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交流祭の翌日から、私は黙々と刺繍に勤しんでいた。
推しにあんな拙い刺繍を見られたのだ。次に見られることがあれば、上達してると思われたい。
まぁ、シスルは私になんて興味ないだろうけど。
でもって、会う機会もないだろうけど。
だけど、ハンカチを届けてもらったお礼とかって渡せたらなぁと、シスルに刺繍したハンカチを渡そうと思いついたのだ。
そしたら、お父様が自分だってもらってないのにと言い出して、その上、戻って来たエルム兄様までギャーギャー喚きだした。
結果。
お母様がキレた。
それはもう、あたり一体が凍土と化すくらい、冷ややかに壮絶に。
お父様とエルム兄様はマズイと気付いたが時すでに遅く、お母様は恐ろしいほど綺麗な笑みを浮かべて、こうおっしゃった。
「フロックス公爵に、婚約の打診をいたしましょう。シスル・フロックスをアイリスの婚約者に」
お怒りのお母様に、お父様もエルム兄様も太刀打ちできるわけがなく、でもって私も、初めて見るお母様のお怒りモードに呆然としてしまった。
「お母様。でも、シスル様は私より五歳も年上です。他にお好きな方がいるかもしれませんし」
お父様たちを追い出したあと、私はお母様におずおずとそう訴えた。
ヒロインがお花畑な転生ヒロインな時点で、私の知っている正当な乙女ゲームは進行しないだろう。
そんな彼女に攻略対象たちが好感を抱くとは思えないけど、ゲームの強制力というものもあるかもしれない。
そんなものがなかったとしても、推しであるシスルには、好きな人と結ばれて幸せになって欲しい。
公爵家嫡男であるシスルは、政略結婚する可能性も高いけど、成人するまでに公爵夫人に相応しい相手と恋をするかもしれないし。
本当なら、ヒロインがその相応しい人なんだけど・・・どこでどうなってああなったかなぁ。
「アイリスは彼が嫌い?」
「え、あ、えっ、その・・・」
前世の推しです!
しかも生シスル、最高ですっ!
「アイリスの降嫁先として、フロックス公爵家は第一候補よ。もちろん、アイリスが望むなら伯爵家でも侯爵家でもかまわないけど。だけど、できることなら他国ではなくこの国の貴族に嫁いで欲しいわ」
「嫁ぐ・・・って、まだまだ先です」
「そうね。でも、もう他国から釣書は届き始めているの。今は陛下が届いた途端にお断りしているのだけど」
なんと!
あー、でもそうかぁ。早くから婚約するのが当たり前の世界だものね。
そういう意味では、乙女ゲーム『花盗人の日記』って特殊なのかも。
王太子が成人する時まで婚約者がいないんだから。
ん?
私の婚約より、エルム兄様の婚約者を先に決めるべきでは?
推しにあんな拙い刺繍を見られたのだ。次に見られることがあれば、上達してると思われたい。
まぁ、シスルは私になんて興味ないだろうけど。
でもって、会う機会もないだろうけど。
だけど、ハンカチを届けてもらったお礼とかって渡せたらなぁと、シスルに刺繍したハンカチを渡そうと思いついたのだ。
そしたら、お父様が自分だってもらってないのにと言い出して、その上、戻って来たエルム兄様までギャーギャー喚きだした。
結果。
お母様がキレた。
それはもう、あたり一体が凍土と化すくらい、冷ややかに壮絶に。
お父様とエルム兄様はマズイと気付いたが時すでに遅く、お母様は恐ろしいほど綺麗な笑みを浮かべて、こうおっしゃった。
「フロックス公爵に、婚約の打診をいたしましょう。シスル・フロックスをアイリスの婚約者に」
お怒りのお母様に、お父様もエルム兄様も太刀打ちできるわけがなく、でもって私も、初めて見るお母様のお怒りモードに呆然としてしまった。
「お母様。でも、シスル様は私より五歳も年上です。他にお好きな方がいるかもしれませんし」
お父様たちを追い出したあと、私はお母様におずおずとそう訴えた。
ヒロインがお花畑な転生ヒロインな時点で、私の知っている正当な乙女ゲームは進行しないだろう。
そんな彼女に攻略対象たちが好感を抱くとは思えないけど、ゲームの強制力というものもあるかもしれない。
そんなものがなかったとしても、推しであるシスルには、好きな人と結ばれて幸せになって欲しい。
公爵家嫡男であるシスルは、政略結婚する可能性も高いけど、成人するまでに公爵夫人に相応しい相手と恋をするかもしれないし。
本当なら、ヒロインがその相応しい人なんだけど・・・どこでどうなってああなったかなぁ。
「アイリスは彼が嫌い?」
「え、あ、えっ、その・・・」
前世の推しです!
しかも生シスル、最高ですっ!
「アイリスの降嫁先として、フロックス公爵家は第一候補よ。もちろん、アイリスが望むなら伯爵家でも侯爵家でもかまわないけど。だけど、できることなら他国ではなくこの国の貴族に嫁いで欲しいわ」
「嫁ぐ・・・って、まだまだ先です」
「そうね。でも、もう他国から釣書は届き始めているの。今は陛下が届いた途端にお断りしているのだけど」
なんと!
あー、でもそうかぁ。早くから婚約するのが当たり前の世界だものね。
そういう意味では、乙女ゲーム『花盗人の日記』って特殊なのかも。
王太子が成人する時まで婚約者がいないんだから。
ん?
私の婚約より、エルム兄様の婚約者を先に決めるべきでは?
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