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それぞれの思惑

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「大体、僕は君を好きになった覚えはないが?」

 ライアンの発した言葉に、シシリーがポカンと口を開けたまま固まった。

 確かに好きだと言われたことはない。

 だが、シシリーの我儘を許容してくれていたのはライアンではなかったのか。

 体に触れることは、さり気なく避けられていたが、ライアンと名を呼ぶことも許してくれていた。

 それなのに、好きになった覚えはない?

「な、にを?ライアン様?」

「名を呼ぶことを咎めなかったのがいけなかったのかもしれないな。だから君だけを責めるつもりはないが、妹や友人たちに迷惑をかけることは許さない」

 かつてリリアナに、シシリーに酷いことを言っただろうと食ってかかってきたのと同じ人間だとは思えない。

 ライアン自身、あの頃どうしてあれほどまでにシシリーに惹かれていたのかわからない。

 シシリーを愛しいと思っていた気持ちが、綺麗さっぱりなくなっていることに、ライアン自身戸惑っていた。

 だが、自分のしてきたことでシシリーが増長したのなら、その責任は取らなければならない。

「悪いが今後は適度な距離感を持って接してくれ。それから、オフリー嬢は課題をこなすための大切なパートナーだ。失礼な発言はやめてくれ」

「そんな・・・どうして。ライアン様ッ!」

 シシリーはライアンの隙をついたように、一気に抱きついた。

 それを見たヘリオが嫌そうな顔をしているのを見て、ルーナは納得した。

 どうでもいい相手には、魅了は使ってないということかな?
 ということは、意図して使ってるということね。

 シシリーが魅了の術を使っていることは、ライアン以外のここにいる全員が周知のことだ。

 接触すればするほど、その術にかかる度合いは強く、アレックスやダグラスは完全に魅了されている状態である。

 魅了されると、シシリーのいうことが全てで、彼女の行動も全て正しいものと認識してしまう。

 愛しいはずのシシリーが、他の男と親しくしていても、嫉妬などしたりしない。
 自分こそが一番愛されていると思い込んでいるからだ。

 その原理から言うと、ヘリオは魅了されているのではなく、本人の意思でシシリーにまとわりついているのだろう。

 わかんない。
どこがいいのか、全く分かんない。

 心の底からそう思うルーナである。

 一方、抱きつくことが初めて出来たことで、自分の思い通りになると判断したのだろう。

 シシリーは、ライアンの背中に手を回そうとした。

「ラ、イ、ア、ン、様♡」

「・・・ッ!離せ!」

「え?なんでっ?」

 ライアンから突き飛ばされ、シシリーは目を丸くした。
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