ベルガモットの空言

小春佳代

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愚問の末のヲタク

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「私はね、あの人のヲタクなの」

爽やかな休日
カフェでモーニングを食べながらの
突拍子も無い私の発言に
友人は些いささか面食らったようだった

「はぁ……」
「ん?オタク?ヲタク?」
「いや、どっちでもいいよ」
「とにかくあの人のヲタク、なの」

あの人の行動を知りたい
あの人が考えてることを覗きたい
あの人が好きなものをなぞりたい

「ヲタクっていうよりストーカ……」
「せめて追っかけと言って」

あの人が私の話に耳を傾けたり
あの人が私の動作を目にしてたり
あの人が私の真正面に居たりすることが
時に息が詰まる

「私だけが見ているだけでもいいくらい」
「ほう」
「むしろ私だけがあの人の存在を感じている時間が心地良い」
「とは?」

『ちょっとごめん』と
助手席の私に断りながら
カーナビで高校野球の中継を見ている時間

『今日はまだ読んでなかった』と
私の向かいの席で日経新聞を広げている時間

「あとはアレだ、飲み屋のカウンター席で女の子二人組に絡まれた時」
「んん?」
「あの人がその女の子たちからの根掘り葉掘りな質問に対応してたんだけどね」
「ほう」
「あの人がどれだけ他の女の子と盛り上がっててもね、あの時、あの人の連れはね、私だったんだよ」
「ふむ」

なんだかね
あの人との会話に集中しなくていい分
やたら噛み締めちゃったんだよね

今、彼の隣にいるのは、私なんだって

「……それってヲタクなのかな?」
「……さあ?じゃあ」

朝の陽光が差し込む白を基調とした店内で
眩しく光るフォークをカチャリと置いた

「一体、私はあの人の何だと思う?」

至る所で世の女性が苦しめられている愚問

「楽なの、私はあの人のヲタクなんだって、思ってしまえば」

男はうやむやでも平気な生き物
女は物事をハッキリさせたい生き物

「はぁ、今日もヲタ活しよ」
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