72 / 128
聖女覚醒編
救出《マリア視点》
しおりを挟む
迫り来る男の手に、舌を噛み切ろうとした、その時ー
ガシャーン!!
激しい音を立てて、窓ガラスが割れる音がした。
「な、なんだ?う、わぁぁぁぁぁぁ!!」
私の上に乗っていた男が、突然消失する。
何が起きたのか理解できず、驚いて思わず舌を噛みそうになった私の口に、指が差し込まれた。
勢い余って、その指を噛んでしまう。
口の中に錆びた鉄の味がして、私は慌てて口を開き、目の前の人を見た。
濡羽色の髪に、漆黒の瞳。
この人は・・・あの日、私にハンカチを差し出してくれた・・・リリウム公爵家の使用人の方?
「ご無事でよかった」
「あ・・・」
私が噛んだ指に、血が滲んでいる。
私は急いでポケットの中からハンカチを出すと、彼の指へと当てた。
「ごめんなさい」
「心配いりません」
心配ないと言うけれど、彼の白い手袋は血で染まっている。
申し訳なさに、涙が出てきた。
と。
ガラスの割れた音に気付いたのだろう。
扉がドンドン!!と叩かれ、外から男たちの声が聞こえた。
そうだ。私の上に乗ってた男は?
視界を巡らせると、目の前の人の他に、もうひとりいることに気付いた。
その人は、手早く男を拘束している。
年齢的に、多分目の前の人と同じくらいだと思う。
黒髪に黒目。黒装束の目の前の公爵家の使用人である人と、白のシャツに黒のズボン、鳶色の髪に瞳の、おそらく平民だと思えるその人。
全く風貌は違うのに、どこか似た雰囲気をしていた。
「カイ。ここは俺たちが片付けよう。お前は、さっさとお嬢様の元へ聖女様をお連れしな」
「セリオ」
「ジグルもそろそろ下からやってくるだろう。元凶に関しては、コイツらを締め上げて、後で報告書を届ける」
「頼む。殿下たちにもご報告しなくてはならないからな」
え?殿下?
そうだ。私は何故、攫われたの?
「それから、今度美味いものでも届けてくれ。それでチャラだ」
「ああ。お前とジグルの好物を届けよう」
カイと呼ばれた、リリウム公爵家の方は、私の上に乗っていた男を拘束しているセリオという方と会話した後、上着を脱ぐと、私の頭から被せる。
そして、そのまま私を抱き上げた。
「え、えっ?」
「窓から降ります。聖女様、俺・・・いや、私にしがみついていて下さい」
「え、ええっ?きゃ、きゃああああー」
2階の、割れた窓枠に足をかけたカイさんは、躊躇うことなく飛び降りた。
突然のことに悲鳴をあげるしかなかった私は、飛び降りる寸前に見た、にこやかに手を振るセリオという方の笑顔を最後に意識を失ったのだった。
ガシャーン!!
激しい音を立てて、窓ガラスが割れる音がした。
「な、なんだ?う、わぁぁぁぁぁぁ!!」
私の上に乗っていた男が、突然消失する。
何が起きたのか理解できず、驚いて思わず舌を噛みそうになった私の口に、指が差し込まれた。
勢い余って、その指を噛んでしまう。
口の中に錆びた鉄の味がして、私は慌てて口を開き、目の前の人を見た。
濡羽色の髪に、漆黒の瞳。
この人は・・・あの日、私にハンカチを差し出してくれた・・・リリウム公爵家の使用人の方?
「ご無事でよかった」
「あ・・・」
私が噛んだ指に、血が滲んでいる。
私は急いでポケットの中からハンカチを出すと、彼の指へと当てた。
「ごめんなさい」
「心配いりません」
心配ないと言うけれど、彼の白い手袋は血で染まっている。
申し訳なさに、涙が出てきた。
と。
ガラスの割れた音に気付いたのだろう。
扉がドンドン!!と叩かれ、外から男たちの声が聞こえた。
そうだ。私の上に乗ってた男は?
視界を巡らせると、目の前の人の他に、もうひとりいることに気付いた。
その人は、手早く男を拘束している。
年齢的に、多分目の前の人と同じくらいだと思う。
黒髪に黒目。黒装束の目の前の公爵家の使用人である人と、白のシャツに黒のズボン、鳶色の髪に瞳の、おそらく平民だと思えるその人。
全く風貌は違うのに、どこか似た雰囲気をしていた。
「カイ。ここは俺たちが片付けよう。お前は、さっさとお嬢様の元へ聖女様をお連れしな」
「セリオ」
「ジグルもそろそろ下からやってくるだろう。元凶に関しては、コイツらを締め上げて、後で報告書を届ける」
「頼む。殿下たちにもご報告しなくてはならないからな」
え?殿下?
そうだ。私は何故、攫われたの?
「それから、今度美味いものでも届けてくれ。それでチャラだ」
「ああ。お前とジグルの好物を届けよう」
カイと呼ばれた、リリウム公爵家の方は、私の上に乗っていた男を拘束しているセリオという方と会話した後、上着を脱ぐと、私の頭から被せる。
そして、そのまま私を抱き上げた。
「え、えっ?」
「窓から降ります。聖女様、俺・・・いや、私にしがみついていて下さい」
「え、ええっ?きゃ、きゃああああー」
2階の、割れた窓枠に足をかけたカイさんは、躊躇うことなく飛び降りた。
突然のことに悲鳴をあげるしかなかった私は、飛び降りる寸前に見た、にこやかに手を振るセリオという方の笑顔を最後に意識を失ったのだった。
38
お気に入りに追加
8,029
あなたにおすすめの小説
いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!
夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。
しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。
ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。
愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。
いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。
一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ!
世界観はゆるいです!
カクヨム様にも投稿しております。
※10万文字を超えたので長編に変更しました。
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
私はモブのはず
シュミー
恋愛
私はよくある乙女ゲーのモブに転生をした。
けど
モブなのに公爵家。そしてチート。さらには家族は美丈夫で、自慢じゃないけど、私もその内に入る。
モブじゃなかったっけ?しかも私のいる公爵家はちょっと特殊ときている。もう一度言おう。
私はモブじゃなかったっけ?
R-15は保険です。
ちょっと逆ハー気味かもしれない?の、かな?見る人によっては変わると思う。
注意:作者も注意しておりますが、誤字脱字が限りなく多い作品となっております。
虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。
玖保ひかる
恋愛
[完結]
北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。
ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。
アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。
森に捨てられてしまったのだ。
南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。
苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。
※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。
※完結しました。
【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
母と妹が出来て婚約者が義理の家族になった伯爵令嬢は・・
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
全てを失った伯爵令嬢の再生と逆転劇の物語
母を早くに亡くした19歳の美しく、心優しい伯爵令嬢スカーレットには2歳年上の婚約者がいた。2人は間もなく結婚するはずだったが、ある日突然単身赴任中だった父から再婚の知らせが届いた。やがて屋敷にやって来たのは義理の母と2歳年下の義理の妹。肝心の父は旅の途中で不慮の死を遂げていた。そして始まるスカーレットの受難の日々。持っているものを全て奪われ、ついには婚約者と屋敷まで奪われ、住む場所を失ったスカーレットの行く末は・・・?
※ カクヨム、小説家になろうにも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる