恋煩いの回転木馬

小春佳代

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僕はひとりで、君が好き

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僕が君を好きになったのは、仲良くなったからじゃないよ。

むしろ、君とは仲良くなれなかったんだよ。

たまに話をする程度だよ。

“好き”という気持ちは、君をよく知らなくても生まれてくるものなんだよ。




僕も、それはおかしいと思うよ。

理想の順番は、君とたくさん話をしてから。

それから君を好きになるべきだったのかもしれない。

でも僕の想いは、僕の考えを無視するんだ。




君が僕と話している時に笑ってくれると、僕は君にとっての何かになれてるのだろうと思えた。

何かって何?

君の中で、僕ってどれぐらいの存在?

決して聞かない質問のひとつ。




君と“付き合いたい”とは思えない。

そこまで思うことができない。

付き合って、僕が君を満たすことができる自信がないから。


なんて情けない考えだろう。

でも本当のことなんだ。


僕が話しかける時にいつも、君を笑わせることができているわけではないのもひとつの理由。


他の理由は何だろう。


この“好き”が、僕の片想いとして永遠に続けられることができるほどの想いかどうか分からないんだよ。


この僕の生活状況の中で、今の僕の中で、君が一番だよ。

でも僕は、もしかしたら、この“好き”は、そんなに長く続かないのかもしれないとも思う。


そう思うことで。

僕は君から逃げているよ。


逃げながら、いつも君のことを考えているよ。

君に会いたいよ。

会っても君のために何もできないよ。

でも少しだけなら、何かできるかもしれないよ。

でも会えれば、僕にとっては何かになってるよ。

僕の心を満たすよ。

でも会い終わると僕の心は空っぽだよ。

そんなことを繰り返すよ。

何のために。




君が一度だけ、僕の二の腕あたりをつかんで引き止めたことがあった。

たくさんの人が行き交っていた廊下。

君に触れられたこと、最初で最後の出来事。

「外、雨降ってるよ。傘持ってるの?」

つかんで引き止めるほどの内容だったとは思えなかった。

「うん……玄関に置いてきたから……」

このたくさんの人の中で、僕の名前を呼ぶのが面倒だったのかな。

でも、僕に触れることは面倒じゃなかったのかな。


その答えはないよ。

君にとっては何でもないことだから。


そして、僕にとっては君への想いに関わる出来事の一部だよ。


君に関する出来事なら、何でもないことなんてない。




君のことを考える。

君のことを考えることを休む日はない。

穏やかな曲を聴いていても、激しい曲を聴いていても


車の窓から景色を眺めていても。

君を目の前にしていても。

君のことを精一杯考えてるよ。




でも結局、君とは仲良くなれなかったんだよ。

たまに話をする程度だったよ。


でもありがとう。

あの時、僕は少しでも生きている意味があったと思うから。

君がいる世界を放棄することができなかったから。
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