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第3章

婚約解消の代償《メリッサ視点》

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 絶望的な顔をされたルシアン様を見て、私は痛む胸にそっと手を当てました。

 ごめんなさい。ルシアン様。
だけど、こうするしかもう手はないのです。

 ルシアン様。今の私があなたのことを好きな気持ちがないのは本当のことです。
 あなたがラナナ様と懇意にされるのを見るたびに、私の気持ちは冷めていきました。

 だけど、あなたのことを好きだったこともあるのですよ。
 あなたに優しく微笑みかけられて、婚約を申し込まれた時、本当に嬉しかったのです。

 一緒にお茶を飲む時に、私の好きなお菓子を自分の分もそっと差し出してくれた優しさも、お勉強は苦手だけど頑張っていたことも、剣の鍛錬に熱中していたことも、私にとってはとっても愛しいことだったのです。

 だからこそ、あなたがラナナ様に触れるたび、そばに居るのを見るたび、私の胸は痛み続けていきました。

 今、私の心にはあなたへの気持ちはないけれど、あなたを大切に思っていた自分のことを失いたくはないのです。

 ルシアン様有責の破棄にしないためには、もうこれしか思い浮かばないのです。

「テレンス公爵様。ルシアン様とラナナ様を婚約させて下さいませ。そして、ラナナ様には公爵夫人になるべく、厳しい教育を。お2人が別れることは許しません。もしもそんなことがあれば、テレンス公爵家とオットン子爵家有責にて賠償していただきます」

 ルシアン様がラナナ様と懇意にされていたことは、学園の皆様がご存知です。
 公爵家の子息が、婚約者を蔑ろにして他のご令嬢と懇意にしていたなどと、醜聞でしかありません。

 ですが、それが今巷で流行りの『真実の愛』だったなら、皆様もルシアン様を酷く言うことは少ないでしょう。

 私は捨てられた形になりますが、私にはセレスティーナ様もケイト様たちもいます。
 少なくとも、表立って私を悪く言える人はいないでしょう。

 新しい婚約者も、セレスティーナ様達がいれば、いずれは決まると思います。

 ですがルシアン様は、有責になれば新しい婚約者どころか、公爵家を廃籍される可能性が高いのです。

 あれがただの遊びだと分かれば、婚約者を蔑ろにする方の婚約者になって下さる方など、高位貴族にはいないでしょう。

 それに今回のことは、国王陛下や皇太子殿下たちまでご存知なのです。
 内密に処理することも出来ません。
せめて、私との交流もキチンとして下さっていたなら。そして、ラナナ様とももう少し節度ある交流であったなら。

 いえ。もう今更ですわね。
かつて好きだった方を、私なりにお救いしたい。
 その気持ちだけは真実ですわ。





 
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