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悪役令嬢の涙

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 私が淡々と告げるほど、目の前のジルベルト様のお顔が顰められます。
 どうされたのかしら?
もしかして、首を刎ねられる件が不快だったのでしょうか?

「ジルベルト様?」

「どうしてそんなに平静なのだ。家族にも婚約者にも蔑ろにされていたというのだろう?人間とはそれほどまでに傲慢な生き物なのか?獣のほうが自分の子供や番を大切にするぞ」

 ジルベルト様のお言葉に、私はなるほどと思います。
 確かに、動物は番や子供を大切にしますわね。
 では、私は動物以下なのかしら?

「私はお前のことはまだ何も知らない。だから、お前が悪くないとは今は言えないが、話を聞く限りお前はもっと怒っていいと思う」

「怒って・・・?」

「ああ。もっと文句を言っていいんだ。我慢することはない」

 我慢しなくていいの?
文句言ってもいい、の?嫌なことは嫌だって、言ってもいいの?

「いいんだ。言ってごらん、ミア」

 ジルベルト様が・・・お兄様が優しく髪を撫でて下さいます。
 こんな風に、お父様やお母様に頭を撫でていただいたこと、あったかしら。

「・・・私・・・、ルドルフ殿下の婚約者になんかなりたくなかった・・・」

「うん」

「それから、王太子妃教育も王妃教育も、辛くて苦しかった」

「そうか。よく頑張ったな」

 どうして、そんなに優しい声を出すのですか?
 どうして、そんなに優しく撫でてくれるのですか?

「公爵家に帰っても、誰も私に興味がなくて、ずっと寂しかった」

「これからは私がずっと側にいてやる。寂しい思いなどさせない」

「私より妹が大事なのッ?じゃあ、私は要らなかったの?」

「可愛いミア。私の大切な妹。お前は私のもとに来るために生まれてきたんだよ」

 お兄様は私の吐露する気持ちに、ひとつひとつ、丁寧に答えを返してくれます。

 ずっと誰かに、不安を否定して欲しかったのです。
 お前は間違ってないよ、頑張っているよと言われたかったのです。

 どうしたのでしょうか。
視界が霞んでいます。

 お兄様の大きな手が、私の頬に添えられました。その指が、そっと頬を撫でます。

「泣くな。お前の泣き顔は見たくない。微笑ってごらん」

 泣くな?
私は泣いてなどいませんわ。
 どんなに苦しい王太子妃教育でも、泣いたことなどありません。

 そのせいか、ルドルフ殿下には可愛げがない、人形のようだと言われていましたもの。

「私は・・・泣いてなど・・・」

「ああ。我慢し過ぎだ。いいよ、泣いて構わない。泣き止むまで、私の腕の中にいるといい」

 お兄様が私を抱きしめて下さいます。
この腕の中では、私を傷つけるモノはいないことが理解できて、力が抜けるのが分かりました。

 初めて感じた温かい腕は力強くて、私は安心したのかそのまま眠りに落ちてしまったのでした。
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