陽だまりに廻る赤

小春佳代

文字の大きさ
上 下
10 / 12

10.真子

しおりを挟む
「終わりかな」

 普段よく時間を持て余している場所、大学総合学生会館『蘭風館』の二階にあるライトブラウンを基調とした食堂で、私はついにその言葉をこぼす。

「何が?」

 この蘭風館の屋上で、晴れ渡っている日はトランペットの切ない音色によって私を包んでくれる有岡も、今は雨粒の流れる窓を眺めながら同席していた。

「私の恋心も」

 有岡は目でだけでこちらを見遣る。

「……なんで?」

 約一年前からお互いの講義と講義の合間に設けられ続けた、まるで恋愛報告室にいるような不思議な時間。

 こんな話を切り出したのは初めてだった。

「もうあの二人を見てられないよ……」

 居酒屋で言いたい放題ぶちまけていたあの頃から、状況は悪くなる一方だった。

 私にとって。

「遠野さんか……」

 二人とバイトのシフトが重なった日は、もう拷問に近いものがあった。

 私にとって。

「付き合ってるようには見えないけど……」

 有岡はなんとか言葉を絞り出してくれているようだった。

「うん……、たぶんね、付き合ってるような感じじゃない」

 雨はしとしとと控えめに、でも確実に、私の心を蝕むかのように、降り続く。
 私は顔を上げて、続けた。

「そしてこれからも、付き合うということにはならないんじゃないかな」
「じゃあ」
「でも永遠にこの状態だよ」

 一定の距離を保ちながら、広く綺麗な食堂で各々穏やかに過ごす学生たちもいる中、私はもう周りに混じって平気なフリをすることができなかった。

「完全にくっつきもしないし、決定的に離れることもない。あの二人は、お互いが惹かれ合ったまま、永遠にあの場所で働き続けるの」

 永遠なんてない、ってことは分かってる。

 けど。

「私にとっては永遠に等しいの」

 有岡は理解したかのようにうつむく。

 ハニーのことが好きで好きでたまらない私。
 遠野さんに惹かれるハニー。
 ハニーに惹かれる遠野さん。

 私のことに興味のないハニー。

「ねぇ、有岡」

 私はとても酷な人間だ。

「好きを終わらせるって、どうすればいいんだっけ」

 有岡自身には興味のない、私。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

私の恋が消えた春

豆狸
恋愛
「愛しているのは、今も昔も君だけだ……」 ──え? 風が運んできた夫の声が耳朶を打ち、私は凍りつきました。 彼の前にいるのは私ではありません。 なろう様でも公開中です。

私が死ねば楽になれるのでしょう?~愛妻家の後悔~

希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令嬢オリヴィアは伯爵令息ダーフィトと婚約中。 しかし結婚準備中オリヴィアは熱病に罹り冷酷にも婚約破棄されてしまう。 それを知った幼馴染の伯爵令息リカードがオリヴィアへの愛を伝えるが…  【 ⚠ 】 ・前半は夫婦の闘病記です。合わない方は自衛のほどお願いいたします。 ・架空の猛毒です。作中の症状は抗生物質の発明以前に猛威を奮った複数の症例を参考にしています。尚、R15はこの為です。

貴方といると、お茶が不味い

わらびもち
恋愛
貴方の婚約者は私。 なのに貴方は私との逢瀬に別の女性を同伴する。 王太子殿下の婚約者である令嬢を―――。

もう彼女でいいじゃないですか

キムラましゅろう
恋愛
ある日わたしは婚約者に婚約解消を申し出た。 常にわたし以外の女を腕に絡ませている事に耐えられなくなったからだ。 幼い頃からわたしを溺愛する婚約者は婚約解消を絶対に認めないが、わたしの心は限界だった。 だからわたしは行動する。 わたしから婚約者を自由にするために。 わたしが自由を手にするために。 残酷な表現はありませんが、 性的なワードが幾つが出てきます。 苦手な方は回れ右をお願いします。 小説家になろうさんの方では ifストーリーを投稿しております。

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

あなたが望んだ、ただそれだけ

cyaru
恋愛
いつものように王城に妃教育に行ったカーメリアは王太子が侯爵令嬢と茶会をしているのを目にする。日に日に大きくなる次の教育が始まらない事に対する焦り。 国王夫妻に呼ばれ両親と共に登城すると婚約の解消を言い渡される。 カーメリアの両親はそれまでの所業が腹に据えかねていた事もあり、領地も売り払い夫人の実家のある隣国へ移住を決めた。 王太子イデオットの悪意なき本音はカーメリアの心を粉々に打ち砕いてしまった。 失意から寝込みがちになったカーメリアに追い打ちをかけるように見舞いに来た王太子イデオットとエンヴィー侯爵令嬢は更に悪意のない本音をカーメリアに浴びせた。 公爵はイデオットの態度に激昂し、処刑を覚悟で2人を叩きだしてしまった。 逃げるように移り住んだリアーノ国で静かに静養をしていたが、そこに1人の男性が現れた。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※胸糞展開ありますが、クールダウンお願いします。  心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。イラっとしたら現実に戻ってください。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

処理中です...