ベルガモットの空言

小春佳代

文字の大きさ
上 下
17 / 157

「僕らは空中庭園で遊ぼうか?」

しおりを挟む
「僕らは空中庭園で遊ぼうか?」

透明な回廊が大きな円を描いてる上
私を背におぶさったあなたが裸足で歩いている

私は片方の手をその骨張った肩へ
もう片方の手は周りを舞う蝶たちへ

薄紫のワンピースから伸びる素足は
あなたの腰の辺りから前方にぶら下がり
現実よりもほっそりとした形をしている

黒と濃い紫を身に纏っている蝶たちは
金色の鱗粉を撒き散らしながら
私たちを祝福してくれるの

ふと透明な回廊下に目を遣ると
小さなビルや住宅の数々が
色とりどりの風船のように丸く見える

あれを割っていくのが私たちの仕事だよ
ひとつひとつこなしていくことが
与えられてる任務だよ

「僕らは空中庭園で遊ぼうか?」

そんな言葉から始まった限られた時間は
やがて終わりを迎える

あなたの大きな背中から
ソーラーパネルのような質感の蝶の羽が
突然広がるの

その反動に私は手を放してしまい
背中から落ちてゆく

遮るものが何もなかった透明な回廊から
割らなきゃいけない風船で満たされた
現実世界へ

落ちている最中さなか、徐々に
ワンピースの色は控えめな紺色へ
茶系の髪は緩く束ねられてゆき
素足にはヒールのないスポーツサンダルが

「僕らは空中庭園で遊ぼうか?」

これだけは忘れまい
これだけは忘れまい
と着地後に目を開けた先のワンピースには
目立つことを抑えた紺色の上
輝いてやまない鱗粉が微かに残っていた
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

マッサージ

えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。 背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。 僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

【完結】それぞれの贖罪

夢見 歩
恋愛
タグにネタバレがありますが、 作品への先入観を無くすために あらすじは書きません。 頭を空っぽにしてから 読んで頂けると嬉しいです。

処理中です...