24 / 144
二度目の人生
異変
しおりを挟む
二枚のハンカチは、無事に王子に贈られた。
その結果、妹は第二王子の婚約者となったそうだ。
もちろん、王子が妹本人に惹かれて婚約したのだろうが、あの刺繍がきっかけになったのは間違いないと思う。
何故なら、あれ以来、私の元には大量のハンカチや小物、ドレスが持ち込まれるようになったからだ。
どうやらあの刺繍を見た王妃殿下や、王太子殿下の婚約者様から、是非自分のドレスにも刺繍して欲しいなど言われたらしい。
父たちは、大喜びしたらしい。
第二王子の婚約者になれた上に、王太子殿下の婚約者や王妃殿下の覚えが良くなれば、伯爵家は安泰だと。
だけど、その刺繍を私がしていることを知っている侍女たちは、その表情を曇らせていた。
そう。
父たちは今しか見えていない。
刺繍をしているのが妹でないとバレたら?王族を騙したことになることを理解していない。
第二王子だけなら「どうしてもうまく出来なくて」と、平謝りすれば許されたかもしれない。
さすがに、刺繍だけで婚約者にしたわけではないだろうし。
だけど、王妃殿下まで関わってくると、そうはいかない。
これ、詰んだかもしれないな。
そんなことを思いながら、刺繍針を動かす。
どちらにせよ、私に選択肢はない。
それに、せっかく手に入れた有意義な時間だ。それを自ら手放すつもりもない。
王妃殿下のドレスは、生地も最高級品だ。
汚さないために床に布を敷き、トルソーを持ち込んだ。
十日間、食事と睡眠以外の全ての時間を刺繍に注ぎ込んだ。
そして、出来上がったドレスを王妃殿下へと献上して一ヶ月後、それは起きるべくして起きた。
サロメが王宮にて、王太子殿下の婚約者様に一緒に刺繍をしようと誘われ、そのあまりにも拙い刺繍に、疑いを持たれたのだ。
これは、サロメだけが悪いわけではない。
父たちの考えが浅はかなのだ。
サロメが刺繍をうまく出来ないことで、私を代役に立てたまではよしとしよう。
だが、その刺繍で婚約者になれた時点で、せめて王子だけにでも、刺繍は他人の手によるものだと明かすべきだったのだ。
先妻の子供である私が刺したのだと言わなくて良い。
使用人に手伝わせたと言えば良かったのだ。
それを怠ったせいで、結局は王族を騙したことになった。
その日、私はいつも通りにハンカチに刺繍を刺していた。
部屋の外が騒がしいな、と思っていると、いきなりパターン!と扉が開いた。
そこには、柔らかな金髪に、エメラルドの瞳の少女、サロメが私を睨みつけ立っていた。
その結果、妹は第二王子の婚約者となったそうだ。
もちろん、王子が妹本人に惹かれて婚約したのだろうが、あの刺繍がきっかけになったのは間違いないと思う。
何故なら、あれ以来、私の元には大量のハンカチや小物、ドレスが持ち込まれるようになったからだ。
どうやらあの刺繍を見た王妃殿下や、王太子殿下の婚約者様から、是非自分のドレスにも刺繍して欲しいなど言われたらしい。
父たちは、大喜びしたらしい。
第二王子の婚約者になれた上に、王太子殿下の婚約者や王妃殿下の覚えが良くなれば、伯爵家は安泰だと。
だけど、その刺繍を私がしていることを知っている侍女たちは、その表情を曇らせていた。
そう。
父たちは今しか見えていない。
刺繍をしているのが妹でないとバレたら?王族を騙したことになることを理解していない。
第二王子だけなら「どうしてもうまく出来なくて」と、平謝りすれば許されたかもしれない。
さすがに、刺繍だけで婚約者にしたわけではないだろうし。
だけど、王妃殿下まで関わってくると、そうはいかない。
これ、詰んだかもしれないな。
そんなことを思いながら、刺繍針を動かす。
どちらにせよ、私に選択肢はない。
それに、せっかく手に入れた有意義な時間だ。それを自ら手放すつもりもない。
王妃殿下のドレスは、生地も最高級品だ。
汚さないために床に布を敷き、トルソーを持ち込んだ。
十日間、食事と睡眠以外の全ての時間を刺繍に注ぎ込んだ。
そして、出来上がったドレスを王妃殿下へと献上して一ヶ月後、それは起きるべくして起きた。
サロメが王宮にて、王太子殿下の婚約者様に一緒に刺繍をしようと誘われ、そのあまりにも拙い刺繍に、疑いを持たれたのだ。
これは、サロメだけが悪いわけではない。
父たちの考えが浅はかなのだ。
サロメが刺繍をうまく出来ないことで、私を代役に立てたまではよしとしよう。
だが、その刺繍で婚約者になれた時点で、せめて王子だけにでも、刺繍は他人の手によるものだと明かすべきだったのだ。
先妻の子供である私が刺したのだと言わなくて良い。
使用人に手伝わせたと言えば良かったのだ。
それを怠ったせいで、結局は王族を騙したことになった。
その日、私はいつも通りにハンカチに刺繍を刺していた。
部屋の外が騒がしいな、と思っていると、いきなりパターン!と扉が開いた。
そこには、柔らかな金髪に、エメラルドの瞳の少女、サロメが私を睨みつけ立っていた。
18
お気に入りに追加
496
あなたにおすすめの小説
前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る
花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。
その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。
何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。
“傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。
背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。
7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。
長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。
守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。
この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。
※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。
(C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。
虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
前世では美人が原因で傾国の悪役令嬢と断罪された私、今世では喪女を目指します!
鳥柄ささみ
恋愛
美人になんて、生まれたくなかった……!
前世で絶世の美女として生まれ、その見た目で国王に好かれてしまったのが運の尽き。
正妃に嫌われ、私は国を傾けた悪女とレッテルを貼られて処刑されてしまった。
そして、気づけば違う世界に転生!
けれど、なんとこの世界でも私は絶世の美女として生まれてしまったのだ!
私は前世の経験を生かし、今世こそは目立たず、人目にもつかない喪女になろうと引きこもり生活をして平穏な人生を手に入れようと試みていたのだが、なぜか世界有数の魔法学校で陽キャがいっぱいいるはずのNMA(ノーマ)から招待状が来て……?
前世の教訓から喪女生活を目指していたはずの主人公クラリスが、トラウマを抱えながらも奮闘し、四苦八苦しながら魔法学園で成長する異世界恋愛ファンタジー!
※第15回恋愛大賞にエントリーしてます!
開催中はポチッと投票してもらえると嬉しいです!
よろしくお願いします!!
愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。
いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!
夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。
しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。
ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。
愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。
いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。
一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ!
世界観はゆるいです!
カクヨム様にも投稿しております。
※10万文字を超えたので長編に変更しました。
変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!
utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑)
妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?!
※適宜内容を修正する場合があります
牢で死ぬはずだった公爵令嬢
鈴元 香奈
恋愛
婚約していた王子に裏切られ無実の罪で牢に入れられてしまった公爵令嬢リーゼは、牢番に助け出されて見知らぬ男に託された。
表紙女性イラストはしろ様(SKIMA)、背景はくらうど職人様(イラストAC)、馬上の人物はシルエットACさんよりお借りしています。
小説家になろうさんにも投稿しています。
異世界で王城生活~陛下の隣で~
遥
恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。
グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます!
※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。
※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる