ベルガモットの空言

小春佳代

文字の大きさ
上 下
58 / 157

筆を執らないということは、その日々は執らずに済んでいるからなんだ

しおりを挟む
「楽しいですっ」と
素直に語尾を弾ませる

「どんな人生だよ!」と
冷静になった瞬間ツッコミたくなる

「ばかみたいに」という言葉を
溢れ出る感情の前につけたくなる

「いつでも撤退します」と
白旗を持つ手を相手に託そうとする



あなたに勧めてもらったチョコを
まるで蘇生するための薬かのように
一欠片口にした

「癒されました」は
ふわりと零すことができるのに

「傷つきました」だけが
どうしても言えないらしい

実際には一度しか発されていない言葉が
私の心の中ではふとした瞬間に
何度でも弾を放つ

「あなたの言葉に傷つきました」

惚れきっているあなたに訴えて戦えるほど
私は強くないんだ
しおりを挟む

処理中です...