恋とはどんなものかしら

みおな

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逃げるべきか、逃げざるべきか、それが問題だ

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 きゃあああああ!

 生徒たちが一斉に逃げ出した。
そりゃ、そうよね、早く逃げて。

 でも、私は、その真紅の瞳を見つめたまま、実技場に立ち尽くしていた。

 逃げたい。逃げたい!逃げたい!!

 だって、ドラゴンだよ。私みたいな、一般人が残ったって、何の役にも立つわけない。むしろ、足手まといだろう。

 だけど、ルティシアがこのドラゴンを治めないと、確実に死人が出る。
 というか、このイベント、成功させないと、後々、王都滅亡フラグが立つ!

 じゃあ、ルティシアお願いね、って、そんなこと、言えるわけない!
 ルティシア1人に、いや、攻略対象はいるけど、任せて、私だけが逃げる?
 そんな選択、妹溺愛のお姉さまができるものか!

 「レティシア!何してる!早く逃げろ!!」

 クロードが駆け寄ってくる。

 ああ。彼はやっぱり逃げないわよね。

 王子は・・・
 腰を抜かして、へたり込んでいる。

 チッ。

 やだ。思わず、何こいつって思っちゃったわ。まぁ、でも、そうよね。13歳の子供だもんね。ドラゴンだもんね。仕方ないか。
 ゲーム内の王子は、凛々しかったんだけどな。ルティシアを守るように、ドラゴンにも立ち向かってたんだけど。

 「だめよ、クロード。私たちが逃げたら、あのドラゴンが追ってくる」

 「だけど、俺たちに出来ることなんか・・・光魔法か!」

 さすが、クロード。私の考えをすぐに察した。

 光魔法は、魔の力を抑えることができる。あの、暴走している力を抑えれば、ドラゴンは静まる。
 ゲームでもそうだったしね。

 問題は、

 ルティシアが、その力を発揮できるかだ。
 ゲーム内のヒロインができたからと言って、ルティシアが出来るとは限らない。
 現に、王子は何の役にも立ってないし。

 「クロード様、お姉さま・・・私、やってみます」

 そう言うと、ルティシアは、私の腕から手を離し、両手をドラゴンへと向ける。

 ああ。やっぱり、ルティシアは稀有な存在だ。怖いだろうに、立ち向かおうとするその姿は、誰もに愛されるに相応しい、清廉な天使だ。

 グォォォォォ!!

 自分をどうにか出来るのは、ルティシアだけだと分かったのだろう。
 ドラゴンが、その視線をルティシアに定める。

 ドラゴンが唸り声をあげると、強い風が吹き荒れ、石礫が襲ってくる。

 「現れたまえ!氷壁結界!!」

 へたり込んでいる王子と、私たちの周りに、氷の壁を作って、礫を防ぐ。

 あー、幼い頃から、こっそり魔力の勉強していて、良かった。
 ドラゴンなんかは倒せないけど、少なくとも、露払いくらいは出来るようだ。

 クロードと、レインハルト王子が、驚いたようにこっちを見ている。

 まぁ、そうだよね。今日、初めて実技した子供が、ドラゴンを目の前に、こんなこと出来るとは、思わないよね。

 だけど、私の記憶の中には、魔力を暴走させて、死んでいく私がいる。
 その、記憶通りにならないために、ちゃんと魔力を、制御できるようにならないといけない。

 そのために、物心ついたころから、独自に魔力の勉強を始めた。
 私は、思ったより魔力量が多い。暴走させたら、間違いなく死亡ルートだ。

 「お願い!鎮まって!」

 祈るように、ルティシアが魔力を編み上げようとしているけど、編み上げる横から解けていく。

 魔法の発動は、難しいのだ。
 その原理を理解しないと発動しない。初歩の魔法なら、学園に入学し、魔法学の座学を終えた者なら、ほぼ発動できるが、ルティシアの使おうとしている光魔法は、綿密な魔力の編み上げが必要となる。

 やっぱり、難しいか。

 ゲーム内では、攻略対象が危機に陥って、それを救うために、魔力を暴走させて、ドラゴンを治めるのだ。
 そして、そのルティシアを、攻略対象が抱きしめて、暴走を抑えれば、イベント完遂となる。

 いくら、魔力量が多いといっても、いつまでも氷の壁を保ってはいられない。

 どうする?どうする?

 焦る私の目の前で、氷の壁が、石礫によって砕かれた。




 


 
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