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三度目の人生
三度目の終わり
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控え室で、ジッとしているのは落ち着かない。
今、この瞬間、状況が激しく動いていると思うのに、それを感じることが出来ないから。
王太子でなくなることに、アズリル殿下は怒りを持つだろうか。
キャス様は平民だし、彼女にそんな欲がないことは、この一週間で理解っている。
だけど、アズリル殿下と正妃様、そして国王陛下の動きが気になる。
国王陛下は、賢王と言われる方で、民に苦を強いることなく、王太子時代から正しい道を歩まれていた方だった。
その陛下が唯一、自分の我儘を通したのが、正妃様との結婚だ。
幼い頃からの婚約者の公爵令嬢であった側妃様でなく、子爵令嬢の正妃様を娶ると宣言された。
慌てたのは周囲だ。
王妃としての執務もままならない正妃様。そこで妥協案として、公爵令嬢を側妃とすることが決められた。
側妃様は、高位貴族の令嬢としての知識も教養も、そして心算も持たれた方だった。
元々が幼馴染である陛下と側妃様は、今でも普通に仲は良いらしい。
まぁ、仲が悪かったら、子は授からないわよね。
正妃様も別に側妃様を嫌ってはいない、らしいけど、自分の子供が王太子であることには執着してるみたいだから、私は正妃様と殿下を警戒しておくべきね。
「シャロン。会場はどうなっているかしら?」
「後で奥様が知らせに来て下さいます。お嬢様はこちらでお待ちください」
「シャロン、見てきてくれない?」
「駄目です。お嬢様がこちらにいることを悟られないために、騎士を外に立たせていないのです。部屋に鍵はかけてありますが、お嬢様ひとりにするわけにはまいりません」
そうなのだ。
部屋の外に護衛を立たせていると、私が夜会に出ずにここにいることが、他の貴族に知られてしまう。
婚約者である王太子殿下を、平民の少女に奪われた公爵令嬢。
醜聞だし、かつてのように側妃になれと言われても困る。
それに、兄弟のいらっしゃらなかった国王陛下と違い、第二王子殿下もいらっしゃるから、王太子交代となるだろう。
殿下はご存知だから、逆上した殿下が突撃して来ないように鍵をかけてある。
でも誰かが襲って来たら、シャロンがいても防げないと思うわ。
むしろ、私を庇おうとしてシャロンが怪我をする方が嫌よ。
「シャロンが出たら、鍵を閉めておくわ。それに、お父様たちかシャロンでないと鍵を開けないから。ね?」
悶々と待っているのが嫌で、シャロンにお願いする。
シャロンは、渋々会場の様子を見に行ってくれることになった。
絶対に鍵を開けないようにと、何度も念を押して。
結論として。
私はその約束を守れなかった。
私は鍵を開けたのだ。
切羽詰まった、キャス様とアズリル殿下の助けを求める声を聞いて。
今、この瞬間、状況が激しく動いていると思うのに、それを感じることが出来ないから。
王太子でなくなることに、アズリル殿下は怒りを持つだろうか。
キャス様は平民だし、彼女にそんな欲がないことは、この一週間で理解っている。
だけど、アズリル殿下と正妃様、そして国王陛下の動きが気になる。
国王陛下は、賢王と言われる方で、民に苦を強いることなく、王太子時代から正しい道を歩まれていた方だった。
その陛下が唯一、自分の我儘を通したのが、正妃様との結婚だ。
幼い頃からの婚約者の公爵令嬢であった側妃様でなく、子爵令嬢の正妃様を娶ると宣言された。
慌てたのは周囲だ。
王妃としての執務もままならない正妃様。そこで妥協案として、公爵令嬢を側妃とすることが決められた。
側妃様は、高位貴族の令嬢としての知識も教養も、そして心算も持たれた方だった。
元々が幼馴染である陛下と側妃様は、今でも普通に仲は良いらしい。
まぁ、仲が悪かったら、子は授からないわよね。
正妃様も別に側妃様を嫌ってはいない、らしいけど、自分の子供が王太子であることには執着してるみたいだから、私は正妃様と殿下を警戒しておくべきね。
「シャロン。会場はどうなっているかしら?」
「後で奥様が知らせに来て下さいます。お嬢様はこちらでお待ちください」
「シャロン、見てきてくれない?」
「駄目です。お嬢様がこちらにいることを悟られないために、騎士を外に立たせていないのです。部屋に鍵はかけてありますが、お嬢様ひとりにするわけにはまいりません」
そうなのだ。
部屋の外に護衛を立たせていると、私が夜会に出ずにここにいることが、他の貴族に知られてしまう。
婚約者である王太子殿下を、平民の少女に奪われた公爵令嬢。
醜聞だし、かつてのように側妃になれと言われても困る。
それに、兄弟のいらっしゃらなかった国王陛下と違い、第二王子殿下もいらっしゃるから、王太子交代となるだろう。
殿下はご存知だから、逆上した殿下が突撃して来ないように鍵をかけてある。
でも誰かが襲って来たら、シャロンがいても防げないと思うわ。
むしろ、私を庇おうとしてシャロンが怪我をする方が嫌よ。
「シャロンが出たら、鍵を閉めておくわ。それに、お父様たちかシャロンでないと鍵を開けないから。ね?」
悶々と待っているのが嫌で、シャロンにお願いする。
シャロンは、渋々会場の様子を見に行ってくれることになった。
絶対に鍵を開けないようにと、何度も念を押して。
結論として。
私はその約束を守れなかった。
私は鍵を開けたのだ。
切羽詰まった、キャス様とアズリル殿下の助けを求める声を聞いて。
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