虐げられ令嬢の最後のチャンス〜今度こそ幸せになりたい

一度目の人生

ひとときの平穏

　バートンの説得もあり、旦那様は契約書にサインをした。

　もうそれは本当に渋々で、このままサウザンド侯爵家がなくなっても良いのかと、バートンに叱責され、仕方なくだったようだ。

　離れに移った私は、アメリーに頼み事をしていた。

「ナイフバンド・・・ですか？」

　隣にいたラナも首を傾げている。

　私は紙に絵を描いて、こういうのが欲しいのだと二人に訴えた。

　それは太ももに、鞘に入れたナイフを固定する用のバンドだ。

　まぁ、前世で見たスパイ映画とかで、女スパイが隠し持っているというやつだ。

　時代劇の、何年たっても年を感じさせない由○かおるさんが演じるくのいちとかも持っていそうな。

　峰○ニ子のように、豊満な胸に拳銃とか隠し持ってたらかっこいいんだろうけど、この世界には拳銃はないし、私には豊満な胸がない。

　というわけで、ナイフだ。
太ももならバンドで調整すれば何とでもなる。

「ですが、ナイフなど危険です」

「バートンのおかげで、今回は旦那様は引き下がったけど、次がないとも限らないわ。できることは全てしておきたいのよ」

　別にナイフで旦那様に立ち向かおうというわけじゃない。
　襲って来られたときに、ナイフがあれば威嚇くらいにはなると思っただけだ。

　もちろん、離れの鍵も二重にしたし、窓は内側に格子の扉を追加した。

　内側なら、必要な時には開けることが可能だし、閉めておけばガラスを割っても侵入はできない。

　私は、旦那様を信用していない。
バートンにキツく言われたから、契約書にサインをしたけど、絶対納得していないと思う。

「でも、そうですよね。夜はバートンさんもお屋敷のお部屋にいらっしゃるから、離れに誰かが来ても、助けも間に合いませんよね」

「私やアメリーでは力が及びませんし」

　この世界にもしも電話があって、助けを呼べたとしても、屋敷から離れに来る時間を考えると、何らかの予防策はしておくべきなのだ。

　もちろん電話はないけど、そのかわりフライパンと金槌を各部屋に置いてある。
　ガンガン叩けば、ご近所迷惑な音が出せる。

　それから、平穏な日々が流れた。

　旦那様ともラナナ様とも顔を合わせることもなく、私はバートンに教わりながら侯爵夫人としての仕事に勤しんだ。

　贅沢をしなければ、侯爵夫人の仕事のお給金でラナとアメリーの給金は払えたし、お飾り妻だから夜会やお茶会に出ることもない。
　だから、過度なドレスや宝飾品も必要なく、質素にしなくても、ごくごく普通の食事を摂ることもできた。