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歩みに揺れる栗色の髪、いつ触れてもおかしくない二人の手、セーヌ川の朝。

「夢叶ったじゃん」

「これ、私の夢だったの?」

いまだに彼の物の言い方に笑ってしまう自分がいる。

私たちはいつの間にか……、いや、必死の思いの上で大学生になっていた。

「だって何のために広大ひろだいにしたんだよ」

「何のために……」

冗談のようなきっかけだ。

目前にある、二人焦がれ続けた「セーヌ川の朝」。

実際に見てみたいという想いが、広島大学を目指す後押しのひとつになるなんて。

今初めて、爽やかな木々に囲まれるひろしま美術館に足を踏み入れ、彼の言う夢に辿り着いたのだ。

絵を前にして、嬉々とした言葉の交わし合いは意味を成さない。

ただそこに在る、一切の世界の音を水面に閉じ込めて朝霧にしたかのような世界。

息を呑む、鼓動の音、惹きつけられる、二人、共に。

ねえ、私、あの日からずっと嬉しいんだよ。

あなたの向こう側に、小さな絵画を捉えた日から。

きっと出会う前から、二人でずっと、同じものを見ているの。

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