死に戻りの魔女は溺愛幼女に生まれ変わります

最終章

目覚め《アレクシス視点》

　長いまつ毛が震えて、ゆっくりと瞼が開く。
銀色の瞳が、僕の顔を捉えた。

「アル兄様」

「せ、セレスティーナ！良かった。どこか痛いところはない？」

　倒れてから１時間程度で目覚めたセレスティーナに、ホッとする。
　起きあがろうとするのを押し留めながら、セレスティーナの髪をゆっくりと撫でた。

「セレスティーナ。可愛いセレ。僕はね、怒っているんだよ」

「アル兄様・・・」

「セレスティーナ。僕はそんなに頼りないかな？確かに僕にできることはなかったかもしれない。でも相談もされずに、セレスティーナが倒れているのを見た時、僕がどれだけ心配したかわかってる？」

　つい責める口調になってしまう。
だけど、本当に心配したんだ。もし、このままセレスティーナが目覚めなかったらって、怖かったんだ。

　セレスティーナが生き残るために、グレイスを起こそうとしていたことは理解したけど、それでもやっぱり反対したと思う。

　成功するかどうかわからないことをさせたくないというのもあるし、セレスティーナを眠りにつかせたくなかった。

　10年だ。10年も眠っていた従妹に、生き残るために眠りにつけなんて言えない。

　確かに僕はグレイスが好きだ。
グレイスに消えて欲しくない。そう思った。

　だけど、やっと戻って来れたセレスティーナにグレイスと代わって欲しいなんて望むような人間に、僕はなりたくない。
　それに、きっとそんなことを望む僕を、グレイスは許さないだろう。

　そういえば・・・
術は成功したのだろうか。セレスティーナが消滅したりしないのだろうか。

　そして、彼女はセレスティーナなのか。グレイスなのか。

「アル兄様。ごめんなさい。だけど、あの時は他に何も考えられなかったの。グレイスに代わって貰えばセレスティーナが死ぬことはない。それしか考えられなかった」

「そう・・・それでもう、セレスティーナが消滅したりはしないんだね？」

　グレイスに代わって貰えば。
セレスティーナの言葉に、胸の奥がズキンと痛んだ。

　彼女は、セレスティーナだ。僕の大切な大切な従妹で、婚約者のセレスティーナだ。

　もうグレイスはいない。
その事実に、激しく胸が痛んだ。

　わかっていたことなのに。理解していたはずなのに。
　グレイス・シュラット侯爵令嬢は、30年も前に亡くなっているんだ。

「そんな顔をしないで？アレクシス様」

　そっと僕の頬に伸ばされた手に、ハッとする。

「セレスティーナ？」

「グレイスわたしはここにいるわ」