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悪役令嬢と精霊の遺跡

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「シキくん、大丈夫ですか?」

 ライナス先生が気遣わし気に、後ろを進む私たちに振り返る。
 シキが無言でうなづくと、ライナス先生の隣のグリード様が振り返った。

「余裕をもって水分を取っておけ。2人ともだ」

 そう言うと、ご自身も腰につけた水筒を口にされる。シキは水筒を取ると、ラクダの上の私へと差し出してきた。

 砂漠の中央辺りに遺跡に向かうのに、グリード様はラクダを1頭準備された。
 私を乗せるためと、水の運搬のためだ。遺跡の手前にオアシスがある為、そこでラクダから降り、遺跡に向かう予定になっている。

 つばの広い帽子と日傘で、灼熱の日差しを遮っているものの、私の肌は汗に濡れている。
 シキはラクダの手綱をライナス先生に預けると、荷物からハンカチを取り出し、私の汗を拭ってくれる。
 日傘を受け取り、代わりに水筒を手渡してきた。

「大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫。シキは大丈夫?」

「大丈夫ですよ」

 私だけラクダに乗るのは、と思って歩くと言ったのだけど、砂に足を取られるからと言って、シキが譲ってくれなかった。

 私の持つ力がどの程度のものなのかを神様に聞けたら、移動にも役立つかもしれないと思ったのか、シキに聞いてみたらと提案されたが、私は首を横に振った。
 私は、精霊たちに情報の制限をかけているのが、その神様たちではないかと疑っている。
 理由はわからないが、もしそうなのなら、楽に目的地まで行かせてくれるとは思えない。

 私がシキに汗を拭ってもらっているのをチラリと見て、グリード様がライナス先生に話しかけている。

「アイツらは、いつもなのか?」

「まぁ、概ねそうですね。別に構わないでしょう?婚約者なのですから」

「そうなのか?え?14歳だよな?」

「アイリスさんはそうですね。シキくんは19歳ですよ?アイリスさんの卒業を待って婚姻されるそうですよ」

 とはどういうことだろう?何かおかしいの?
 そしてこの国では13歳での婚約は珍しいのかな?我が国だと貴族なら普通のことなんだけど。

 私は水筒をシキに差し出すと、日傘を受け取る。シキは、私から受け取った水筒から水を飲むと、大きく息をついた。
 さすがのシキも、この暑さには参っているようだ。

「シキ、辛いようなら少し変わる?」

「アイリスを歩かせて俺がラクダに乗るわけないでしょう。大丈夫です」

「少しくらい平気なのに」

 もう少し頼ってくれてもいいのに。確かに私は、シキに比べると何にも出来ないけど、シキのこと大事に思ってるのに。

 私が頬を膨らますと、シキが苦笑いをする。

「アイリスの気持ちは嬉しいですけど、遺跡に着いたらアイリス頼りですから、今のうちに体力を温存しといてください」

「おい。イチャイチャしてないで、そろそろ進むぞ」

 グリード様の呼びかけに、シキがライナス先生からラクダの手綱を受け取り歩き始める。

 でも、イチャイチャってどういうこと?別にイチャイチャしてないんだけど。私はラクダの上で首をかしげるのだった。



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