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6.宝物
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「かえやん、あのままだと変人みたいだけど、また部室戻る?」
念願の、念願の念願の君との『出会い』から、およそ一時間後。
本日最後の講義を受け終えた私は、ただ開いているだけで全く意味をなしていなかったドイツ語の教科書に何か救いの言葉が浮かび上がってくるのを期待しているがごとく、視線を落としていた。
「私、変人みたいでしたか?」
「うん、それはもう」
「どういうところが変人みたいでしたか?」
「ろくに見学もしない内から入部希望を宣言して、挙げ句の果てにいきなり顔を真っ赤に奇声をあげて走り去ったところかな」
「確実に変人じゃん」
深いため息と共に、自身の有様に頭を抱える。
「ねぇねぇ、何も教えてくれなかったけど、あの長身くんがかえやんの初恋くんでしょ?」
「ひぃっ」
「また奇声あげてるし……、めちゃくちゃスラーっとしてて、確かにあれはかっこいいわ」
「うぅ」
「なんか髪型もおしゃれだったね」
「ツイストパーマ……」
「ふーん、よく知ってるね」
28歳の君から聞いたことがある。大学生の頃は茶髪のツイストパーマという髪型だったと。あれだ、それがあれだったんだ。はぁ……、拝めたよ、つい今しがたこの目で拝めたんだよ……。
「かえやん、さっきから何一人でぶつぶつ言ってるの?とりあえず今日もう一回だけ顔出してみようよ!」
「ど、どんな顔してのぞめば」
「『普通で~す、私、普通の人で~す』みたいな」
「ふ、普通ね、普通、普通」
半ば面白がっている莉子に引っ張られる形で、私の身体は部室に向かう。
たくさんの若き学生とすれ違う喧騒の中、頬を染めて目を細め、ぼんやりと君のことを考えていた。
見つけたんだ、ついに見つけたんだ。
こんな夢物語ってあるだろうか。
執念で創り上げてしまったこの世界。
まるでお伽話のような君との学生生活。
それにしても。
こんなに最初から意識をしまくって仲良くなれるのだろうか。
「ほら、かえやん!挽回するためにも、このドアを普通に開けるんだよ!」
ふと気がつけば、年季の入った部室ドア前。
「ば、挽回って、一体私何しでかしたの」
「おそらく眼鏡先輩が変人連れて来たって思われてるから!」
「だめだ、やっぱり今日の私にはハードルが高過ぎる。今日のところはもう……」
「あれ?さっきの」
ガッと顔を上げた。
この声を何度好きだと思ったのだろう。
「うぉー、めっちゃかっこいいの履いてんじゃん」
私の瞳には、この足元に目を遣る君の姿がくっきりと映り込んでいた。
君がずっと好きだと言っていた、鮮やかなラインの入った復刻版のスニーカー。
君のことを思いながら、たくさんの可能性が並ぶ陳列棚の前で、宝物のように手に取った物。
「……エイマックス、好きなの?」
「うん、めちゃくちゃ」
今日から君に、毎日会える。
念願の、念願の念願の君との『出会い』から、およそ一時間後。
本日最後の講義を受け終えた私は、ただ開いているだけで全く意味をなしていなかったドイツ語の教科書に何か救いの言葉が浮かび上がってくるのを期待しているがごとく、視線を落としていた。
「私、変人みたいでしたか?」
「うん、それはもう」
「どういうところが変人みたいでしたか?」
「ろくに見学もしない内から入部希望を宣言して、挙げ句の果てにいきなり顔を真っ赤に奇声をあげて走り去ったところかな」
「確実に変人じゃん」
深いため息と共に、自身の有様に頭を抱える。
「ねぇねぇ、何も教えてくれなかったけど、あの長身くんがかえやんの初恋くんでしょ?」
「ひぃっ」
「また奇声あげてるし……、めちゃくちゃスラーっとしてて、確かにあれはかっこいいわ」
「うぅ」
「なんか髪型もおしゃれだったね」
「ツイストパーマ……」
「ふーん、よく知ってるね」
28歳の君から聞いたことがある。大学生の頃は茶髪のツイストパーマという髪型だったと。あれだ、それがあれだったんだ。はぁ……、拝めたよ、つい今しがたこの目で拝めたんだよ……。
「かえやん、さっきから何一人でぶつぶつ言ってるの?とりあえず今日もう一回だけ顔出してみようよ!」
「ど、どんな顔してのぞめば」
「『普通で~す、私、普通の人で~す』みたいな」
「ふ、普通ね、普通、普通」
半ば面白がっている莉子に引っ張られる形で、私の身体は部室に向かう。
たくさんの若き学生とすれ違う喧騒の中、頬を染めて目を細め、ぼんやりと君のことを考えていた。
見つけたんだ、ついに見つけたんだ。
こんな夢物語ってあるだろうか。
執念で創り上げてしまったこの世界。
まるでお伽話のような君との学生生活。
それにしても。
こんなに最初から意識をしまくって仲良くなれるのだろうか。
「ほら、かえやん!挽回するためにも、このドアを普通に開けるんだよ!」
ふと気がつけば、年季の入った部室ドア前。
「ば、挽回って、一体私何しでかしたの」
「おそらく眼鏡先輩が変人連れて来たって思われてるから!」
「だめだ、やっぱり今日の私にはハードルが高過ぎる。今日のところはもう……」
「あれ?さっきの」
ガッと顔を上げた。
この声を何度好きだと思ったのだろう。
「うぉー、めっちゃかっこいいの履いてんじゃん」
私の瞳には、この足元に目を遣る君の姿がくっきりと映り込んでいた。
君がずっと好きだと言っていた、鮮やかなラインの入った復刻版のスニーカー。
君のことを思いながら、たくさんの可能性が並ぶ陳列棚の前で、宝物のように手に取った物。
「……エイマックス、好きなの?」
「うん、めちゃくちゃ」
今日から君に、毎日会える。
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