恋とはどんなものかしら

みおな

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さよならの魔法

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 あれから、私はすぐに、学園へと戻った。
 シオン様も何も言わなかった。
 多分、レインハルト様のことで、王宮にいるのがつらいだろうと気遣ってくれたんだと思う。

 学園に戻ってから、私は、授業の合間をぬって、ありとあらゆる魔法の本を読み漁った。

 私は、この世界が乙女ゲームの世界だと、今はもう思っていない。酷似はしているけど、ここは現実世界だ。
 私がかつて生きていた、前世の世界と異なる次元に存在する、そんな世界の1つだという認識と言えば、理解してもらえるだろうか。
 もしかしたら、この世界で生きていた人が、転生して、私の前世の世界に生まれ変わり、あのゲームを作ったのかもしれない。

 私が、この世界に転生したように、レインハルト王子も、どこかの世界に生まれ変わったかも、しれない。

 私の、この小さな手で救えるものなんて、ほんの少しでしかない。
 神様じゃないから、死んだ人を生き返らせることも、できやしない。

 だけど、私が転生したことで、この世界の筋書きが変わってしまったのだとしたら、私には、それを正さなければならない『義務』がある。

 そして、その『義務』を果たすべく、魔法書とのにらめっこが数週間続いた。

 見つけた!

 私があの日、シオン様を救うために、無意識で使った転換魔法は、無の魔法だ。
 制御が難しく、膨大な魔力を必要とする魔法。
 その中に、私は見つけた。

 過ぎ去った、過去の時間に巻き戻す、『時』の魔法を。

 問題は、私がそれを使えるかどうかだったが、色々試してみた結果、使えることがわかった。

 『収納』という、空間認識魔法で、朝入れた紅茶を収納し、お昼に出したところ、入れたての熱さで出すことができたのだ。
 収納していても、時間は経過していくから、物は傷むし、お茶も冷める。
 おそらく、『時』魔法を併用しているのだと思われた。

 これで・・・

 レインハルト王子が処刑される『未来』をなくす、『過去』に戻れる。

 私は、レインハルト王子のことを、鬱陶しいとさえ思っていた。
 だけど、彼が処刑されたと聞いて、何事もなかったように生きていくことはできなかった。

 シオン様の、時折見せる苦しそうな表情が、王太后様の辛そうな微笑みが、この先、何もなかったように、笑い合うことはできないと言っていた。

 だから、巻き戻す。

 時魔法は未知数だ。
 時間が戻った時、私が、今の記憶を持っているのか、それとも全く別の『レティシア』なのか、わからない。
 戻したところで、今まであったことが、そのまま起こるのか、それすらはっきりしない。

 だけどー

 シオン様と想いを通わすことができた、そんな奇跡はもう起こらないだろう。

 シオン様・・・

 私の大好きな人。

 前世の推しとか、関係なく、大好きになった、たったひとりの人。

 時間を巻き戻せば、もう2度と、あんな風に笑いかけてはもらえない。
 優しく抱きしめてもらえない。
 少し低めの声で、名前を呼んでもらうことも、大きな手で髪を撫でてもらうことも、できない。

 苦しい・・・こんなに好きなのに。

 魔法の決行を決めた日、私は、手紙を書いた。
 それが、過去に戻った時、どう作用するのかはわからない。
 だけど、今の、前世の知識を、戻った時間の『レティシア』が持っていなかったら、ドラゴンの襲来や、その他のイベントを、無事にこなせないかもしれない。

 イベント完遂のための、ヒントになればいい、と思い、私の名は書かずに、ルティシア宛に手紙を残す。
 ルティシアなら、過去に戻った時に、この手紙が存在さえすれば、きっとどうにかしてくれるだろう。

 本当はー
 お父様たちにも会って、最後の時間を過ごしたい。
 だけど、公爵家に戻れるのは、1か月ほど先の休暇だ。先延ばしにすれば、魔法を実行するのが辛くなる。

 私は、その夜ー
 シオン様に会いに王城へと向かった。

 「どうした?レティシア。何かあった?」

 シオン様は、執務室で私を出迎えてくれたけど、私が何も言わないので、そのまま彼の自室へと、手を引かれ連れてこられた。

 「レティシア?」

 ベッドに腰掛け、私を膝抱きにして髪を撫でてくれる。

 嫌だ。彼と会えなくなるなんて。

 心が軋んだ。

 彼の膝から立ち上がると、部屋を明るく照らす、ランプの明かりをそっと消す。

 「レティシア?」

 月明かりに照らされたシオン様が、驚いたような表情で、私を見る。

 私は、シオン様の視線に晒されたまま、ドレスのリボンを解いて、そっとそれを足元に落とした。

 下着姿の私を、シオン様が凝視している。

 「レティシア、だめだ・・・我慢出来なくなる・・・」

 「こんな子供の身体じゃ、だめですか?」

 「違う!だけど、だめだ・・・」

 苦しそうに、私から視線を逸らしたシオン様に、私は近づくと、その手をそっと、自分のささやかな膨らみへと導く。

 ビクッ。

 葛藤しているシオン様の、その耳元へと、唇を落とす。

 しばらく抵抗していたシオン様だったが、私が引くつもりがないことを感じたのか、きつく私を抱きしめたー

 私は、少しの間、気をやっていたようだ。
 目を覚ますと、まだ夜は明けていないようだった。
 目の前には、月明かりに照らされた、シオン様の寝顔がある。

 うっすらとクマのできた綺麗な顔に、そっと指で触れる。
 ぐっすりと眠っているのか、目を覚ます様子がない。

 きっと、あの日からー

 私が気を失ったあの日から、ろくに眠れていなかったのだろう。

 その、柔らかな唇に、自分のそれを重ねる。

 大好きな、大好きな、シオン様。

 最初で、最後の夜をありがとうー

 私は、ベッドから降りると、もう一度、彼に口づけて、寝室を後にした。

 「さよなら」

 彼に、届かない別れを呟くと、私は時魔法を唱えたー





 









 
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