上 下
118 / 122

番外編:最後まで足掻いて〜エリック視点〜

しおりを挟む
 それから堕ちるのは、あっという間だった。

 牢に入れられた数日後に、貴族牢の部屋の前にローゼンタールの王太子とアリスティアが現れた。

 騎士たちが牢内にはいり、僕とユリアを拘束した時点で話が始まる。

「二人の王籍と貴族籍の剥奪が決まった。二人には奴隷としてシュワルミット王国へ渡ってもらう」

 は?何を言ってるんだ?王籍の剥奪?
 僕はセオドア王国の唯一の王子だぞ?

 ユリアはユリアで、アリスティアに謝罪をしたら許してくれるんじゃないのかと喚いている。

 謝罪を受け入れるのと、許されるのが同一だと思っているのか?
 嘘だろう?確かにユリアは男爵令嬢だけど、貴族令嬢として何も学んでないのか?

 しばらく押し問答をしていると、イングリス公爵夫人がやって来た。

「母上と父上が亡くなった?」

 その時頭に浮かんだのは、両親が亡くなったことで、僕が唯一の王族になった、ということだった。

 今思えば、何故両親の死を悼めなかったのだろう。

 あんなに好き勝手させてくれていたのに。

 アリスティアが・・・イングリス公爵令嬢が僕を受け入れるなどと、何故思えたのだろう。

 王族として、何の責任も負わずに、自分の欲にだけ向き合っていた僕が、どうして国王の椅子に座れると思ったんだろう。

 母上が彼女にしていたのは、僕を国王の椅子に座らせるための『教育』だったのだと、公爵夫人から聞かされた。

 アリスティアがいない時点で、僕は自力で椅子にしがみつくことも出来ない。

 どうやっても、父上も母上も僕より先に亡くなってしまう。
 そうすれば、僕は簡単に欲に塗れた人間の傀儡にされるのがオチだと言われた。

 ただ静かに事実だけを述べられて、最後に公爵夫人は言った。

「王族とか貴族とか、それ以前に、ひとりの男として、ちゃんと色んなことに向き合いなさい。そうして、そこまでして貴方の命を救いたいと思った父親の気持ちに報いなさい」

 父上が母上を殺めたのは、母上がローゼンタール王国へ向かおうとしていたからだった。

 アリスティアを無理矢理にでも連れ戻すために。連れ戻せないなら、殺めるために。

 ローゼンタール王国の王太子の婚約者に手を出せば、連座として僕も父上も処刑される。

 父上は、たとえ奴隷としてでも僕が生き残る道を選択したんだ。

 僕がそれを心から理解できたのは、シュワルミット王国に連行され、仕事を拒否し、食事を与えられなくなって三日経ってからだ。

 空腹に負け、荷物運びを朝から晩まで繰り返す。

 そしてようやく食べれた雑穀粥と僅かなおかずの美味しさに、涙が出た。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】夫の健康を気遣ったら余計なことだと言われ、離婚を告げられました

紫崎 藍華
恋愛
モーリスの健康を気遣う妻のグロリア。 それを疎ましく感じたモーリスは脅しのために離婚を口にする。 両者とも退けなくなり離婚することが決まった。 これによりモーリスは自分の言動の報いを受けることになる。

【R-18】踊り狂えその身朽ちるまで

あっきコタロウ
恋愛
投稿小説&漫画「そしてふたりでワルツを(http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/630048599/)」のR-18外伝集。 連作のつもりだけどエロだから好きな所だけおつまみしてってください。 ニッチなものが含まれるのでまえがきにてシチュ明記。苦手な回は避けてどうぞ。 IF(7話)は本編からの派生。

いらないと言ったのはあなたの方なのに

水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。 セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。 エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。 ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。 しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。 ◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬 ◇いいね、エールありがとうございます!

【R18】両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が性魔法の自習をする話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 「両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が初めてのエッチをする話」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/575414884/episode/3378453 の続きです。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

最愛の人は別の女性を愛しています

杉本凪咲
恋愛
王子の正妃に選ばれた私。 しかし王子は別の女性に惚れたようで……

異世界で悪役令嬢として生きる事になったけど、前世の記憶を持ったまま、自分らしく過ごして良いらしい

千晶もーこ
恋愛
あの世に行ったら、番人とうずくまる少女に出会った。少女は辛い人生を歩んできて、魂が疲弊していた。それを知った番人は私に言った。 「あの子が繰り返している人生を、あなたの人生に変えてください。」 「………はぁああああ?辛そうな人生と分かってて生きろと?それも、繰り返すかもしれないのに?」 でも、お願いされたら断れない性分の私…。 異世界で自分が悪役令嬢だと知らずに過ごす私と、それによって変わっていく周りの人達の物語。そして、その物語の後の話。 ※この話は、小説家になろう様へも掲載しています

もしも○○だったら~らぶえっちシリーズ

中村 心響
恋愛
もしもシリーズと題しまして、オリジナル作品の二次創作。ファンサービスで書いた"もしも、あのキャラとこのキャラがこうだったら~"など、本編では有り得ない夢の妄想短編ストーリーの総集編となっております。 ※ 作品 「男装バレてイケメンに~」 「灼熱の砂丘」 「イケメンはずんどうぽっちゃり…」 こちらの作品を先にお読みください。 各、作品のファン様へ。 こちらの作品は、ノリと悪ふざけで作者が書き散らした、らぶえっちだらけの物語りとなっております。 故に、本作品のイメージが崩れた!とか。 あのキャラにこんなことさせないで!とか。 その他諸々の苦情は一切受け付けておりません。(。ᵕᴗᵕ。)

処理中です...