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50《最終話》
しおりを挟む「ユーカリプタス様。婚約者でもない方のことをお名前で呼ぶなんて、失礼ですわ。それに、いくら学園とはいえ、王太子殿下の許可なくお声をかけることは不敬でしてよ」
サフィニア様が、デイジーを嗜める。
ずっとエルム兄様が俯いてるから、心配しているんだろう。
だけど注意されたデイジーは、どこをどう見てもヒロインとは思えない醜い表情で、サフィニア様を睨みつけた。
「うるさいっ!私はエル様と結婚して王太子妃になるのよ!その私に向かって偉そうにッ!アンタなんか、この国から追放してやるわ!」
「アスター。警備を呼べ」
ずっと俯いていたエルム兄様が、硬い声でそう口を開いた。
「平民だったからと我慢していたが、僕の可愛いサフィニアを国外追放だと?しかも王太子妃?ふざけるのも大概にしろ!」
「エル様ぁ。どうしてそんなことを言うんですかぁ?私のこと好きなのにそんなことを言うなんて。その女のせいですか?」
兄様の怒りも全く気に留めず、話をカケラも理解しようとしないデイジーに、サフィニア様やアスター様たちは戸惑いを隠せない。
ああ、駄目だ。これは完全に駄目なやつだ。
「デイジー!やめるんだ!これ以上殿下に迷惑をかけるんじゃない。どうしたんだ?昔のお前はそんなじゃなかっただろう?」
「はぁ?トリヤこそ、私にドレスも贈って来ないで、何やってるの?王太子妃になった私を守るのがあなたの役目でしょ!」
「デイジー・・・お前が王太子妃になれるわけがないだろう。殿下の婚約者候補になれたご令嬢だけが王太子妃なれる可能性があるんだから」
「ハァ?何言ってるのよ!そんな設定ないわよ。ここは、ヒロインである私のための世界なの!私がエルムを選んであげたんだから、私が王太子妃になるのは当たり前じゃない」
デイジーは、トリヤ様が何を言っても聞こうとしなかった。
そうこうしているうちに、アスター様が警備兵を連れて来て、デイジーは彼らに拘束された。
喚き散らしながら、会場から連れ出されていくデイジーを、トリヤ様は切なそうに見送っていたけど、アゼリア様がそっとその腕に触れると、何かを断ち切るように首を振ってアゼリア様を会場内へとエスコートして行った。
その日の舞踏会は、デイジーの退出後は特筆することもなく終わった。
私とアゼリア様も、厚底ブーツのおかげで、大木に蝉にならずにダンスを終えることが出来た。
後日。
デイジーは、ユーカリプタス子爵家から廃籍された。
まぁ、無理はない。
娘のままにしておけば、子爵家が被害を被ることになる。
平民に戻った彼女は、王都から遠く離れた修道院に入れられることが決まった。
私は、デイジーに会いには行かなかった。
あの時、設定だのヒロインだの言っていたデイジーが転生者であることは分かったけど、乙女ゲーム『花盗人の日記』を全く理解していない彼女に何かを言う気にはなれなかった。
それに、現実を全く見ていない彼女に、何を言っても通じる気がしなかったのだ。
ここが乙女ゲームの世界でないと言ってもデイジーは理解しようとしないだろう。
そして、ここが本当に乙女ゲームの世界だったとしても、彼女はヒロインとして正しい進め方が出来なかった。
攻略対象たちは、ヒロインを認めず、ゲームはバッドエンドを迎えたのだ。
「リズ。どうかした?」
私は、隣で私の髪を撫でるシスルを見上げ、にっこりと微笑んだ。
「いいえ?この先どんな物語が紡がれていくのか、楽しみだなと思っただけですわ」
私の物語は、これからシスルと共に紡がれていく。
この物語のヒロインは私で、みんなそれぞれがそれぞれの物語のヒロインなのだから。
サフィニア様が、デイジーを嗜める。
ずっとエルム兄様が俯いてるから、心配しているんだろう。
だけど注意されたデイジーは、どこをどう見てもヒロインとは思えない醜い表情で、サフィニア様を睨みつけた。
「うるさいっ!私はエル様と結婚して王太子妃になるのよ!その私に向かって偉そうにッ!アンタなんか、この国から追放してやるわ!」
「アスター。警備を呼べ」
ずっと俯いていたエルム兄様が、硬い声でそう口を開いた。
「平民だったからと我慢していたが、僕の可愛いサフィニアを国外追放だと?しかも王太子妃?ふざけるのも大概にしろ!」
「エル様ぁ。どうしてそんなことを言うんですかぁ?私のこと好きなのにそんなことを言うなんて。その女のせいですか?」
兄様の怒りも全く気に留めず、話をカケラも理解しようとしないデイジーに、サフィニア様やアスター様たちは戸惑いを隠せない。
ああ、駄目だ。これは完全に駄目なやつだ。
「デイジー!やめるんだ!これ以上殿下に迷惑をかけるんじゃない。どうしたんだ?昔のお前はそんなじゃなかっただろう?」
「はぁ?トリヤこそ、私にドレスも贈って来ないで、何やってるの?王太子妃になった私を守るのがあなたの役目でしょ!」
「デイジー・・・お前が王太子妃になれるわけがないだろう。殿下の婚約者候補になれたご令嬢だけが王太子妃なれる可能性があるんだから」
「ハァ?何言ってるのよ!そんな設定ないわよ。ここは、ヒロインである私のための世界なの!私がエルムを選んであげたんだから、私が王太子妃になるのは当たり前じゃない」
デイジーは、トリヤ様が何を言っても聞こうとしなかった。
そうこうしているうちに、アスター様が警備兵を連れて来て、デイジーは彼らに拘束された。
喚き散らしながら、会場から連れ出されていくデイジーを、トリヤ様は切なそうに見送っていたけど、アゼリア様がそっとその腕に触れると、何かを断ち切るように首を振ってアゼリア様を会場内へとエスコートして行った。
その日の舞踏会は、デイジーの退出後は特筆することもなく終わった。
私とアゼリア様も、厚底ブーツのおかげで、大木に蝉にならずにダンスを終えることが出来た。
後日。
デイジーは、ユーカリプタス子爵家から廃籍された。
まぁ、無理はない。
娘のままにしておけば、子爵家が被害を被ることになる。
平民に戻った彼女は、王都から遠く離れた修道院に入れられることが決まった。
私は、デイジーに会いには行かなかった。
あの時、設定だのヒロインだの言っていたデイジーが転生者であることは分かったけど、乙女ゲーム『花盗人の日記』を全く理解していない彼女に何かを言う気にはなれなかった。
それに、現実を全く見ていない彼女に、何を言っても通じる気がしなかったのだ。
ここが乙女ゲームの世界でないと言ってもデイジーは理解しようとしないだろう。
そして、ここが本当に乙女ゲームの世界だったとしても、彼女はヒロインとして正しい進め方が出来なかった。
攻略対象たちは、ヒロインを認めず、ゲームはバッドエンドを迎えたのだ。
「リズ。どうかした?」
私は、隣で私の髪を撫でるシスルを見上げ、にっこりと微笑んだ。
「いいえ?この先どんな物語が紡がれていくのか、楽しみだなと思っただけですわ」
私の物語は、これからシスルと共に紡がれていく。
この物語のヒロインは私で、みんなそれぞれがそれぞれの物語のヒロインなのだから。
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どうなるかな?
あと、ヒロインの出方が気になりますね💦
感想ありがとうございます😊
そこはまぁ、前世持ちということで、ちゃんと?対策します。
5歳差はありますけど、シスルもまだ14歳。ニョキニョキ伸びるのは、まだ先なので😅
ヒロインは、残念なコースになると思います。うん。攻略対象全員にそっぽ向かれましたからね。
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