23 / 35
入学式を迎えて
しおりを挟む
あれからまた季節は巡り、エミリアもとうとう王都にある王立ストーン学園への入学を迎えた。
馬車の中から不安げに窓の外を覗いては小さく溜息をつく。
ゲームのシナリオが始まるかもしれない。サルビアも前世の記憶を取り戻したかもしれない……そんな不安が胸の中を掻き乱す一方で、これからは沢山イアンの姿を見る事が出来るという嬉しさもあって、どうにも馬車の中でも落ち着かないのだ。
「大丈夫だよリア、悪役令嬢になんてならないって」
一緒に馬車に乗っているエドワードお兄様が、いつもの様に励ましてくれる。本来なら二年生は明日からの登校だが、イアンと共に生徒会役員となったお兄様は入学式に出席されるらしい。
「そんなの、まだ分かりませんわ。これからが本番ですもの」
「どうやったらリアは安心するのかな……」
「……ヒロインが居ないと確信する迄は無理ですわ」
「うーん」
あの茶会からの約一年ちょっと。自分なりに色々考えて、それこそ色々準備をした。万が一の為に持ち出せる金貨や宝石類もすぐに持って逃げれる様に用意してある。
メイクの練習もして詐欺まがいの変装メイク技術も取得した。前世で沢山コスプレしてたから一応服も縫えるし、料理も洗濯も前世の経験があるからバッチリだ。一人暮らししてて良かった、ありがとう前世のお父さん、お母さん!
パトリックやフランシスとの関係も良好なままだし、イアンとも仲が悪くなった訳じゃない。ただ、イアンが多忙過ぎてなかなか会えなくなっただけ。
(あまりにも寂し過ぎて一度だけお城の前まで行ってしまった事は誰にも秘密ですわ)
「さぁ、そろそろ着くよ。多分イアンが出迎えに来てる筈」
「えっ」
まさか学園に到着早々イアンに会えるだなんて思っていなかったので単純に驚いたと同時に胸が高鳴った。
チラッと窓の隅から外を覗いてみると馬車止めに煌びやかな人影が見えた。あのキラキラさはイアンだ。馬車が止まると外側から扉が開かれ、イアンが手を差し伸べる姿が見えた。
「リア、降りておいで」
落ち着いた優しいイアンの声にエミリアはポッと頬を赤らめた。自分の為にわざわざ出迎えに来てくれるなんて、なんて幸せなのだろう。
「はい」
そっと手を伸ばそうとした時、少し離れた所から「きゃっ!?」と小さな悲鳴が上がった。何事かと視線をそちらに向かせると同時に一人の女子生徒がイアンの腕の中へと飛び込んで来た。
慌ててイアンが抱き止めた相手はなんとサルビアだった。どうやら躓いて転ぶ所だったらしい。抱き止められたサルビアとイアンが一瞬見つめ合う形となり、エミリアは息を呑んでその光景を見るしか出来なかった。
――それはまるでゲームのヒロインが攻略対象者である王太子との出会いイベントみたいなシーンだった。
「ご、ごめんなさい。誰かに背中を押されてしまって……」
「いや、怪我がないのなら良い」
馬車の入口で固まるエミリアの背後からするりと抜け出たエドワードがあっという間にサルビアをイアンから離し、二人の間に割って入った。
「警備の者は何をしているんだ、聖女殿をあちらへ」
「ハッ! 失礼致しました!」
少し離れた所には次々と馬車から降りた生徒達の姿があり、そこへ連れて行かれたサルビアは友人らしき女子生徒と合流した。しきりに首をかしげながらその友人へ何か弁明している。
「殿下、お怪我などはありませんか?」
「あぁ、大丈夫だ。少々驚いただけだ」
あまりの出来事に動揺しかけていたエミリアだったが、ハッと我に帰り何も気にしてない振りをしながら一人で馬車から降りた。
(平気平気、これくらい想定内じゃない。今は平常心を保たなきゃ)
本当は全然平気などではなかったが、ここで取り乱しては公爵令嬢の名が廃る。ましてやサルビアに注意でもしたら、それこそ悪役令嬢みたいだ。
「あ、リア」
エミリアを放置していた事を思い出したのか、イアンが声を掛ける。それに応えるかの様にエミリアはゆっくりとカーテシーをして見せた。
「お出迎え頂きありがとう御座います、イアン殿下」
「あ、うん」
「早速ですが案内して頂けます? イアンもあまり時間がありませんでしょう?」
「……分かった、そうしよう」
改めてイアンはエミリアの手を取り、ざわつく生徒たちの間をすり抜けて入学式の行われるホールへと歩き出した。エドワードが先導してはいたが自然と道は開かれ、難無く三人はホールに到着する事が出来た。
「改めて入学おめでとう、リア。これからは学園で会えると思うと嬉しいよ」
「ありがとう御座います。わたくしも楽しみにしております」
そう答えはするものの心は曇ったままだ。エミリアが強がって平気な振りをしている事なんて、イアンやお兄様にはバレているだろう。
「……では、私達はそろそろ行くが大丈夫か?」
「もう子供じゃありませんわ、一人でも大丈夫に決まっているじゃありませんか」
「ん……そうだな」
去り際に頭を軽くポンポンとされて思わず泣きそうになった。慌てて笑顔を作り二人を見送る。
(胸が苦しいですわ……初日からこれでは負けてしまいますわ)
さっきのでサルビアがヒロインではないかとの考えは強くなった。
(イアンの腕の中にわたくし以外の女性が居るだなんて、もう二度と見たくありませんわ。けどイアンがそれを選んだ場合は……)
考えたくは無い未来の図に溜息をもらす。出来るならこのまま、イアンの傍に居させて欲しいと願うエミリアだった。
馬車の中から不安げに窓の外を覗いては小さく溜息をつく。
ゲームのシナリオが始まるかもしれない。サルビアも前世の記憶を取り戻したかもしれない……そんな不安が胸の中を掻き乱す一方で、これからは沢山イアンの姿を見る事が出来るという嬉しさもあって、どうにも馬車の中でも落ち着かないのだ。
「大丈夫だよリア、悪役令嬢になんてならないって」
一緒に馬車に乗っているエドワードお兄様が、いつもの様に励ましてくれる。本来なら二年生は明日からの登校だが、イアンと共に生徒会役員となったお兄様は入学式に出席されるらしい。
「そんなの、まだ分かりませんわ。これからが本番ですもの」
「どうやったらリアは安心するのかな……」
「……ヒロインが居ないと確信する迄は無理ですわ」
「うーん」
あの茶会からの約一年ちょっと。自分なりに色々考えて、それこそ色々準備をした。万が一の為に持ち出せる金貨や宝石類もすぐに持って逃げれる様に用意してある。
メイクの練習もして詐欺まがいの変装メイク技術も取得した。前世で沢山コスプレしてたから一応服も縫えるし、料理も洗濯も前世の経験があるからバッチリだ。一人暮らししてて良かった、ありがとう前世のお父さん、お母さん!
パトリックやフランシスとの関係も良好なままだし、イアンとも仲が悪くなった訳じゃない。ただ、イアンが多忙過ぎてなかなか会えなくなっただけ。
(あまりにも寂し過ぎて一度だけお城の前まで行ってしまった事は誰にも秘密ですわ)
「さぁ、そろそろ着くよ。多分イアンが出迎えに来てる筈」
「えっ」
まさか学園に到着早々イアンに会えるだなんて思っていなかったので単純に驚いたと同時に胸が高鳴った。
チラッと窓の隅から外を覗いてみると馬車止めに煌びやかな人影が見えた。あのキラキラさはイアンだ。馬車が止まると外側から扉が開かれ、イアンが手を差し伸べる姿が見えた。
「リア、降りておいで」
落ち着いた優しいイアンの声にエミリアはポッと頬を赤らめた。自分の為にわざわざ出迎えに来てくれるなんて、なんて幸せなのだろう。
「はい」
そっと手を伸ばそうとした時、少し離れた所から「きゃっ!?」と小さな悲鳴が上がった。何事かと視線をそちらに向かせると同時に一人の女子生徒がイアンの腕の中へと飛び込んで来た。
慌ててイアンが抱き止めた相手はなんとサルビアだった。どうやら躓いて転ぶ所だったらしい。抱き止められたサルビアとイアンが一瞬見つめ合う形となり、エミリアは息を呑んでその光景を見るしか出来なかった。
――それはまるでゲームのヒロインが攻略対象者である王太子との出会いイベントみたいなシーンだった。
「ご、ごめんなさい。誰かに背中を押されてしまって……」
「いや、怪我がないのなら良い」
馬車の入口で固まるエミリアの背後からするりと抜け出たエドワードがあっという間にサルビアをイアンから離し、二人の間に割って入った。
「警備の者は何をしているんだ、聖女殿をあちらへ」
「ハッ! 失礼致しました!」
少し離れた所には次々と馬車から降りた生徒達の姿があり、そこへ連れて行かれたサルビアは友人らしき女子生徒と合流した。しきりに首をかしげながらその友人へ何か弁明している。
「殿下、お怪我などはありませんか?」
「あぁ、大丈夫だ。少々驚いただけだ」
あまりの出来事に動揺しかけていたエミリアだったが、ハッと我に帰り何も気にしてない振りをしながら一人で馬車から降りた。
(平気平気、これくらい想定内じゃない。今は平常心を保たなきゃ)
本当は全然平気などではなかったが、ここで取り乱しては公爵令嬢の名が廃る。ましてやサルビアに注意でもしたら、それこそ悪役令嬢みたいだ。
「あ、リア」
エミリアを放置していた事を思い出したのか、イアンが声を掛ける。それに応えるかの様にエミリアはゆっくりとカーテシーをして見せた。
「お出迎え頂きありがとう御座います、イアン殿下」
「あ、うん」
「早速ですが案内して頂けます? イアンもあまり時間がありませんでしょう?」
「……分かった、そうしよう」
改めてイアンはエミリアの手を取り、ざわつく生徒たちの間をすり抜けて入学式の行われるホールへと歩き出した。エドワードが先導してはいたが自然と道は開かれ、難無く三人はホールに到着する事が出来た。
「改めて入学おめでとう、リア。これからは学園で会えると思うと嬉しいよ」
「ありがとう御座います。わたくしも楽しみにしております」
そう答えはするものの心は曇ったままだ。エミリアが強がって平気な振りをしている事なんて、イアンやお兄様にはバレているだろう。
「……では、私達はそろそろ行くが大丈夫か?」
「もう子供じゃありませんわ、一人でも大丈夫に決まっているじゃありませんか」
「ん……そうだな」
去り際に頭を軽くポンポンとされて思わず泣きそうになった。慌てて笑顔を作り二人を見送る。
(胸が苦しいですわ……初日からこれでは負けてしまいますわ)
さっきのでサルビアがヒロインではないかとの考えは強くなった。
(イアンの腕の中にわたくし以外の女性が居るだなんて、もう二度と見たくありませんわ。けどイアンがそれを選んだ場合は……)
考えたくは無い未来の図に溜息をもらす。出来るならこのまま、イアンの傍に居させて欲しいと願うエミリアだった。
39
お気に入りに追加
1,093
あなたにおすすめの小説
転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています
平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。
生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。
絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。
しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
そして乙女ゲームは始まらなかった
お好み焼き
恋愛
気付いたら9歳の悪役令嬢に転生してました。前世でプレイした乙女ゲームの悪役キャラです。悪役令嬢なのでなにか悪さをしないといけないのでしょうか?しかし私には誰かをいじめる趣味も性癖もありません。むしろ苦しんでいる人を見ると胸が重くなります。
一体私は何をしたらいいのでしょうか?
乙女ゲーのモブデブ令嬢に転生したので平和に過ごしたい
ゆの
恋愛
私は日比谷夏那、18歳。特に優れた所もなく平々凡々で、波風立てずに過ごしたかった私は、特に興味のない乙女ゲームを友人に強引に薦められるがままにプレイした。
だが、その乙女ゲームの各ルートをクリアした翌日に事故にあって亡くなってしまった。
気がつくと、乙女ゲームに1度だけ登場したモブデブ令嬢に転生していた!!特にゲームの影響がない人に転生したことに安堵した私は、ヒロインや攻略対象に関わらず平和に過ごしたいと思います。
だけど、肉やお菓子より断然大好きなフルーツばっかりを食べていたらいつの間にか痩せて、絶世の美女に…?!
平和に過ごしたい令嬢とそれを放って置かない攻略対象達の平和だったり平和じゃなかったりする日々が始まる。
悪役令嬢に転生したと思ったら悪役令嬢の母親でした~娘は私が責任もって育てて見せます~
平山和人
恋愛
平凡なOLの私は乙女ゲーム『聖と魔と乙女のレガリア』の世界に転生してしまう。
しかも、私が悪役令嬢の母となってしまい、ゲームをめちゃくちゃにする悪役令嬢「エレローラ」が生まれてしまった。
このままでは我が家は破滅だ。私はエレローラをまともに教育することを決心する。
教育方針を巡って夫と対立したり、他の貴族から嫌われたりと辛い日々が続くが、それでも私は母として、頑張ることを諦めない。必ず娘を真っ当な令嬢にしてみせる。これは娘が悪役令嬢になってしまうと知り、奮闘する母親を描いたお話である。
ヤンデレお兄様に殺されたくないので、ブラコンやめます!(長編版)
夕立悠理
恋愛
──だって、好きでいてもしかたないもの。
ヴァイオレットは、思い出した。ここは、ロマンス小説の世界で、ヴァイオレットは義兄の恋人をいじめたあげくにヤンデレな義兄に殺される悪役令嬢だと。
って、むりむりむり。死ぬとかむりですから!
せっかく転生したんだし、魔法とか気ままに楽しみたいよね。ということで、ずっと好きだった恋心は封印し、ブラコンをやめることに。
新たな恋のお相手は、公爵令嬢なんだし、王子様とかどうかなー!?なんてうきうきわくわくしていると。
なんだかお兄様の様子がおかしい……?
※小説になろうさまでも掲載しています
※以前連載していたやつの長編版です
執着系王子にはもううんざりです
高緋ぴお
恋愛
私の名は、ルミネ。カリフォード王国の第二王女で、隣国、バルフォルナ王国の第一王子と婚約することになったの。
初めてのお見合いではとっても素敵で見惚れちゃってた、のに。
実は、彼、とんでもない執着系王子でした・・・・。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる