嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな

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彼は私の王子様〜ラディシュ侯爵令嬢視点〜

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 お母様のお姉様、つまり私の伯母様に会いに行った時、初めてあの方とお会いした。

 スラリとした体躯に、綺麗な銀髪。
銀の瞳は、まるで夜闇の中で輝く月のよう。

 一目で恋に落ちた。

 私の隣に立つのは、あの方以外にいない。

 ローゼン王国の公爵令息だというハデス・ウェルズ様。

 嫡男だということは、公爵家を継がれるということよね。

 なら、侯爵令嬢で皇妃の姪である私が相応しいと思う。

 なのに、何度私の思いをお伝えしても、ハデス様は頷いてくださらない。

 から、お祖父様にお願いして媚薬を手に入れてもらった。

 お父様でも良かったけど、お母様の耳に入るかもしれないからお祖父様にお願いしたの。

 お母様は昔から、私に厳しかった。

 侯爵令嬢とはこうあるべき!とか、私の『お願い』だって我儘だとよく言われたわ。

 お母様は公爵令嬢だったから、プライドは高いのだとお父様もお祖母様も言っていた。

 上手くハデス様に媚薬入りの飲み物を飲ませたと思ったのに、気付いたら騎士たちに捕えられて、皇帝陛下に蔑んだ目で見下ろされていた。

 伯父様とは呼べない。
一度呼んだら、お母様だけでなくお父様にも叱られたのよ。

 どうして?
お母様のお姉様である伯母様の旦那様なんだから、伯父様でしょう?

 その、皇帝陛下から他国の、しかも伯爵家に嫁げと言われた。

 嫌よ!
私はハデス様と結婚するの!

 しかも、その結婚相手には恋人がいるって言うのよ。

 下位貴族だか平民だかの、正妻に出来ない恋人。

 その恋人と結ばれるために、伯爵夫人としての役目を全うさせるために私と結婚するのですって。

 ふざけないでよ。
侯爵令嬢であり、皇妃殿下の姪である私をお飾りにするつもり?

 でも、決定事項だと言われて。
何の準備もなく放り出された。

 こうなったら、その伯爵とやらを私の虜にして、その恋人を捨てさせてやるわ。

 そう決意して乗り込んだ伯爵家で、私は屈辱を味わった。

 夫となった伯爵は、社交では私を伴う。

 だけど、伯爵本邸にはほとんど滞在せず、常に恋人のいる伯爵家敷地内に建てた別棟で生活する。

 家令に文句を言うと、本邸までやって来て「最初からそういう契約だ」と言う。

 確かに嫁いですぐに、契約書にサインさせられた。

 恋人には関わらないこと。

 伯爵や恋人、使用人の行動に文句を言わないこと。

 伯爵夫人としての予算を使って何をしてもかまわないが、外聞の悪いことはしないこと。

 恋人を作るのはかまわないが、伯爵に知らせた上で、外部の者に知られないようにすること。

 それらを破ったり、伯爵家に不利益をもたらした場合は、私有責で離縁となること。

 契約書にはそう書かれていた。
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