ベルガモットの空言

小春佳代

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南国の姫 北国の王子

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それはある日のこと
南国のお姫様が
夏の我が北国にお越しくださいました

黄色地に柄であるパイナップルが
ひしめきあうワンピースを身に纏い
薄く褐色かっしょくを帯びた肌に
黒いボブヘアがよく似合う十代の女の子

僕は一国の王子として
同い年のお姫様に
我が北国の夏の素晴らしさを
数日にかけてご案内いたします

視界一面に広がる黄緑の大草原
影をありのままに落とす入道雲
どこまでも涼しさを含む奇跡の風

日が経つにつれ
我が国の平穏な空気に
相手側の警護の方々の
緊張がほぐれてゆきました

いつしかお姫様と僕は二人
気の向くまま
誰の干渉も受けないまま
まるでお互いの時を交換するかのように
様々な景色の中に身を投入してゆきます

尊い時間が許す限り
お姫様は僕にたくさんお尋ねになりました
我が北国の特徴
我が王族や民のこと
そして僕自身のことを

星降る最後の夜よの質問
「この場合は」
言葉を詰まらせ俯うつむかれるお姫様

「あなたのことが好きになった場合は」

問う方も問われる方も

「どうしたらいいですか?」

自然と湧き上がる感情に
従えない程の立場であることを
お互いあまりにも深く自覚していたことでしょう

『どうしたらいいですか?』

“解決策が欲しいわけではございません

私がこの瞬間あなたに
惹かれていた事実

そんなものが
何もなかったかのように
振る舞えない私の欲深さを
どうかどうか
お許しください”



そんなお姫様の内なる気持ちが癒すのは
あの日から三十年経ち
決断の日々に酷使される
王となった僕の誰にも見せない心の奥
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