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悪役令嬢回避編

夢か現か2《マリウス視点》

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 話・・・そう聞いて、胸の奥がぎゅっと軋んだ。
 婚約を解消して欲しいとか言われたら、僕はどうしたらいいのだろう。

 愛しいアニエスに、嫌な思いをさせたくはない。
 だけど、僕はアニエスがいなければ、抜け殻になってしまう。

「マリウス・ハイドランジア王太子殿下」

 正式な呼び名で呼ばれて、やはり良くない話なのだと、顔が強張った。

 アニエスが目覚めて嬉しかった気持ちが、急下降していく。

「わたくし・・・私はあなたのことが好きです」

 いつもわたくしと言うアニエスが、わざわざ私と言い直してまで言った言葉。

 好き?
誰が、誰を?

 ぎゅっと目を瞑ったままの、アニエスを見る。
 今、彼女は、好きって言ったよな?
あなたのことが好きですって。

 自覚した途端、顔に熱がたまった気がした。

「マリ様?」

「ズルい」

「は?」

「君が目覚めただけでこんなに嬉しいのに、そんなことを言うなんて。アニエスは僕を殺したいの?」

 真っ赤になった顔が恥ずかしくて、思わずそんなことを言ってしまう。
 アニエスが、理不尽だっていう顔をしているのを見て、この告白が本当なんだって喜びがわいてくる。

 今、目の前にいるのは、いつもの表情を変えない青薔薇の君じゃなく、クランやマリア嬢といる時の、よく笑いコロコロと表情を変えるアニエスだ。

 僕の好きになった、僕の心をとらえて離さない、アニエスだ。

「ズルいな。そんなことを言われたら、嬉しすぎて我慢できなくなってしまうよ」

「がまん、は・・・良くない、です。話、はそれ・・・だけなの、で、お医者様・・・呼んでください」

 相当、喉が痛いのだろう。辿々しくそういうアニエスに、ため息が漏れてしまう。

 絶対、分かってないと思う。
僕が何を我慢しているのか。しかし、理解していないとはいえ、こんな無防備なことを他の男に言われたら大変だ。

 そっと、アニエスの頬に触れる。
目を瞑ったアニエスが気持ち良さげに僕の手のひらに頬ずりするものだから、僕はもう、我慢することをやめた。

 全部、可愛すぎるアニエスが悪い。
そっとその唇に自分のそれを重ねる。
 チュッと、軽い音を立てて離れると、アニエスは目を見開いて僕を見た。

 アニエスの空色の瞳に、僕が映っている。これからもずっと、彼女の瞳に映るのが、僕でありたい。

「アニエス。好きだ。これまでも、そしてこれからも、ずっと」

 これからは、ちゃんと彼女に届くように、言葉にしていこう。
 彼女が僕の愛情を疑わないように、態度でしめしていこう。

 やっと、やっと手に入れたのだから。
絶対に、誰にも渡さない。

 僕はその決意と共に、もう一度アニエスへと口付けを落とした。


 

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