5 / 10
変態王子Side 侍女と従者の恋物語②
しおりを挟む
あれから数日経ったある日、あたしは王都の街へと来ていた。今日はマイリーがデペッシュ卿とデートする日だ。マイリーから事前に行先を聞いており、二人が待ち合わせているカフェの前で殿下の姿を探してみる。
「あ、あれじゃないですかね。お嬢様」
護衛に連れて来た我が公爵家の護衛騎士の一人、ファブルがある一点を指差した。その指が向かう方向を見てみると、ブラウンカラーの丈の長いコートに、ケープを合わせたいわゆるインバネスコートに身を包んだ一人の男性らしき姿が見えた。頭には鹿撃ち帽を被り、口にはパイプらしきものを咥え……そして何故だか分からないけど、手には虫眼鏡を持っている。
……なんだろう、あの恰好。マイリーが言っていた変装とはアレなのかしら。でもあれじゃ逆に悪目立ちしてしまっている様な気がするのだけど。現にその周りでは怪訝そうな顔をしながら人々がひそひそと囁き合っている。
「……殿下?」
「うわぁあああああああああ!? え、ティアナ?」
殿下の方へと歩みを進めると、護衛らしき方々と目が合ったのでそっと人差し指を口に当ててみせるとコクコクと頷いて貰えた。なのでそのまま、こっそりと殿下に近付いて声を掛けたら非常に驚かれたみたいだ。ふふ、驚いた殿下が何だか可愛い。
「こんな所で何をなさってるの?」
「取り敢えず座って、ティアナ!」
慌ててあたしを向かい側の席へと座らせる殿下。今更隠れても遅いと思うんだけどね……デペッシュ卿がこちらを苦い顔して見ておられたし。
「それで、何ですの? そのおかしなお姿は」
「え? 探偵だよ探偵。私は、まずは雰囲気から楽しむタイプなんだ」
「うーん、と……その探偵なお姿で何をなさってるんですの?」
「もちろん観察だよ、観察」
殿下は楽しそうに顔を綻ばせながら生き生きと話される。その楽しそうなお姿に思わず見とれてしまうあたし。あぁ、今日も非常にお顔が良いですわ。
取り敢えず、殿下と一緒になってマイリーとデペッシュ卿のデートの様子を観察する。マイリーがこちらの事が気になってるのか、時々チラチラと見て来るのであたしは少し申し訳ない気持ちになってくる。デペッシュ卿がマイリーに優しく微笑まれたりしてるお姿を見ていると、本当にマイリーの事を想ってらっしゃるんだなぁと感じた。
「ねぇ殿下」
「ん?」
「何で二人のデートの邪魔をしてらっしゃるの?」
「え……別に邪魔なんて……ただ、あのデペッシュがデレてるのが面白くて見てただけなんだけど……あ、店を出るみたいだ」
マイリー達が席を立つと殿下もその後を追おうとした。……ここは、マイリーの為にも殿下を引き留めなくちゃ!
「殿下っ、せっかく会えたのですから……わたくしも殿下とデートがしたいですわ」
「えっ! ……あ、んーっ、あああああああっ、だけど、ううううううっ」
殿下がマイリー達を追いたいけど、あたしを置いていけなくて葛藤されてる様だ。も、もうひと押し?
「お嫌、です……か?」
そう言いながら、殿下のコートの袖をそっと摘まんでみる。途端に殿下が目を大きく見開いて「うっ……」と呻かれた。そして何故か護衛騎士に馬車を店の前まで呼ばせ、それが到着するとあたしをサッと横抱きにされてそのまま店を出て乗り込まれた。
「あ、の……殿下?」
「可愛すぎるだろう! 袖ぎゅっ、て何だよ、可愛いが過ぎるだろう」
あ……どうやら殿下の足留めは成功したみたい。でも何だか殿下のテンションが爆上がりなんだけど。
「デートをしよう! 何処に行きたい? 王都中の店を買い占めるか? それとも遠出したついでに、何処かの領地を取り上げようか」
「買い占めなくていいです! 領地も取り上げちゃダメですっ」
テンション上がり過ぎて発言が怖いです殿下。
「じゃあ、何か食べたい物はあるか? 世界中の何処の店でも連れて行くぞ。いや、店ごと王都に移店させるか」
「デートの為だけに移店させちゃダメですよ、殿下っ」
「それならもう、いっその事いますぐ結婚しよう!」
「結婚はまだ、ダメですっ! 学園を卒業もしてませんし、式の準備もまだ始まってませんわ」
「むう……なら」
まだ何か言いかける殿下の頬にちゅっ、と口づけをする。すると、さっきよりも大きく目を見開いたまま硬直する殿下。
「こうやって、殿下のお傍に居るだけで充分幸せなデートですわ」
「……っ、てぃ……てぃあ……な」
ぎぎぎぎぎ……と、からくり人形の様にこちらに向けられた殿下のお顔は、見た事のない位に真っ赤だった。そしてエメラルドグリーンの瞳の奥が怪しく光った様な気がした。
「……王宮へ向かえ!」
御者へと指示を出し、馬車が走り出した。殿下はあたしに顔を近づけて、顔のあちこちへとキスの雨を降らせてくる。そして顎を掴まれて唇を塞がれ、深く深く口づけをされる。
「もう、私の部屋で一緒に暮らそう! それがいい」
「だ、ダメですってば殿下」
「こんな可愛いティアナと離れているなんて出来ないっ」
その後、殿下の私室に連れ込まれ……あたしを帰そうとしない殿下の元に、タクトお兄様が乗り込んで来たのは言うまでもない事だった。そしてデートを終えたデペッシュ卿にも散々叱られたみたいだった。
取り敢えずは殿下の足留めは成功……だったのかな? うーん。
「あ、あれじゃないですかね。お嬢様」
護衛に連れて来た我が公爵家の護衛騎士の一人、ファブルがある一点を指差した。その指が向かう方向を見てみると、ブラウンカラーの丈の長いコートに、ケープを合わせたいわゆるインバネスコートに身を包んだ一人の男性らしき姿が見えた。頭には鹿撃ち帽を被り、口にはパイプらしきものを咥え……そして何故だか分からないけど、手には虫眼鏡を持っている。
……なんだろう、あの恰好。マイリーが言っていた変装とはアレなのかしら。でもあれじゃ逆に悪目立ちしてしまっている様な気がするのだけど。現にその周りでは怪訝そうな顔をしながら人々がひそひそと囁き合っている。
「……殿下?」
「うわぁあああああああああ!? え、ティアナ?」
殿下の方へと歩みを進めると、護衛らしき方々と目が合ったのでそっと人差し指を口に当ててみせるとコクコクと頷いて貰えた。なのでそのまま、こっそりと殿下に近付いて声を掛けたら非常に驚かれたみたいだ。ふふ、驚いた殿下が何だか可愛い。
「こんな所で何をなさってるの?」
「取り敢えず座って、ティアナ!」
慌ててあたしを向かい側の席へと座らせる殿下。今更隠れても遅いと思うんだけどね……デペッシュ卿がこちらを苦い顔して見ておられたし。
「それで、何ですの? そのおかしなお姿は」
「え? 探偵だよ探偵。私は、まずは雰囲気から楽しむタイプなんだ」
「うーん、と……その探偵なお姿で何をなさってるんですの?」
「もちろん観察だよ、観察」
殿下は楽しそうに顔を綻ばせながら生き生きと話される。その楽しそうなお姿に思わず見とれてしまうあたし。あぁ、今日も非常にお顔が良いですわ。
取り敢えず、殿下と一緒になってマイリーとデペッシュ卿のデートの様子を観察する。マイリーがこちらの事が気になってるのか、時々チラチラと見て来るのであたしは少し申し訳ない気持ちになってくる。デペッシュ卿がマイリーに優しく微笑まれたりしてるお姿を見ていると、本当にマイリーの事を想ってらっしゃるんだなぁと感じた。
「ねぇ殿下」
「ん?」
「何で二人のデートの邪魔をしてらっしゃるの?」
「え……別に邪魔なんて……ただ、あのデペッシュがデレてるのが面白くて見てただけなんだけど……あ、店を出るみたいだ」
マイリー達が席を立つと殿下もその後を追おうとした。……ここは、マイリーの為にも殿下を引き留めなくちゃ!
「殿下っ、せっかく会えたのですから……わたくしも殿下とデートがしたいですわ」
「えっ! ……あ、んーっ、あああああああっ、だけど、ううううううっ」
殿下がマイリー達を追いたいけど、あたしを置いていけなくて葛藤されてる様だ。も、もうひと押し?
「お嫌、です……か?」
そう言いながら、殿下のコートの袖をそっと摘まんでみる。途端に殿下が目を大きく見開いて「うっ……」と呻かれた。そして何故か護衛騎士に馬車を店の前まで呼ばせ、それが到着するとあたしをサッと横抱きにされてそのまま店を出て乗り込まれた。
「あ、の……殿下?」
「可愛すぎるだろう! 袖ぎゅっ、て何だよ、可愛いが過ぎるだろう」
あ……どうやら殿下の足留めは成功したみたい。でも何だか殿下のテンションが爆上がりなんだけど。
「デートをしよう! 何処に行きたい? 王都中の店を買い占めるか? それとも遠出したついでに、何処かの領地を取り上げようか」
「買い占めなくていいです! 領地も取り上げちゃダメですっ」
テンション上がり過ぎて発言が怖いです殿下。
「じゃあ、何か食べたい物はあるか? 世界中の何処の店でも連れて行くぞ。いや、店ごと王都に移店させるか」
「デートの為だけに移店させちゃダメですよ、殿下っ」
「それならもう、いっその事いますぐ結婚しよう!」
「結婚はまだ、ダメですっ! 学園を卒業もしてませんし、式の準備もまだ始まってませんわ」
「むう……なら」
まだ何か言いかける殿下の頬にちゅっ、と口づけをする。すると、さっきよりも大きく目を見開いたまま硬直する殿下。
「こうやって、殿下のお傍に居るだけで充分幸せなデートですわ」
「……っ、てぃ……てぃあ……な」
ぎぎぎぎぎ……と、からくり人形の様にこちらに向けられた殿下のお顔は、見た事のない位に真っ赤だった。そしてエメラルドグリーンの瞳の奥が怪しく光った様な気がした。
「……王宮へ向かえ!」
御者へと指示を出し、馬車が走り出した。殿下はあたしに顔を近づけて、顔のあちこちへとキスの雨を降らせてくる。そして顎を掴まれて唇を塞がれ、深く深く口づけをされる。
「もう、私の部屋で一緒に暮らそう! それがいい」
「だ、ダメですってば殿下」
「こんな可愛いティアナと離れているなんて出来ないっ」
その後、殿下の私室に連れ込まれ……あたしを帰そうとしない殿下の元に、タクトお兄様が乗り込んで来たのは言うまでもない事だった。そしてデートを終えたデペッシュ卿にも散々叱られたみたいだった。
取り敢えずは殿下の足留めは成功……だったのかな? うーん。
0
お気に入りに追加
793
あなたにおすすめの小説
義弟の為に悪役令嬢になったけど何故か義弟がヒロインに会う前にヤンデレ化している件。
あの
恋愛
交通事故で死んだら、大好きな乙女ゲームの世界に転生してしまった。けど、、ヒロインじゃなくて攻略対象の義姉の悪役令嬢!?
ゲームで推しキャラだったヤンデレ義弟に嫌われるのは胸が痛いけど幸せになってもらうために悪役になろう!と思ったのだけれど
ヒロインに会う前にヤンデレ化してしまったのです。
※初めて書くので設定などごちゃごちゃかもしれませんが暖かく見守ってください。
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
ヤンデレお兄様に殺されたくないので、ブラコンやめます!(長編版)
夕立悠理
恋愛
──だって、好きでいてもしかたないもの。
ヴァイオレットは、思い出した。ここは、ロマンス小説の世界で、ヴァイオレットは義兄の恋人をいじめたあげくにヤンデレな義兄に殺される悪役令嬢だと。
って、むりむりむり。死ぬとかむりですから!
せっかく転生したんだし、魔法とか気ままに楽しみたいよね。ということで、ずっと好きだった恋心は封印し、ブラコンをやめることに。
新たな恋のお相手は、公爵令嬢なんだし、王子様とかどうかなー!?なんてうきうきわくわくしていると。
なんだかお兄様の様子がおかしい……?
※小説になろうさまでも掲載しています
※以前連載していたやつの長編版です
お母様が国王陛下に見染められて再婚することになったら、美麗だけど残念な義兄の王太子殿下に婚姻を迫られました!
奏音 美都
恋愛
まだ夜の冷気が残る早朝、焼かれたパンを店に並べていると、いつもは慌ただしく動き回っている母さんが、私の後ろに立っていた。
「エリー、実は……国王陛下に見染められて、婚姻を交わすことになったんだけど、貴女も王宮に入ってくれるかしら?」
国王陛下に見染められて……って。国王陛下が母さんを好きになって、求婚したってこと!? え、で……私も王宮にって、王室の一員になれってこと!?
国王陛下に挨拶に伺うと、そこには美しい顔立ちの王太子殿下がいた。
「エリー、どうか僕と結婚してくれ! 君こそ、僕の妻に相応しい!」
え……私、貴方の妹になるんですけど?
どこから突っ込んでいいのか分かんない。
ドM王子が婚約破棄してくれないのですが!
ミィタソ
恋愛
戦争で武勲を立て、いつしか王国の剣と呼ばれるようになったベルベット公爵家。
その三女として生まれたアイネの夢もまた、剣の道を極めることだった。
ある日、アシュレイ・ガルランド王子がアイネの剣を見学することになった。
「素晴らしい剣技だなアイネ嬢! 一度、私にもその剣を振らせてはもらえないか?」
王子が近づき、手を差し出す。
「邪魔ですわ! お怪我をなされたいのですか!」
アイネは声を張り上げ、王子を𠮟りつける。
やってしまった。
そう思ったアイネであったが、一方王子視点では……
アイネの怒声が響いたとき。
あの鋭い目つき。まるでレイピアを心臓に突き刺されたかのようだ。
何だろうこの気持ち……ゾクゾクする。
あぁ、アイネ嬢……君が好きだ……。
恐怖すら感じるほどのすれ違いが生まれていた。
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら
夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。
それは極度の面食いということ。
そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。
「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ!
だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」
朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい?
「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」
あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?
それをわたしにつける??
じょ、冗談ですよね──!?!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる