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リリーを探して

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 お父様の指示で、家令がビブラート公爵家に向かおうとしたその時、先ぶれもなくやって来たのは、ビブラート公爵その人だった。

「公爵様?」

「先触れもなく、すまない。だが、緊急事態ゆえ許して欲しい。先刻、我が家の馬車が襲撃にあった。御者は意識不明、息子は頭を殴られていたが、先ほど意識を取り戻した。そして、こちらのご息女が拉致されたと・・・」

「!」

 公爵家の馬車を襲撃?

「そ、それで娘は・・・」

「殿下が救出に向かわれている。すまない、ブロッサム伯爵。我が息子が一緒にいながら、ご息女を危険な目にあわせてしまった」

「あ、頭を上げて下さい。ビブラート公爵様。しかし、殿下自らが救出に向かってくださるとは」

「王家の影が動いているらしいからな。必ず無事に戻られるだろう」

 ビブラート公爵の言葉に、お父様は不安はあるのだろうが頷いていた。

 でも、そうか、王家の影を貸してもらえたんだ。

 だけど影は、王家の人間の危険な時以外は姿を見せないはず。

 エミリオ殿下たちがたどり着くまでに、リリーが危険な目に合わないといいけど。

 私は玄関で、リリーの帰りを待つことにした。

 公爵様は、ギルク様のことを心配だろうに、リリーが戻るまでここにいてくれるらしい。

 お父様とお母様は、応接室で公爵様のお相手をしている。

 私は窓の外をジッと見つめたまま、今回の事件について考えていた。

 いくらエミリオ殿下の婚約者になりたいからといって、公爵家の馬車を襲う?

 多分、今回のことはクモリス公爵令嬢は関与していない。

 こんなことをすれば、公爵家は取り潰しになる。
 実行犯は処刑されるだろう。

 そんなことがわからない人ではないはずだ。
 分かっているからこそ、ダントン伯爵令息をけしかけてた。

 自分の手を汚さないようにしていた公爵令嬢が、こんなことをやらせるわけがない。

 身分が下の私たちだけならともかく、今回はビブラート公爵家を巻き込んだのだから。

 なら、今回の犯人は誰?

 リリーは無事なの?

 リリーと一緒に帰るべきだった。
攻略対象とか推しとか、そんなことよりもリリーを優先するべきだった。

 外をずっと見ていると、馬車が止まるのが見えた。

 あの馬車は・・・

 家令が扉を開けると、その人は私のところへと駆け寄って来た。

「ハ・・・ト様・・・」

「リラ嬢、大丈夫か?」

 思わずハルト様にしがみついてしまう。

「リリーが・・・リリーにもしものことがあったら・・・」

「大丈夫だ。エミリオが追っている。影との連絡は逐一取れるようになっているはずだ。大丈夫、必ず無事に戻ってくる」

 お願い、神様。
もう推しと仲良くなりたいとか、そんなこと望まない。

 だから、リリーを無事に返して下さい。
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