誰が彼女を殺したか

みおな

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『そんなこと』は知らなかった?

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 目の前のラティエラは、夏の青空のような青いドレスに身を包み、にっこりと微笑んでいた。

 僕という婚約者がいながら、他の令息のエスコートを受けるなんて。

 ヴィクターはそう叫ぼうとして・・・

 声が出ないことに気付く。

 声が出ないだけではない。
体は指先すらピクリとも動かず、椅子に腰掛けたままのに、動くことが出来ない。

 唯一動く目だけで周囲を見渡し、ここが王宮の広間で、目の前には多くの貴族が集まっていることがわかった。

 少しすると、ギルバートとラティエラが壇上に戻ってくる。

 先ほど、ヴィクターが二人を見ることができたのは、二人が貴族たちに挨拶するために広間に降りていたからのようだった。

 だから、現在国王陛下たちを挟んで逆側にいる二人を、ヴィクターは見ることができない。

 声は出ず、身動きも取れない。
イライラするヴィクターは、唯一動く視線だけを忙しなげに動かしていた。

「皆の者、今日は集まってくれて感謝する」

 ラティエラたちが壇上に戻ったタイミングで、国王が口を開いた。

「皆に報告することがある。我が嫡子であり王太子であったヴィクターが王太子の座を下りることが決まった」

「!」

 そんな話は知らない!
ヴィクターはそう叫びたかった。

 そもそも病などではない!今朝までは普通に過ごせていたのだ。
 確かに妙な喉の渇きはあったが。

 なのに、声が出ない。
立ち上がり、父に詰め寄ることも出来ない。

立つことも話すこともできない。これでは、王太子の責務は果たせない」

 貴族たちは、ザワザワしているものの、大きな混乱は見られない。

 この後に告げられる言葉を、知っているかのようだ。

「私には子供はヴィクターしかいないため、王太子には弟の息子、ギルバートを据えることに決まった。そのことを踏まえ、私と王妃は、その座を弟のシリウス夫妻に任せることにする」

「謹んでお受けいたします」

 ヴィクターの叔父である、シリウスの声が聞こえる。

「そして、王太子ギルバートの婚約者は、ウィスタリア公爵令嬢のラティエラとする。ラティエラとヴィクターの婚約は白紙撤回済みである。ラティエラ、王太子妃そして王妃としてギルバートを支えてやってもらいたい」

「謹んでお受けいたします。よき婚約者となるよう努め、王太子殿下をお支えしたいと思います」

 婚約の白紙撤回?
そんなことは聞いていない!

 ヴィクターの声なき声が響いた。
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