陽だまりに廻る赤

小春佳代

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10.真子

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「終わりかな」

 普段よく時間を持て余している場所、大学総合学生会館『蘭風館』の二階にあるライトブラウンを基調とした食堂で、私はついにその言葉をこぼす。

「何が?」

 この蘭風館の屋上で、晴れ渡っている日はトランペットの切ない音色によって私を包んでくれる有岡も、今は雨粒の流れる窓を眺めながら同席していた。

「私の恋心も」

 有岡は目でだけでこちらを見遣る。

「……なんで?」

 約一年前からお互いの講義と講義の合間に設けられ続けた、まるで恋愛報告室にいるような不思議な時間。

 こんな話を切り出したのは初めてだった。

「もうあの二人を見てられないよ……」

 居酒屋で言いたい放題ぶちまけていたあの頃から、状況は悪くなる一方だった。

 私にとって。

「遠野さんか……」

 二人とバイトのシフトが重なった日は、もう拷問に近いものがあった。

 私にとって。

「付き合ってるようには見えないけど……」

 有岡はなんとか言葉を絞り出してくれているようだった。

「うん……、たぶんね、付き合ってるような感じじゃない」

 雨はしとしとと控えめに、でも確実に、私の心を蝕むかのように、降り続く。
 私は顔を上げて、続けた。

「そしてこれからも、付き合うということにはならないんじゃないかな」
「じゃあ」
「でも永遠にこの状態だよ」

 一定の距離を保ちながら、広く綺麗な食堂で各々穏やかに過ごす学生たちもいる中、私はもう周りに混じって平気なフリをすることができなかった。

「完全にくっつきもしないし、決定的に離れることもない。あの二人は、お互いが惹かれ合ったまま、永遠にあの場所で働き続けるの」

 永遠なんてない、ってことは分かってる。

 けど。

「私にとっては永遠に等しいの」

 有岡は理解したかのようにうつむく。

 ハニーのことが好きで好きでたまらない私。
 遠野さんに惹かれるハニー。
 ハニーに惹かれる遠野さん。

 私のことに興味のないハニー。

「ねぇ、有岡」

 私はとても酷な人間だ。

「好きを終わらせるって、どうすればいいんだっけ」

 有岡自身には興味のない、私。
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