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準備対策は怠らないもの

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「ランス兄様。こちらのお菓子も美味しいですわ」

 ルーナは手元にあったクッキーを、ランスロットへと差し出す。

 実はランスロット。大の甘い物好きであった。

 正確に言うならば、領地での静養中にルーナが甘いお菓子を王都から持ち込み、ランスロットを甘党にしてしまったのだ。

 ベッドから起き上がることもできない日々の中で、枕元に置かれる毎日違う甘いお菓子。

 当時十歳の子供である。毎日食べていればそれが当然になってもおかしくはない。

 逆に、カイルの方はあまり甘い物が得意ではない。

 ただこちらも、ルーナが砂糖控えめのお菓子を手作りして、部屋のドアノブに届け続けた成果で、ルーナ手作りのお菓子のみ受け付ける体質になっていた。

 完全なる餌付けである。

 ニコニコとランスロットには王都で流行りの菓子店のクッキーの皿を、カイルにはルーナ手作りの甘さ控えめクッキーの皿を差し出す。

 ランスロットは、ルーナ手作りお菓子も食べたいのだが、ルーナがカイルを特別視していることは叔父夫婦や使用人たち、ルーナ本人からも聞いていたので、そっちを食べたいなどと我儘は言えない。

 ただ、どうしてもチラチラと見てしまう。

 視線に気付いたカイルが、よほどお菓子が食べたいのかと自分の皿のクッキーを数枚ランスロットに渡す。

 譲ってもらったルーナ手作りクッキーを、ルーナの様子を気にしながら食べる。

 というのがここ最近のフィオレンサ公爵家での日常であった。

 平和なことこの上ない。

「ランス兄様。お部屋に今年入学の学園生の名簿を置いてあります。目を通しておいてください。カイルもね」

「名簿?今年はライアン殿下が入学だから、

「ええ。チェックの入った者は要注意ですわ」

 学園入学にあたり、ルーナは入学者名簿を入手していた。

 まぁこれは、高位貴族ならどこの家も同じで、どこそこの家の子息令嬢が入学するというのを把握しておくのは、当然のことである。

 この三年間で、婚約者を見つけたり、嫡子だったなら自分の家にプラスになる者との友好関係を築くのが、この学園に通う『意味』だからだ。

 当然、ランスロットもそれは理解していて、領地から王都に来てからは、在校生の名簿に目を通し、現在の勢力分布も頭に叩き込んでいた。

 今年の入学者に王太子、いやまだ立太子はしていないが、唯一の嫡子のライアン殿下がいる。

 つまりは、彼の側近になろうとする子息や、婚約者の座を狙う令嬢が多くいるということだ。

 そしてそれは、フィオレンサの名を持つ自分やルーナにも言える。

 いやむしろ、王家よりフィオレンサ公爵家を狙う貴族は多いだろう。

 気も引き締まるというものである。
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