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たくさん教えてください

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 ヴィンセント魔王陛下の隣で、朝食をいただきました。

 普通、お隣ではないと思うのですが、これが普通なのでしょうか?

 私は誰かと食事をすることも、カトラリーを使って食事をすることもなかったので、よくわかりません。

 私は十日も眠っていたので、消化のいい食事が出されました。

 たくさんの具材がトロトロになるまで煮詰められたスープも、甘く味つけられたミルク粥も、とても美味しくて思ったよりもたくさん食べてしまいました。

 それでも、ヴィンセント様が思うより少な過ぎたみたいで、とても心配されてしまいましたが、もうお腹いっぱいです。

 今はお茶の一杯すら入りそうにないので、ヴィンセント様にまた横抱きに抱かれて、お庭に向かいました。

「ヴィンセント様、下ろして下さい」

「駄目だ」

「動かないと、お腹が空きません」

 ヴィンセント様は、ものすごく考えられた後に「東屋までだ」とおっしゃって、私を下ろして下さいました。

 手を差し出されたので、オズオズと差し出すとギュッと繋がれました。

 目覚めてから・・・
嬉しいことばかりです。

 人に優しくされること。

 美味しい物を食べること。

 綺麗な景色を見ること。

 今までのルディアとしての人生で、なかったことです。

「とても綺麗です。ヴィンセント様はお花がお好きなのですか?」

「・・・ルディアが花が好きだと言っていたから植えた」

「ごめんなさい、覚えてなくて。でも、ありがとうございます」

 女神様。

 私の記憶があるせいで、私の記憶がないのなら・・・

 どうか優しいこの人に愛されていた、ルディアの記憶を戻して下さい。

「謝らなくていい。この花たちを好きだと思ってくれるのだろう?」

「はい」

「ルディアが忘れてしまっても、ちゃんと俺が覚えている。それに、これまでよりもこれからの時間のほうがたくさんある。これからたくさん覚えていってくれれば良い」

「たくさん、たくさんヴィンセント様や皆さんのこと、教えてください」

 ヴィンセント様といたら、過去のルディアの寂しさも悲しみも、全部癒される気がします。

 私のお願いに、ヴィンセント様はとても優しく微笑んでくれました。

 何かの拍子に、私の記憶が戻る前のルディアの記憶を取り戻せるかもしれません。

 でも、戻せないとしても。

 ヴィンセント様がおっしゃってくださるように、これからたくさんのことを教えてもらって、たくさんの時間をヴィンセント様と過ごして、たくさんたくさん思い出を増やしていきたいと思います。

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