6 / 35
エミリア イアンを説得してみる
しおりを挟む
「どう説明したら理解して頂けるか自信はないのですけど……」
ポツリ、ポツリと慎重に言葉を選びつつ、わたくしは状況を説明し始めた。前世の記憶を持っている事、そしてその前世ではここみたいな「ゲーム」の世界に転生してしまう物語が流行っていた事、周りの環境から考えるとどうやら転生してしまったと確信出来る事が非常に多い事。そしてこの世界でも最近人気のある舞台演劇の物語同様に、悪役令嬢という立場の転生がいかに危険な状態なのかという事。
わたくしは包み隠さずイアンへと打ち明けた。子供の幻想か妄想だと言われてしまう可能性は大きかったけど、下手に嘘をついてもきっと頭の良いイアンにはバレてしまうだろう。それならいっその事、頭がおかしいと思われても構わないと開き直った。
(むしろそう思われたら王太子妃には無理だと判断されて婚約がなくなるかもしれないし)
イアンは黙ってわたくしの話が終わるまで聞いてくれていた。わたくしが話し終えると「ふむ……」と真面目な顔で腕を組み、暫く何かを思案していた。
「ねぇ、リア」
「は、はいっ」
「その話は私以外の誰かにも話した?」
「えっと、エドワードお兄様に少しだけ……」
実は記憶が戻ってすぐにお兄様には相談していた。非常に驚いた顔をされたけど否定もされず「そんな事にはならないから大丈夫だよ」と言われた。
「そうか、なら今後も私とエド以外には話してはいけないよ。約束出来る?」
「はい」
言われなくても所かまわずこんな話をして回るつもりはない。それこそ頭がおかしいと思われてしまう。
「ヒロインに悪役令嬢ねぇ……うーん……それって私がそのヒロインとやらに浮気するって事だよね?」
「ま、まぁ……その、そもそも前提として王子様は悪役令嬢の事を好きではないので、浮気ではないのですが」
「私はリアが好きなのだよ?」
「う……」
何の恥じらいもなく真顔で好きと言われてしまい赤面する。
「これでも誠実なつもりだ。愛する婚約者が居るのに他の女にうつつを抜かすとは思えないが……」
「十年くらい先の事なので……殿下もわたくしに飽きられてるかもしれませんし」
「飽きる? それこそあり得ない話だが……こんなに可愛らしいリアに飽きるなんて」
そう言いながらイアンの右手がわたくしの髪へと触れる。今日のわたくしもメイドの頑張りのお陰でふんわりウェーブヘアだ。うっとりとした表情で髪を撫で口元に笑みを浮かべる。
(んなっ!! こんな至近距離でその表情は困る!)
「あり得はしないが、万が一そうなる未来があったとしてだな。例え他に心を寄せる女が現れたとしても、一国の王太子が皆の前で婚約破棄宣言をしたりしたらまず廃嫡されるのが関の山だろう。そんなバカ王子が居てたまるか」
(そうですよねー。けど残念ながら、こういった世界には沢山居るんですよ……)
「現時点ではそのヒロインとやらも実在するのか分かってはいないのだろ?」
「そうですけど……わたくし、無実なのに断罪とか処刑とか絶対嫌なんです。だから殿下の婚約者は困るんです」
「……私との婚約を解消して、リアは他の男に嫁ぐつもりか?」
「だって、それしか方法が……」
「許す事は出来ないな」
イアンの声が低くなった。
「あ……の、……」
やはり怒らせてしまったか。いくらイアンが話を聞いてくれているとは言え、王族である彼に対して話してはいけない事だったかもしれない。もしかしたら今、この場で不敬罪で罪を問われる結末か。
後悔で胸を一杯にしているとイアンはわたくしの両手を取り、強く握りしめて自身の身体を少し寄せて来た。互いの顔が物凄く近くになる。
「私はリアを手離す気は全くない」
「……」
「リアが嫌だろうが不安がろうが婚約関係は継続する。そして十年後にリアの心配事が杞憂であったと証明してみせよう」
「殿下……」
「何があっても断罪や処刑になどさせない。もしそうなるのであれば何としてでもリアを国外に逃がしてやる」
「……どうして、そこまで想って下さるのですか。わたくしは、まだそこまでのお気持ちに応える準備が出来ておりません」
「それはそうだろう、昨日いきなり私が想いを伝えたのだ。大丈夫だ、ゆっくり好きになってくれればよい」
真っ直ぐな想いに心が揺さぶられる。貴方の目の前に居るのは冤罪とはいえ将来罪を犯すかもしれない悪役令嬢なんだよ? それにきっとヒロインの事を好きになってしまうに決まっている。
「……逃げるかもしれませんよ?」
「私から逃げれると思うのなら試してみるがいい、無駄な抵抗になるだけだ」
「す、好きにだってならないかもしれない」
「それは無理だな、私はリアを堕とすと決めている」
「……自信過剰」
「悪いが自信しかないし、それだけの度量は持っている」
何をいってもこの人は婚約破棄などしてくれそうにないと悟る。イアンを説得するのは無理だと分かったわたくしは、取り敢えず大人しく婚約者でいる事を受け入れた。
たいそうご機嫌で邸から去って行ったイアンを見送りながら、わたくしは溜息をついた。
(留学も領地での引き籠りもダメ、イアンとの婚約破棄も絶望的……どうしよう)
くよくよしていても仕方ない。次の対策を考えるしかないのだ。あと十年あるのだ、出来る事からやっていこう。
(そうなると……攻略対象者らしき人物とは接点を持たないのが一番だけど、嫌われるのは得策じゃない筈。一人でも味方は多くしておかなければ、ですわ!)
そう思ったわたくしは、近所に住む幼馴染みからまず味方につけようと彼の家に訪問伺いの手紙を送る事にした。
ポツリ、ポツリと慎重に言葉を選びつつ、わたくしは状況を説明し始めた。前世の記憶を持っている事、そしてその前世ではここみたいな「ゲーム」の世界に転生してしまう物語が流行っていた事、周りの環境から考えるとどうやら転生してしまったと確信出来る事が非常に多い事。そしてこの世界でも最近人気のある舞台演劇の物語同様に、悪役令嬢という立場の転生がいかに危険な状態なのかという事。
わたくしは包み隠さずイアンへと打ち明けた。子供の幻想か妄想だと言われてしまう可能性は大きかったけど、下手に嘘をついてもきっと頭の良いイアンにはバレてしまうだろう。それならいっその事、頭がおかしいと思われても構わないと開き直った。
(むしろそう思われたら王太子妃には無理だと判断されて婚約がなくなるかもしれないし)
イアンは黙ってわたくしの話が終わるまで聞いてくれていた。わたくしが話し終えると「ふむ……」と真面目な顔で腕を組み、暫く何かを思案していた。
「ねぇ、リア」
「は、はいっ」
「その話は私以外の誰かにも話した?」
「えっと、エドワードお兄様に少しだけ……」
実は記憶が戻ってすぐにお兄様には相談していた。非常に驚いた顔をされたけど否定もされず「そんな事にはならないから大丈夫だよ」と言われた。
「そうか、なら今後も私とエド以外には話してはいけないよ。約束出来る?」
「はい」
言われなくても所かまわずこんな話をして回るつもりはない。それこそ頭がおかしいと思われてしまう。
「ヒロインに悪役令嬢ねぇ……うーん……それって私がそのヒロインとやらに浮気するって事だよね?」
「ま、まぁ……その、そもそも前提として王子様は悪役令嬢の事を好きではないので、浮気ではないのですが」
「私はリアが好きなのだよ?」
「う……」
何の恥じらいもなく真顔で好きと言われてしまい赤面する。
「これでも誠実なつもりだ。愛する婚約者が居るのに他の女にうつつを抜かすとは思えないが……」
「十年くらい先の事なので……殿下もわたくしに飽きられてるかもしれませんし」
「飽きる? それこそあり得ない話だが……こんなに可愛らしいリアに飽きるなんて」
そう言いながらイアンの右手がわたくしの髪へと触れる。今日のわたくしもメイドの頑張りのお陰でふんわりウェーブヘアだ。うっとりとした表情で髪を撫で口元に笑みを浮かべる。
(んなっ!! こんな至近距離でその表情は困る!)
「あり得はしないが、万が一そうなる未来があったとしてだな。例え他に心を寄せる女が現れたとしても、一国の王太子が皆の前で婚約破棄宣言をしたりしたらまず廃嫡されるのが関の山だろう。そんなバカ王子が居てたまるか」
(そうですよねー。けど残念ながら、こういった世界には沢山居るんですよ……)
「現時点ではそのヒロインとやらも実在するのか分かってはいないのだろ?」
「そうですけど……わたくし、無実なのに断罪とか処刑とか絶対嫌なんです。だから殿下の婚約者は困るんです」
「……私との婚約を解消して、リアは他の男に嫁ぐつもりか?」
「だって、それしか方法が……」
「許す事は出来ないな」
イアンの声が低くなった。
「あ……の、……」
やはり怒らせてしまったか。いくらイアンが話を聞いてくれているとは言え、王族である彼に対して話してはいけない事だったかもしれない。もしかしたら今、この場で不敬罪で罪を問われる結末か。
後悔で胸を一杯にしているとイアンはわたくしの両手を取り、強く握りしめて自身の身体を少し寄せて来た。互いの顔が物凄く近くになる。
「私はリアを手離す気は全くない」
「……」
「リアが嫌だろうが不安がろうが婚約関係は継続する。そして十年後にリアの心配事が杞憂であったと証明してみせよう」
「殿下……」
「何があっても断罪や処刑になどさせない。もしそうなるのであれば何としてでもリアを国外に逃がしてやる」
「……どうして、そこまで想って下さるのですか。わたくしは、まだそこまでのお気持ちに応える準備が出来ておりません」
「それはそうだろう、昨日いきなり私が想いを伝えたのだ。大丈夫だ、ゆっくり好きになってくれればよい」
真っ直ぐな想いに心が揺さぶられる。貴方の目の前に居るのは冤罪とはいえ将来罪を犯すかもしれない悪役令嬢なんだよ? それにきっとヒロインの事を好きになってしまうに決まっている。
「……逃げるかもしれませんよ?」
「私から逃げれると思うのなら試してみるがいい、無駄な抵抗になるだけだ」
「す、好きにだってならないかもしれない」
「それは無理だな、私はリアを堕とすと決めている」
「……自信過剰」
「悪いが自信しかないし、それだけの度量は持っている」
何をいってもこの人は婚約破棄などしてくれそうにないと悟る。イアンを説得するのは無理だと分かったわたくしは、取り敢えず大人しく婚約者でいる事を受け入れた。
たいそうご機嫌で邸から去って行ったイアンを見送りながら、わたくしは溜息をついた。
(留学も領地での引き籠りもダメ、イアンとの婚約破棄も絶望的……どうしよう)
くよくよしていても仕方ない。次の対策を考えるしかないのだ。あと十年あるのだ、出来る事からやっていこう。
(そうなると……攻略対象者らしき人物とは接点を持たないのが一番だけど、嫌われるのは得策じゃない筈。一人でも味方は多くしておかなければ、ですわ!)
そう思ったわたくしは、近所に住む幼馴染みからまず味方につけようと彼の家に訪問伺いの手紙を送る事にした。
25
お気に入りに追加
1,093
あなたにおすすめの小説
転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています
平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。
生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。
絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。
しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
そして乙女ゲームは始まらなかった
お好み焼き
恋愛
気付いたら9歳の悪役令嬢に転生してました。前世でプレイした乙女ゲームの悪役キャラです。悪役令嬢なのでなにか悪さをしないといけないのでしょうか?しかし私には誰かをいじめる趣味も性癖もありません。むしろ苦しんでいる人を見ると胸が重くなります。
一体私は何をしたらいいのでしょうか?
乙女ゲーのモブデブ令嬢に転生したので平和に過ごしたい
ゆの
恋愛
私は日比谷夏那、18歳。特に優れた所もなく平々凡々で、波風立てずに過ごしたかった私は、特に興味のない乙女ゲームを友人に強引に薦められるがままにプレイした。
だが、その乙女ゲームの各ルートをクリアした翌日に事故にあって亡くなってしまった。
気がつくと、乙女ゲームに1度だけ登場したモブデブ令嬢に転生していた!!特にゲームの影響がない人に転生したことに安堵した私は、ヒロインや攻略対象に関わらず平和に過ごしたいと思います。
だけど、肉やお菓子より断然大好きなフルーツばっかりを食べていたらいつの間にか痩せて、絶世の美女に…?!
平和に過ごしたい令嬢とそれを放って置かない攻略対象達の平和だったり平和じゃなかったりする日々が始まる。
【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。
早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。
宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。
彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。
加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。
果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?
悪役令嬢に転生したと思ったら悪役令嬢の母親でした~娘は私が責任もって育てて見せます~
平山和人
恋愛
平凡なOLの私は乙女ゲーム『聖と魔と乙女のレガリア』の世界に転生してしまう。
しかも、私が悪役令嬢の母となってしまい、ゲームをめちゃくちゃにする悪役令嬢「エレローラ」が生まれてしまった。
このままでは我が家は破滅だ。私はエレローラをまともに教育することを決心する。
教育方針を巡って夫と対立したり、他の貴族から嫌われたりと辛い日々が続くが、それでも私は母として、頑張ることを諦めない。必ず娘を真っ当な令嬢にしてみせる。これは娘が悪役令嬢になってしまうと知り、奮闘する母親を描いたお話である。
ヤンデレお兄様に殺されたくないので、ブラコンやめます!(長編版)
夕立悠理
恋愛
──だって、好きでいてもしかたないもの。
ヴァイオレットは、思い出した。ここは、ロマンス小説の世界で、ヴァイオレットは義兄の恋人をいじめたあげくにヤンデレな義兄に殺される悪役令嬢だと。
って、むりむりむり。死ぬとかむりですから!
せっかく転生したんだし、魔法とか気ままに楽しみたいよね。ということで、ずっと好きだった恋心は封印し、ブラコンをやめることに。
新たな恋のお相手は、公爵令嬢なんだし、王子様とかどうかなー!?なんてうきうきわくわくしていると。
なんだかお兄様の様子がおかしい……?
※小説になろうさまでも掲載しています
※以前連載していたやつの長編版です
執着系王子にはもううんざりです
高緋ぴお
恋愛
私の名は、ルミネ。カリフォード王国の第二王女で、隣国、バルフォルナ王国の第一王子と婚約することになったの。
初めてのお見合いではとっても素敵で見惚れちゃってた、のに。
実は、彼、とんでもない執着系王子でした・・・・。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる