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「アンリ様。お茶はいかがですか?」
メイリンさんが紅茶を淹れてくれる。
あれから私は、ずっとクレイモア公爵家のお世話になっている。
ここは公爵本邸ではなく、ルヒト様が学業に専念されるための別邸なのだそう。
だから、公爵様たちとお目にかかることもないし、別邸のことはルヒト様に一任されているから、好きなだけいていいと言われている。
好きなだけって、いくらなんでもそうはいかないけど、父が私を連れ戻しに来る様子もなくって、ルヒト様もちゃんと話はしてあるからとおっしゃっていた。
「あ、あの・・・メイリンさん」
「どうかされましたか?」
「あの・・・私も何かお手伝いしたいです。お掃除とか」
あの日以来、ルヒト様とはお目通りが叶っていない。
学園に通われているルヒト様は、とてもお忙しいのだろう。
お暇すべきだとはわかっているけど、出来ることなら帰りたくない。
でも、ずっとここにいることはできない。
それに、せめている間に何かお返ししないと。
でも、メイリンさんは困ったように微笑んだ。
「アンリ様はルヒト様のお客様なのですから、そんなことはお気になさらないで下さいませ」
「いえ、あの・・・このままご迷惑をおかけし続けるのは苦しいのです。大したことはできませんし、むしろご迷惑になってしまうかもしれませんけど、でも、何かやらせてください」
美味しいお料理に、ふかふかのベッド。温かいお風呂に、お茶の時間。
こんな夢のような日々を過ごさせてもらっているのだもの。
このままではただ飯食いじゃない!
公爵家に飾ってある壺とかは壊したらとてもじゃないけど弁償できないから、外の掃除とか窓拭きとかならできると思うの。
あ、あとお風呂の掃除とか、床拭きとか。
「私の一存ではお答えしかねますから、ルヒト様にお話しておきますね。しばらくお時間をいただくことになりますが」
私が必死に頼み込むと、メイリンさんはそう言ってくれた。
こちらがお願いしている立場だ。
待つのは仕方ない。
私は今日も仕方なく、刺繍に時間を費やすことにした。
お世話になっている身である。
ルヒト様から屋敷内と庭になら自由に出ていいと言われているけど、余所者が勝手にウロウロしていたら、使用人たちも気が気がじゃないだろう。
必要時以外は、お借りしている部屋で大人しくしていることにしている。
それならばと、メイリンさんが何冊か本と、刺繍の道具を貸してくれた。
私は読書が好きなので、読みだすと寝食を疎かにしてまで読み耽ってしまう。
そのため、お借りしている本は一日一時間と決めていた。
メイリンさんが紅茶を淹れてくれる。
あれから私は、ずっとクレイモア公爵家のお世話になっている。
ここは公爵本邸ではなく、ルヒト様が学業に専念されるための別邸なのだそう。
だから、公爵様たちとお目にかかることもないし、別邸のことはルヒト様に一任されているから、好きなだけいていいと言われている。
好きなだけって、いくらなんでもそうはいかないけど、父が私を連れ戻しに来る様子もなくって、ルヒト様もちゃんと話はしてあるからとおっしゃっていた。
「あ、あの・・・メイリンさん」
「どうかされましたか?」
「あの・・・私も何かお手伝いしたいです。お掃除とか」
あの日以来、ルヒト様とはお目通りが叶っていない。
学園に通われているルヒト様は、とてもお忙しいのだろう。
お暇すべきだとはわかっているけど、出来ることなら帰りたくない。
でも、ずっとここにいることはできない。
それに、せめている間に何かお返ししないと。
でも、メイリンさんは困ったように微笑んだ。
「アンリ様はルヒト様のお客様なのですから、そんなことはお気になさらないで下さいませ」
「いえ、あの・・・このままご迷惑をおかけし続けるのは苦しいのです。大したことはできませんし、むしろご迷惑になってしまうかもしれませんけど、でも、何かやらせてください」
美味しいお料理に、ふかふかのベッド。温かいお風呂に、お茶の時間。
こんな夢のような日々を過ごさせてもらっているのだもの。
このままではただ飯食いじゃない!
公爵家に飾ってある壺とかは壊したらとてもじゃないけど弁償できないから、外の掃除とか窓拭きとかならできると思うの。
あ、あとお風呂の掃除とか、床拭きとか。
「私の一存ではお答えしかねますから、ルヒト様にお話しておきますね。しばらくお時間をいただくことになりますが」
私が必死に頼み込むと、メイリンさんはそう言ってくれた。
こちらがお願いしている立場だ。
待つのは仕方ない。
私は今日も仕方なく、刺繍に時間を費やすことにした。
お世話になっている身である。
ルヒト様から屋敷内と庭になら自由に出ていいと言われているけど、余所者が勝手にウロウロしていたら、使用人たちも気が気がじゃないだろう。
必要時以外は、お借りしている部屋で大人しくしていることにしている。
それならばと、メイリンさんが何冊か本と、刺繍の道具を貸してくれた。
私は読書が好きなので、読みだすと寝食を疎かにしてまで読み耽ってしまう。
そのため、お借りしている本は一日一時間と決めていた。
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