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嘘つき
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息を吐くように嘘を吐いた。
顔色ひとつ変わっていない。いつもの、私に見せていた優しい表情のままであることが、声に申し訳なさも何もないことが、私に恐怖さえ感じさせた。
ずっと?
もしかして、私を好きだと言ったことも、何もかも嘘なの?
嘘をついている気配が感じられれば、まだ良かった。
だけど、今のシリウス殿下の様子は、普段と全く変わりがない。
それは、今までの全てが嘘だったのではないかという不安を私にもたらせた。
気持ち悪い。
「ジュエル?顔が真っ青だ」
心配そうなその言葉さえ、嘘ではないかと疑ってしまう。
私はゆっくりと立ち上がると、シリウス殿下から少し距離を取った。
「ジュエル?」
「体調が良くないので、早退しようと思います。今日は王太子妃教育もないので・・・」
「馬車まで送って行こう」
「いいえっ!」
シリウス殿下の手を避けるように、私は一歩後ずさった。
不審そうなシリウス殿下にと目を合わせないように、慌てて伝える。
「も、もうすぐ授業が始まります。殿下を授業に遅らせたら・・・王妃様に叱られますから!」
自分の母親が自分に甘く、私には厳しいことを理解っているのだろう。
シリウス殿下は、私に伸ばしていた手を止めた。
「分かった。気をつけて帰るんだよ」
「はい」
私はゆっくりと息を吸って、自分を落ち着かせる。
今ここで「殿下はエミリ様と好き合っていますよね」と言っても、シラを切られる。
こんなに嘘が上手なんだもの。
周囲だって、私の言うことを信用してくれない。
私が目撃しただけでは駄目。
それに、殿下本人か王妃様や国王陛下が、婚約者の交代を言い出してくれないと、リビエラ伯爵家に害が及ぶかもしれない。
お父様お母様お姉様は、私の言うことを信用してくれるだろう。
信用してくれるからこそ、家族に迷惑はかけられない。
身分はエミリ様の方が上なんだから、上手く証拠を集めて、王妃様にシリウス殿下がエミリ様をお好きみたいだと知らせる方法を考えなきゃ。
それまでは、嫌だし気持ち悪いけど、殿下とは普通に接しなきゃいけないわ。
私は吐き気を堪えて、シリウス殿下に向かってにっこりと微笑んだ。
「お気遣いありがとうございます。それでは失礼しますね」
私の笑顔に、不審そうだった殿下もにっこりと微笑った。
あの笑顔が大好きだったのに・・・
大好きだった笑顔を見て、嫌な気持ちになるなんて。
もう、殿下の隣にいたいと思えない。
恋心なんて、こんなにあっけなくなくなってしまうのね。
顔色ひとつ変わっていない。いつもの、私に見せていた優しい表情のままであることが、声に申し訳なさも何もないことが、私に恐怖さえ感じさせた。
ずっと?
もしかして、私を好きだと言ったことも、何もかも嘘なの?
嘘をついている気配が感じられれば、まだ良かった。
だけど、今のシリウス殿下の様子は、普段と全く変わりがない。
それは、今までの全てが嘘だったのではないかという不安を私にもたらせた。
気持ち悪い。
「ジュエル?顔が真っ青だ」
心配そうなその言葉さえ、嘘ではないかと疑ってしまう。
私はゆっくりと立ち上がると、シリウス殿下から少し距離を取った。
「ジュエル?」
「体調が良くないので、早退しようと思います。今日は王太子妃教育もないので・・・」
「馬車まで送って行こう」
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「も、もうすぐ授業が始まります。殿下を授業に遅らせたら・・・王妃様に叱られますから!」
自分の母親が自分に甘く、私には厳しいことを理解っているのだろう。
シリウス殿下は、私に伸ばしていた手を止めた。
「分かった。気をつけて帰るんだよ」
「はい」
私はゆっくりと息を吸って、自分を落ち着かせる。
今ここで「殿下はエミリ様と好き合っていますよね」と言っても、シラを切られる。
こんなに嘘が上手なんだもの。
周囲だって、私の言うことを信用してくれない。
私が目撃しただけでは駄目。
それに、殿下本人か王妃様や国王陛下が、婚約者の交代を言い出してくれないと、リビエラ伯爵家に害が及ぶかもしれない。
お父様お母様お姉様は、私の言うことを信用してくれるだろう。
信用してくれるからこそ、家族に迷惑はかけられない。
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「お気遣いありがとうございます。それでは失礼しますね」
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あの笑顔が大好きだったのに・・・
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