乙女ゲームが始まってるらしいです〜私はあなたと恋をする〜

大丈夫ですよ

「リリーも頑張っていますから」

　あの事件から、リリーは私とも普通の姉妹の距離になり、乙女ゲームのヒロインらしくなった。

　それを寂しいと思う気持ちはある。

　子供の頃から、ずっとシスコンのリリーと一緒に過ごした。
　だから、意外にも寂しいと思ってしまった。

　でも、もしリリーが本当にエミリオ殿下と結ばれるなら、彼女は王太子妃になる。

　私がハルト様と結ばれるかは分からないけど、たとえハルト様が王弟のご子息でも、私は伯爵令嬢でしかない。

　いつかは、気軽に話を出来る相手ではなくなるのだ。
　今から慣れていくべきなのかもしれない。

「・・・気持ちはわかるが、あまり無理をしないで欲しい」

「はい。でも、大丈夫ですよ」

　社畜となっていたアラサー女子の私である。
　朝昼晩と決まった時間に食事を摂り、食休みの時間やおやつの時間まであり、夕食後は勉強もない。

　この上なく、クリーンな状況での勉強。
無理のしようもない。

　それにリリーが頑張っているのも事実だ。

　王子妃王太子妃の勉強は、私が学んでいる公爵夫人としての勉強よりももっと厳しい。

　それをあのドジっ子リリーが、文句も泣き言も言わず頑張っているのだ。

「その・・・リラ嬢」

「はい、なんでしょう。ハルト様」

「これを、受け取って欲しい」

　ハルト様が差し出した小さな箱を、私は戸惑いながらも受け取った。

「これって・・・」

　箱の中に入っていたのは、少し青みを帯びたグレーダイヤモンドの指輪。

　花をモチーフにした可愛らしい、だけど見るからに高価そうな指輪がそこにあった。

「婚姻の際には、我が家に伝わるネックレスを贈ることになるんだが、どうしてもリラ嬢に僕自身の色を身につけてもらいたくて」

「綺麗・・・です。すごく・・・」

　前世でアラサーまで生きて来たけど、私は喪女と呼ばれる残念な存在だった。

　恋人に指輪やネックレスなど宝飾品を贈られる同僚や後輩を、ずっと羨ましいと思っていた。

　私には過ぎた願いだったけど、あんなふうに愛されて大切にされたいって思ってた。

　だから、乙女ゲーム内のリリーに憧れた。

　可愛くて、頑張り屋で、ちょっとドジだけどみんなに愛されるヒロイン。

　イケメンの攻略対象に愛されて、でもそれに驕ることもない、素敵な女の子。

　あんなふうになりたかった。

「受け取ってくれるだろうか」

「あ、りがとうございます。でも、こんなふうに気遣ってくださらなくても、その、ちゃんと婚約者として相応しくなれるように頑張りますから、大丈夫ですよ」

　同情で婚約した相手にまで、心配りをするハルト様は本当にお優しい。

　申し訳なくなるくらいに。