっちはタクトと一緒の牢に居ます」
「そうか……俺は一人だけだ」

 近くにタクトとスクトが居る事で少し安堵した。だが何も解決した訳ではない。ここから何とかして脱出をしなければならない。以前、同じ転生者仲間から得たこのゲームの情報を出来るだけ思い出してみる。本来ならこのバハム邸から脱出した後に、バーベンス公爵のクーデターが起こったのだが何故か先にクーデターの方が起こった。おかしいとは思いつつも起こってしまったクーデターの方を対処した。まさかその事後処理中にこっちの事件が起こるとは思わなかった。

「――月」

 牢の上部にある格子付きの小さな窓に浮かぶ月を見上げる。雲の切れ間から時折覗くのは三日月だ。

「そうだ……月、だ」

 ヒロインの聖魔法が一番威力を増す満月の日にバハム邸への救出は決行されていた事を思い出した。だがヒロインは今、修道院に居る。このまま大人しく救出を待っていて良いのだろうか。

「……いや、きっとアイツなら何とかする筈だ」

 ラベンダーカラーの髪の少女の顔を思い浮かべた。彼女はタクトの婚約者ではあるが、実は俺とは転生者仲間として親しくしている。まぁ、この事をタクトは知らないのだが。

「タクト、スクト! 満月まで暫く大人しく様子を伺う。それ迄に危うそうなら何としてでも脱出をするが、取り敢えずは相手の動きを伺おう」
「は? 何言ってるんだよ、こんな所すぐに出れば良いだろ」
「いや、ここはアンデッドの巣窟だ。この柵もそう簡単には出られないし、外に出るには俺達では開けれない扉があるんだ」
「なんだよソレ……」
「殿下はここが何処だかご存知なのですね? 分かりました大人しく待ちましょう」
「……っだよ、分かったよ」

 ドカッとタクトの座り込む音が聞こえた。俺は小さな窓から外を見上げて小さく溜息をついた。面倒な事になったな、マジで。
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