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壊れた至宝《ソル視点》

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 リアナ様から笑顔が消えたー

 部屋から出るのは、リリウム公爵令嬢が訪れた時と、図書室に本を取りに行くときのみ。
 陛下や王妃様に呼ばれれば赴くが、シオン様やフローラ様がいくら誘っても、王宮から外に全く出ようとしなくなった。

 そして、何より・・・
あの愛らしい笑顔が消えた。
 口数は極端に減り、自室で静かに読書をする毎日。リリウム公爵令嬢とのお茶会では、多少は笑顔らしきものも見えるが、それはまるで淑女としての仮面のようで、あの花が咲いたような、誰もが焦がれたリアナ様ではなくなった。

 リアナ様の中の、闇の聖女を覚醒させない。その願いのもとに決断したシオン様。
 俺はそれを間違いだとは思っていない。リアナ様もそう思ったから、あの日シオン様に謝罪しだのだろう。

 だけど、あの日からー
リアナ様はまるで全てを諦めたように、少しずつ壊れていった。

 笑顔が少しずつ消え、話さなくなり、部屋からほとんど出なくなる。
 フローラ様やシオン様に誘われても3回に1回はお茶の誘いも断り、1人でいたいからと俺からも離れようとする。

 護衛だからと言っても、絶対に部屋から出ないからと言われる。

 感情の全てを閉じてしまったようなリアナ様に、シオン様は学院から戻ったら街に買い物に行こうと誘いをかけた。
 危険を避けるために学院に通わせることをやめさせたけれど、どうにかリアナ様に喜んで欲しくて、誘われたのだろう。

 だが、リアナ様は固辞した。
フローラ様も一緒に行きましょう?と強く誘われていたが、リアナ様がうなづくことはなかった。

 俺たちはー

何かを間違えたのだろうか。

 闇の聖女として覚醒すれば、リアナ様はリアナ様でなくなってしまうという。
 リアナ様としての心は消え、闇の聖女として世界を混沌へと導く存在になると。

 もし、リアナ様の心が残っていたとしても、自分が壊していく世界を見て、きっとその優しい心を痛めてしまう。

 王家として、世界を混沌に導くわけにはいかない。
 そして、大切な妹姫を苦しませたくなどない。

 だから、今できる最良の選択をしたはずなのに。

 あと1年たてば、シオン様は聖女フローラ様と婚姻を結ばれる。
 そうすれば、リアナ様と俺は婚姻し、リアナ様を手に入れようとする貴族たちも諦めざる得なくなる。

 王家の場合、1度結ばれた婚姻は絶対だ。相手が病気や事故で亡くなった場合でも5年は再婚は認められないし、離縁は絶対にできない。
 お互いの伴侶以外の相手は認められず、王家といえど、側室を持つことも認められていない。

 つまり、婚姻さえすれば、リアナ様にはもう少し自由を与えて差し上げられるのだ。

 あと1年。あと1年の我慢なのに。
だけど、あと1年もこのまま?リアナ様はこのままリアナ様でなくなってしまうのではないか。
 俺を映さなくなった漆黒の瞳。俺は窓際に座るリアナ様を見上げたー
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