上 下
8 / 105

8.お父様たちがお怒りです

しおりを挟む
「ほぉぉぉお!そうか、そうか。殿下は我が家を馬鹿にしているのか?」

「わたくしの可愛いアイシュを傷つけるなんてね。王家を潰したいのかしら。うふふっ」

 お父様とお母様が、とても良い笑顔で、怖いことをおっしゃってるわ。

 どうしましょう。

 私はそんなことを望んでいないのに。

「お父様、お母様。落ち着いてください」

「これが落ち着いていられるか」

「アイシュは悔しくないの?悲しくないの?」

 お母様の問いかけに、私は小首を傾げる。

 悔しい?悲しい?

 確かに私は、ウィリアム殿下のことが好きだった。

 ウィリアム殿下の優しいところも、穏やかな性格も、笑うと左頬にエクボができるところも、全部全部好きだった。

 私は・・・
臆病者なのかもしれない。

 ウィリアム殿下に「好きな人が出来た」と言われるのが怖くて、良い人の顔をして傷つく前に離れようとしているのかもしれない。

「私は・・・傷つくのが怖くて、逃げてるだけなのかもしれません」

「アイシュ・・・」

「でも、嫌いになりたくないんです。嫌われたくないんです。ずるいですよね。こんな自分を嫌いになりそうで、それも嫌なんです。だから、お願いします。婚約を解消させてください」

 私はお父様とお母様に頭を下げた。

 貴族令嬢として、正しくないことを言ってるのは理解ってる。

 お父様とお母様が、私に優しいことに甘えてることも理解ってる。

 だけどこのままいたら、自分を嫌いになりそうなの。

 胸を張れる自分でいたいの。

 笑って・・・ウィリアム殿下に「おめでとう」と言える自分になりたいの。

 お父様は困ったようなお顔をされていたけど、お母様は私をギュッと抱きしめてくれた。

「アイシュ、ズルくなんてないわ。アイシュは優し過ぎるのよ。殿下を責めてもかまわないのに」

「責めて、嫌われたくないだけだと思います。だから、ズルいんです」

「そんなの、全然ズルくなんて・・・」

「アイシュ」

 お父様がお母様の言葉を遮って、私の名を呼んだ。

「はい」

「婚約を解消するなら、殿下の浮気の証拠を掴まなくてはならない。それを掲示することで、王家に解消を呑ませる。その場合に、殿下有責にはしたくないということでいいか?」

「はい。円満に解消して下さい。あ、でも、そのことでフローレンス公爵家に迷惑がかかるのでしたら・・・」

 お父様とお母様、親戚や我が家に勤める使用人たちに迷惑をかけるわけにはいかない。

 ああ。でも、殿下から言われても我が家に迷惑がかかるわよね。

 どうしたら良いの?
私が婚約の解消より先に、この家の娘でなくなればいいの?

 でも、お父様やお母様、リュカやアデラ、みんなと会えなくなるのは・・・
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者が知らない女性とキスしてた~従順な婚約者はもう辞めます!~

ともどーも
恋愛
 愛する人は、私ではない女性を抱きしめ、淫らな口づけをしていた……。  私はエスメローラ・マルマーダ(18)  マルマーダ伯爵家の娘だ。  オルトハット王国の貴族学院に通っている。  愛する婚約者・ブラント・エヴァンス公爵令息とは七歳の時に出会い、私は一目で恋に落ちた。  大好きだった……。  ブラントは成績優秀、文武両道、眉目秀麗とみんなの人気者で、たくさんの女の子と噂が絶えなかった。 『あなたを一番に愛しています』  その誓いを信じていたのに……。  もう……信じられない。  だから、もう辞めます!! 全34話です。 執筆は完了しているので、手直しが済み次第順次投稿していきます。 設定はゆるいです💦 楽しんで頂ければ幸いです!

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない

曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが── 「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」 戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。 そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……? ──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。 ★小説家になろうさまでも公開中

【完結】私のことはお構いなく、姉とどうぞお幸せに

曽根原ツタ
恋愛
公爵令嬢ペリューシアは、初恋の相手セドリックとの結婚を控え、幸せの絶頂のはず……だった。 だが、結婚式で誓いの口づけをする寸前──姉と入れ替わってしまう。 入れ替わりに全く気づかず婿入りしたセドリックの隣で、姉は不敵に微笑む。 「この人の子どもを身篭ったの。だから祝ってくれるわよね。お姉様?」 ペリューシアが掴んだはずの幸せは、バラバラと音を立てて崩壊する。 妊娠を知ったペリューシアは絶望し、ふたりの幸せを邪魔しないよう家を出た。 すると、ひとりの青年だけが入れ替わりを見抜き……?

【完結】婚姻無効になったので新しい人生始めます~前世の記憶を思い出して家を出たら、愛も仕事も手に入れて幸せになりました~

Na20
恋愛
セレーナは嫁いで三年が経ってもいまだに旦那様と使用人達に受け入れられないでいた。 そんな時頭をぶつけたことで前世の記憶を思い出し、家を出ていくことを決意する。 「…そうだ、この結婚はなかったことにしよう」 ※ご都合主義、ふんわり設定です ※小説家になろう様にも掲載しています

【完結】 いいえ、あなたを愛した私が悪いのです

冬馬亮
恋愛
それは親切な申し出のつもりだった。 あなたを本当に愛していたから。 叶わぬ恋を嘆くあなたたちを助けてあげられると、そう信じていたから。 でも、余計なことだったみたい。 だって、私は殺されてしまったのですもの。 分かってるわ、あなたを愛してしまった私が悪いの。 だから、二度目の人生では、私はあなたを愛したりはしない。 あなたはどうか、あの人と幸せになって --- ※ R-18 は保険です。

【完結】妹に全部奪われたので、公爵令息は私がもらってもいいですよね。

曽根原ツタ
恋愛
 ルサレテには完璧な妹ペトロニラがいた。彼女は勉強ができて刺繍も上手。美しくて、優しい、皆からの人気者だった。  ある日、ルサレテが公爵令息と話しただけで彼女の嫉妬を買い、階段から突き落とされる。咄嗟にペトロニラの腕を掴んだため、ふたり一緒に転落した。  その後ペトロニラは、階段から突き落とそうとしたのはルサレテだと嘘をつき、婚約者と家族を奪い、意地悪な姉に仕立てた。  ルサレテは、妹に全てを奪われたが、妹が慕う公爵令息を味方にすることを決意して……?  

【完結】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか?

曽根原ツタ
恋愛
「クラウス様、あなたのことがお嫌いなんですって」 エルヴィアナと婚約者クラウスの仲はうまくいっていない。 最近、王女が一緒にいるのをよく見かけるようになったと思えば、とあるパーティーで王女から婚約者の本音を告げ口され、別れを決意する。更に、彼女とクラウスは想い合っているとか。 (王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは身を引くとしましょう。クラウス様) しかし。破局寸前で想定外の事件が起き、エルヴィアナのことが嫌いなはずの彼の態度が豹変して……? 小説家になろう様でも更新中

処理中です...