ベルガモットの空言

小春佳代

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数えられる程の男友達

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数えられる程の男友達が
私にもいた

今日は同僚の結婚式二次会
各支店に散らばっていた同期が
フォーマルな装いに身を包み
普段より砕けた表情を見せている

私は先日購入したばかりの
紺色レースのスレンダーラインドレスを纏い
顔を合わせた同期と近況を報告し合ってゆく

「あ、谷口くん!」

相変わらずの
スラッとした長身で登場したスーツ姿の彼も
私にとって数えられる程の男友達の一人だ

「おお~、透けさせて~」

彼はいつものふざけた調子で
紺色レース越しに透けている私の肩を
なぜか面白がった



主役の二人が拍手喝采の中
華やかに会場を後にするのを
無事に見届けた

残された皆は思い思いに
この後の時間の過ごし方を話し合いながら
夜の街に溶け込もうとしていた

「なあ」

振り向くと同時に
耳元のパールがキラリと輝く

「久しぶりに二人で飲まない?」

酔っているんだか酔っていないんだか不明な
へらへらとした谷口くんから
個人的なお誘いを受けた

「いーよー」

ナチュラルに応えたつもりだ

でも少しどきどきしていた
それは自分でさえも認識を拒否していた



カウンターに並ぶ
何の他意もないと思える男女

積もる話は笑いを多いに含んでいた
しかし日本酒に手を伸ばし始めた頃から
会話内容が各々の深刻な現状について
触れざるを得なくなってゆく

「あー、やっぱ話しちゃうな、谷口くんには」
「俺も」

私は無言で御猪口を口元に近づけるが
後一歩のところで神経の伝達が届かない

「おい、泣いてんの?」

ふふ、と笑う

「泣き上戸なの」

何の他意もないと思われる彼の厚い手が
紺色のレース越しに私の肩を抱く

伝達を鈍らせていた神経が
瞬間的にその肌に集まっていくのを感じた



数えられる程の男友達が
私にもいた

その中で唯一
あなただけ

触れられて嬉しいのは
あなただけ
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