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兄と弟②〜ハデス視点〜

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「・・・そうですか。そうですね。お優しい兄上なら、きっとそう言うのだろうなと思っていました」

「俺は優しくなんかない。嫡男としての責務を放棄して、まだ幼いお前を残して逃げたんだ」

「それは、父上と母上のせいではないですか。僕はまだ子供でしたが、よく覚えています。兄上が留学すると言った時の、父上の言葉も」

 あの時ゼウスはまだ八歳だったが、父上の言葉を聞いていたのか。

 六年前、クライゼン王国に留学すると言った俺に、父上は言ったのだ。

「金は出してやるが、ウェルズ公爵家に泥を塗るようなことをしたら許さん。すぐに籍を抜く。どこででも野垂れ死ぬと良い」

 当時俺は十三歳だったが・・・
もしかしたら、という僅かな希望もその言葉で全て砕け散った。

 あの日から、俺にとって両親は他人になった。

 留学費用も、祖父の遺産分けでギリギリ足りた。
 父から金を受け取りたくなかった。

 幸いにも学園には寮があったので、住む場所には困らなかった。

 学園に通いながらアルバイトを始め、エレメンタル帝国へ留学する金を貯めた。

 俺にとって家族は、泣きながらも「お元気で」と送り出してくれた使用人たちと、エレメンタル帝国で出会ってから手を差し伸べてくれ続けた皇帝陛下たちだけだ。

 ゼウスに対しては、嫌な感情はない。
別れた時は八歳だったし、それ以前にほとんど会話どころか会うことすらなかった。

 だから・・・
血の繋がった、そうだな、弟というよりは親戚の子という感じだ。

 だけど、こうして会って話してみると、あの両親のそばでずっといたのに、曲がりもせず真っ直ぐ育っていると思う。

 本人の資質なのか、それともあんな両親にも子を育てる才はあったのか。

「それでは、僕がしてもかまいませんか?」

「・・・ああ。自分の好きなようにした俺に、お前の自由を阻む権利はない。ただ・・・出来るなら使用人が困るようなことはしないで欲しい」

 もし、ゼウスがウェルズ公爵家を継がないとなると親戚筋から養子を取らなければならなくなる。

 だがゼウス至上主義の両親は、ものすごく・・・とりあえず酷いとしか言いようがないほど親戚との関係が悪い。

 どこも養子になど出してくれないだろう。

 俺がいなくなってから改善していれば、可能性はゼロではないが。

 養子をもらえないと、ウェルズ公爵家は父の代限りとなり、爵位返上となる。

 領地のことは国王陛下が手を尽くして下さるだろうが、仕えてくれている使用人たちのことまであの両親が気遣うとは思えない。



 
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