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公爵家嫡男の決意
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僕はアルク・ジェラルド。
ジェラルド公爵家の嫡男だ。近く14歳になる。
僕の父上は公爵家の嫡男で、侯爵家の令嬢だった母上と政略結婚をした。それでも、母上のことは大切にしていたと子供心に覚えている。
だけど、母上は僕が9歳を迎えた年に、流行病で亡くなってしまった。
そして、僕が12歳になった年に、父上は幼馴染の伯爵令嬢を後妻に迎えた。
新しい義母上は、伯爵令嬢でありながら平民と駆け落ちしていたそうだ。だが、伯爵家に連れ戻されたのだと聞いた。
その平民との子供が、ローズという僕の1つ年下の女の子だ。
父上が再婚して少しした後、そのローズが父親に暴力をふるわれていると分かった。
義母上はずっとローズのことを気にかけていて、父上が調査していたようだ。
義母上の懇願もあり、父上はローズを引き取ることにした。
初めて見る義妹は、艶のないピンクブロンドの髪に、細く痩せ細った体、怯えた瞳をした、とても僕の1つ年下には見えない少女だった。
そんな義妹が、公爵家で父上や義母上、使用人たちの愛情をたっぷり受けて変わっていく。
髪は艶やかに波打ち、小柄なままだが、頬はピンク色に色づき、荒れていた肌も白く白磁のように滑らかになった。
平民育ちのために、少々おどおどしたところがあるが、使用人にも優しく分け隔てないローズは、誰からも愛された。
僕はー
そんなローズのことをとても大切だと思うようになっていた。
引き取られてすぐに倒れたローズが目覚めたと聞き、何気なく扉を開けた僕は、父上や義母上はもちろん、ローズ付きの侍女や使用人たちに総スカンにあった。
扉を開けたときに見えた白く小さな背中が目に焼き付いて、呆然と立ち尽くす僕の耳に、鈴を転がしたような悲鳴が聞こえた。
そして、扉向こうへと叩き出された僕は、侍女から鬼のような形相で睨まれ、父上には公爵家嫡男失格と言われ、執事にまで情けないと言われた。
みんなの非難に顔もあげられない僕の耳に、小さな声が聞こえる。
「あの、気にしてませんから、そのへんで」
ローズが扉をほんの少し開けて顔をのぞかせていた。
「ローズ、ごめん」
謝る僕に、父上は罰を与えなければと言っていたけど、ローズはそんなことをするなら公爵家を出て行くとまで言って、僕を庇ってくれた。
優しい、まるで天使のような義妹。
僕とローズには血の繋がりがない。父上も義母上も使用人たちもローズのことが大好きだ。
もしも、ローズが望んでくれたなら、僕と結婚してこのままジェラルド公爵家の家族になってもらえる未来が来るかもしれない。
ローズは、第2王子であるレオンハルト殿下との婚約を拒否していた。もしかしたら・・・
そんな希望はあっけなく砕かれてしまった。ローズは、第1王子であるアルフレッド殿下と婚約してしまったのだ。
しかも、ローズがアルフレッド殿下のことを好きだと、義母上が言っていた。
大切な、大切な、ローズ。
僕はどんなに焦がれても、あの天使を手に入れることはできない。苦しくて、切なくて、僕はローズに思わず尋ねてしまった。
「ローズは僕や・・・父上、義母上よりもアルフレッド殿下のことが好き?」
「・・・?比べるものでしょうか?アルク兄様やお義父様お母様は家族でしょう?」
「うん」
「もしも、アルフレッド様と一緒になれない日が来たとしても、一緒になって過ごす日が来たとしても、どちらにしてもアルク兄様たちが私の家族でいてくれることに変わりはないのでしょう?」
ああ。そうか。
僕はローズの愛する存在にはなれないけど、家族という特別な存在では永遠に居られるんだ。
それなら。
それなら、耐えられる。ローズがずっと幸せに笑っていてくれるなら、その隣にいるのが僕じゃないとしても。
だけど、もしもアルフレッド殿下がローズを泣かせるようなことがあったら、僕は2度とローズを手放したりしない。
きっと、父上たちもそう思っているだろう。
ジェラルド公爵家の嫡男だ。近く14歳になる。
僕の父上は公爵家の嫡男で、侯爵家の令嬢だった母上と政略結婚をした。それでも、母上のことは大切にしていたと子供心に覚えている。
だけど、母上は僕が9歳を迎えた年に、流行病で亡くなってしまった。
そして、僕が12歳になった年に、父上は幼馴染の伯爵令嬢を後妻に迎えた。
新しい義母上は、伯爵令嬢でありながら平民と駆け落ちしていたそうだ。だが、伯爵家に連れ戻されたのだと聞いた。
その平民との子供が、ローズという僕の1つ年下の女の子だ。
父上が再婚して少しした後、そのローズが父親に暴力をふるわれていると分かった。
義母上はずっとローズのことを気にかけていて、父上が調査していたようだ。
義母上の懇願もあり、父上はローズを引き取ることにした。
初めて見る義妹は、艶のないピンクブロンドの髪に、細く痩せ細った体、怯えた瞳をした、とても僕の1つ年下には見えない少女だった。
そんな義妹が、公爵家で父上や義母上、使用人たちの愛情をたっぷり受けて変わっていく。
髪は艶やかに波打ち、小柄なままだが、頬はピンク色に色づき、荒れていた肌も白く白磁のように滑らかになった。
平民育ちのために、少々おどおどしたところがあるが、使用人にも優しく分け隔てないローズは、誰からも愛された。
僕はー
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引き取られてすぐに倒れたローズが目覚めたと聞き、何気なく扉を開けた僕は、父上や義母上はもちろん、ローズ付きの侍女や使用人たちに総スカンにあった。
扉を開けたときに見えた白く小さな背中が目に焼き付いて、呆然と立ち尽くす僕の耳に、鈴を転がしたような悲鳴が聞こえた。
そして、扉向こうへと叩き出された僕は、侍女から鬼のような形相で睨まれ、父上には公爵家嫡男失格と言われ、執事にまで情けないと言われた。
みんなの非難に顔もあげられない僕の耳に、小さな声が聞こえる。
「あの、気にしてませんから、そのへんで」
ローズが扉をほんの少し開けて顔をのぞかせていた。
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謝る僕に、父上は罰を与えなければと言っていたけど、ローズはそんなことをするなら公爵家を出て行くとまで言って、僕を庇ってくれた。
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もしも、ローズが望んでくれたなら、僕と結婚してこのままジェラルド公爵家の家族になってもらえる未来が来るかもしれない。
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そんな希望はあっけなく砕かれてしまった。ローズは、第1王子であるアルフレッド殿下と婚約してしまったのだ。
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大切な、大切な、ローズ。
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だけど、もしもアルフレッド殿下がローズを泣かせるようなことがあったら、僕は2度とローズを手放したりしない。
きっと、父上たちもそう思っているだろう。
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