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ヒロインの攻略対象

ビスクランド家《ケルドラード国王視点》

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 ケルドラード皇国の国王になり、正妃、側妃を得たのは、先王である父上の命令だった。

 愛した正妃、当時は皇太子妃だったが、彼女がエルンスト、つまり次期皇太子を産んだ時点で、私は王位を継いだ。
 ケルドラード皇国は代々、次期皇太子が生まれた時点での譲位となるのだ。

 そして、皇太子が生まれているにもかかわらず、私は側妃を娶らされた。

 ケルドラード皇国は一夫多妻制だ。
中には正妻しか持たない貴族もいる。若い貴族ほどその傾向にある。だが、私にはそれが許されなかった。

 当時、ご健在であったお爺様が私に有無を言わせずお決めになられたのだ。

 私は、お爺様や父上に隠れて、正妃に詫びた。正妃を愛していること。皇太子を生んだにもかかわらず、側妃を娶らなければならないことを。

 正妃は、ゆっくりと首を横に振った。
気に病むことはないと言ってくれた。ずっと続いてきた慣習を変えることは難しいことだからと。

 お爺様がご逝去された後、ずっと宰相を務めていた公爵が辞意を求めてきた。
 そして後任となったのが、ビスクランド侯爵だ。

 元々は伯爵家の当主で、さほど目立たない人間だった。
 父上の年代の人間なのに、一夫一妻を貫いていて、そこが珍しい程度の貴族だったのだ。

 それがひっくり返ったのは、お爺様がお亡くなりになる少し前、隣国の王族に対して失礼な発言をなさった時だ。
 当然、隣国は怒り、戦争回避は無理だと思われた。

 父上もお爺様も、当時皇太子だった私も、隣国に何度も詫びた。
 戦争になれば、ケルドラード皇国など簡単に滅びる。当時はまださほど騎士団の育成にも力を入れていなかった。
 それでも、他国から攻め入られなかったのは、隣国との関係が良好で、その隣国を恐れてのことだったのだ。

 お爺様はそれを、一瞬で壊してしまった。私は、隣国の属国になることを覚悟した。
 父上やお爺様は、皇族としてのプライドが高すぎて、土下座までして謝ることが出来ない。
 紙面上でいくら謝られても、それでは誠意は伝わらないだろう。

 そんな時、ビスクランド伯爵が私に言ったのだ。助けて差し上げてもいいと。

 条件はただ1つ。国王や先代が無理でも、私が隣国へ赴き、土下座して謝罪すること。

 私はお爺様や父上には条件は内緒で、伯爵が知り合いがいるから話をつけてくれるかもしれないと言って、隣国へと向かった。

 土下座して必死に謝罪する私を見て、隣国の国王陛下は「今回だけですよ」とお許し下さった。

 そのことがあって、父上はビスクランド伯爵を陞爵し侯爵とし、宰相の職につけた。

 あとで聞いたことだが、隣国国王陛下はビスクランド侯爵夫人の従兄だというのだ。父上たちには内緒ですよ、と言う侯爵に、私は未だに頭が上がらない。
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