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悪役令嬢と魔族

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「ぐ、ぐぁぁぁぁぁぁ?」

 悲鳴をあげて、目の前の空間が引きつれ、1人の男と・・・腕が現れた。

 シキが私を背中に庇い、その惨状から距離を取る。

 から生えた腕に、その体から黒い靄が溢れ出ている。
 ふぅん。魔族って血が出るわけじゃないんだ。あれって、瘴気とかってやつなのかな。
 血が出ているわけじゃないからか、胸から腕が出ているというのに嫌悪感がわかない。

 まぁ、本人?はものすごい悲鳴をあげているが。ということは、アレは誰か他の人の腕なわけね。

『あらあら、人間風情などと品のないことをいう低俗は、悲鳴も品がないですわねぇ』

『き、貴様っ!ルーチェ!』

 聞こえてきた声は、明るい女性の声で、どうやらルーチェ様という名前らしい。

『一体、誰の許可を得て、こんな愚行をなさったのかしら?魔王陛下は大層お怒りよ』

『ぐっ・・・』

『ごめんなさいね?私たちは人間にその姿を見せることはできないの』

「その人は構わないんですか?」

『ええ。この塵は処分するから、構わないと陛下の許可は得ているわ。本当に・・・この異空間にまで来ることができる存在を見下せるなんて、馬鹿にも程があるわ』

 魔族は人間に姿を見せることはできないらしい。だから、姿を隠していたみたいだけど、このルーチェ様という魔族の攻撃で姿を隠しておけなくなったということみたい。

 というか、どうやら魔族側で処分?してくれるということなのかな?

 私は確かに怒っているけど、別に魔族側と対抗するつもりはない。人間側に手を出したりしなければ。

『これの処分は私たちで行うわ。構わないかしら?』

「よろしくお願いします」

『本当によく出来たお嬢さんだこと。自分の力量もわかっていない馬鹿とは違うわね。ああ、そうだわ。これ!魔王陛下からお詫びにって預かったの』

 胸から突き出ていた腕の下側、お腹のあたりから、もう1本腕が伸びてきた。
 途端、悲鳴が響き渡る。

『ぎゃあああああ!』

『うるさいわね。えいっ』

『☆○*€$〆!!』

 なんだか口は動いてるけど、全く言語にならなくなったわ。静かになったのはいいけど、胸とお腹から腕が伸びてるのって、すっごくシュールだと思うの。だって、シキが全然発言しないもの。

「シキ、大丈夫?」

「・・・俺は何のために精霊の力を得たんだろうと・・・」

「私のためでしょう?ありがとう、シキ。大好きよ」

 突然のことに、呆然としちゃったのね。でも、シキは私を守るために頑張ろうって思ってくれてたの、ちゃんとわかってるから。

『ラブラブねー。でも、私もそろそろ帰るから、これ受け取ってくれる?』

 ルーチェ様に言われて、私はお腹から伸びた腕に握られていた小さな宝玉を受け取った。
 濃い紫色に輝く、握り拳大の宝玉ー

「これは?」

『それは、魔族の王である陛下の力を込めた宝玉。その玉の色が失われるまでなら魔族の力を行使出来る。1度に放出すれば、ミチェランティス程度なら崩壊させられるわよ』

「!」

 なんてものをくれるんだ。そんなの持ってたら、国に謀反の意があると思われちゃうじゃない。

『あー、大丈夫よ?その男の中に取り込めるわよ。精霊の加護も得てるみたいだし、体に害はないわ』

「私では駄目なのですか?」

『貴女、聖なる神の力が強すぎるのよね。その男にも神の力を感じるけど・・・死とか渾沌を司ってるんじゃないかな。魔族の力と反発しないみたいだからね』

 シキは死の神タナトス様の力と魂を宿しているから、魔族の力と反発しないってこと?
 シキの体に異常をきたさないなら構わないけど・・・

 シキは私から宝玉を受け取ると、そのまま手のひらで握り込む。宝玉は、溶け入るようにシキの掌の中に消えていった。

「シキ、大丈夫なの?」

「大丈夫です。何も感じないですし。力が増えたような気すらしません」

『力が増えたわけじゃないからね。あくまでも、一時的に使えるモノでしかないから。使いたい時に、念じれば、使いたいだけ使えるわよ。色が失われるまでならね』

「わかりました」

 シキがうなづくと、胸とお腹から伸びた腕は、満足そうに手を振った。
 腕が満足そうというのも、変な話だけど・・・

『じゃあ、私は帰るわね。迷惑かけちゃったけど、悪く思わないでね』

「いえ。お気遣いありがとうございます、ルーチェ様。魔王陛下様にも宝玉のお礼お伝え下さいませ」

『本当、女神の愛し子でなければ連れ帰りたいくらい・・・冗談よ、冗談。嫉妬深い男は嫌われるわよ?ふふっ。じゃあね』

 シキを揶揄った後、腕に貫かれた男ごと、ルーチェ様の気配は空間から消えた。そういえば、男の名前も知らないままだったわ。別にどうでもいいけど。

 私とシキは、お互い顔を合わせると、笑い合って異空間からの転移を行った。

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