ベルガモットの空言

小春佳代

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人工的な幻

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不自然に暗い室内には
四角い人工的な色彩が光を放っていた

「今日は歌えそうやわ!」と主張できる程に
ほろ酔いでかき消されたのは恥じらい

選曲が出来るタッチパネルに
ローズピンクのネイルが施された指先が伸びる

相手は私に合わせて
二軒目であるここでも
お猪口に日本酒を注いでくれていた

「どんなけ日本酒好きやねん」
「ははは、私に合わせてくれへんでもええよ」
「いや、ええよ、付き合うよ」

女性が歌って何の害もない曲は
星の数ほどあるだろうが
私はあえて叫びと色気の緩急のある
ロックソングを四角い画面に
浮かび上がらせた

これは私がまだ若い頃に
通勤車の中で項垂うなだれながら
聴き続けていたものなんだ

相手は驚きウケて一緒に
最上級にノッてくれた

素面じゃないから大丈夫

テキトーに歌って大丈夫

ただ女子パートの部分だけは
普段出してない声色でね

「ははは、やばいやばい」

日常はさ大変なことも多いよ
立場上しなきゃいけないことも多いよ

段階を踏んで踏んで踏みまくって
大人って段階を踏む為に生きてるの?

ここだけは
しみったれた話はなしにしようよ

もういいじゃん
ため息でお互い慰め合うのはなしにしよう

贅沢な空間を自分たちだけで作ろう



そして思いっきり弾けることができたなら
また貢献し続ける大人の一人に戻るんだ
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