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悪役令嬢の対決
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「何をなさっていますの?」
冷ややかな声が響く。
背筋をピンと伸ばした、アイリス様が部屋の入り口に立っていた。
俺はー
アイリス様のことを、か弱い存在だと思っていた。俺が守らなければならない、傷つきやすくて、簡単に手折れそうな、そんな風に思っていた。
だけど、今、目の前にいるのは、燃え盛る紅蓮の炎のような、冷然たる氷のような、全てを包み込む聖母のような、そんな空気を纏った毅然した令嬢だった。
「何をなさっているのかと聞いているのです。マリエ・ホービン様」
「・・・」
「お答え下さいませ」
「なんで、なんで、なんで?どーして魅了が効かないのよ?おかしいじゃない」
少女ーマリエ・ホービンと呼ばれた少女が狂ったように喚きだす。
俺は、その姿に、かつてのナナミと呼ばれた少女を思い出した。
そうだ。どうしているはずのない魅了を使うものが2人もいるんだ?
しかも、この短期間に。
俺たちの・・・いや、アイリス様の周辺に?
「シキ、大丈夫?」
乱れた衣服のまま振り返ると、アイリス様が俺の隣へと近づいて来ていた。
俺は、慌てて衣服を正すが、触れる衣服の刺激に体が震える。
薬のせいか、それとも魅了が多少は効いているのか、熱が体を侵食していく。体の熱を吐き出すように、俺は大きく息を吐いた。
こんな状態で、アイリス様に近付いたら、俺はアイリス様を汚してしまう。自分の欲で、彼女との描く未来を壊してしまうだろう。
僅かに残る理性で、離れようとする俺に、アイリス様の左手が触れた。
「っ・・・?」
抱きしめたい熱情と、醜い欲が渦巻いた体の中を、澄んだ風が吹き抜けた、そんな気がした。
「シキ?」
「どう・・・して?」
薬のせいで、体中を暴れまわっていた欲が、水を打ったように退いていく。
俺はアイリス様を凝視した。付いているはずの腕輪がない、その左手に。
「アイリス様、腕輪・・・は?」
「え?ああ、部屋にあるわ」
どうして俺に魅了が効かなかった?
前回のナナミの時は、魔法具を付けていた。だけど、今の俺は無防備のはずだ。
どうして薬の効果が切れた?先ほどまでの、抑え切れないほどの劣情が一切なくなった。
アイリス様は、俺がお仕えした時には、既にその腕輪をされていた。入浴や就寝でも外されたことはない。
唯一、この間の俺との夜、その腕輪が外されていた。
そして今も、その腕輪がない。
それが意味するところはー?
「シキ?」
「いえ、何でもありません。大丈夫です、落ち着いたので」
そうだ。どういう意味があったとしても、俺には関係ない。
アイリス様は、俺の守るべき大切な存在。愛しい愛しい俺だけの女性だ。
俺のその思いは、突然現れた黒いローブ姿の男によって、砕かれることとなったー
冷ややかな声が響く。
背筋をピンと伸ばした、アイリス様が部屋の入り口に立っていた。
俺はー
アイリス様のことを、か弱い存在だと思っていた。俺が守らなければならない、傷つきやすくて、簡単に手折れそうな、そんな風に思っていた。
だけど、今、目の前にいるのは、燃え盛る紅蓮の炎のような、冷然たる氷のような、全てを包み込む聖母のような、そんな空気を纏った毅然した令嬢だった。
「何をなさっているのかと聞いているのです。マリエ・ホービン様」
「・・・」
「お答え下さいませ」
「なんで、なんで、なんで?どーして魅了が効かないのよ?おかしいじゃない」
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しかも、この短期間に。
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「シキ、大丈夫?」
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薬のせいか、それとも魅了が多少は効いているのか、熱が体を侵食していく。体の熱を吐き出すように、俺は大きく息を吐いた。
こんな状態で、アイリス様に近付いたら、俺はアイリス様を汚してしまう。自分の欲で、彼女との描く未来を壊してしまうだろう。
僅かに残る理性で、離れようとする俺に、アイリス様の左手が触れた。
「っ・・・?」
抱きしめたい熱情と、醜い欲が渦巻いた体の中を、澄んだ風が吹き抜けた、そんな気がした。
「シキ?」
「どう・・・して?」
薬のせいで、体中を暴れまわっていた欲が、水を打ったように退いていく。
俺はアイリス様を凝視した。付いているはずの腕輪がない、その左手に。
「アイリス様、腕輪・・・は?」
「え?ああ、部屋にあるわ」
どうして俺に魅了が効かなかった?
前回のナナミの時は、魔法具を付けていた。だけど、今の俺は無防備のはずだ。
どうして薬の効果が切れた?先ほどまでの、抑え切れないほどの劣情が一切なくなった。
アイリス様は、俺がお仕えした時には、既にその腕輪をされていた。入浴や就寝でも外されたことはない。
唯一、この間の俺との夜、その腕輪が外されていた。
そして今も、その腕輪がない。
それが意味するところはー?
「シキ?」
「いえ、何でもありません。大丈夫です、落ち着いたので」
そうだ。どういう意味があったとしても、俺には関係ない。
アイリス様は、俺の守るべき大切な存在。愛しい愛しい俺だけの女性だ。
俺のその思いは、突然現れた黒いローブ姿の男によって、砕かれることとなったー
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