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第四十三話 とある夫婦の幸せな末路
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■アーロイ視点■
「ぜぇ……はぁ……な、なんとか撤退できたか……」
エレナ達を前にして逃亡するという、とてつもない屈辱を味わったボクは、強い魔力を辿りながら歩を進めていた。
ボクがこんな惨めな思いをするなんて……このボクが……あんな連中に!
「ああくそ、思い出しただけで、はらわたが煮えくり返りそうだ! いや、今はとにかく先にジェシーの安否を確認しなければ……」
ジェシーは必ず生きている。ボクを置いて死ぬはずがない。あれはエレナ達がボクを動揺させるために言った出まかせに違いない。
「はぁ……はぁ……」
さすがに体力と魔力を使いすぎたか……足が上手く動かない。なんとか木を掴んだり、もたれかかりながら進んではいるが……。
「ここか……?」
ほとんどが気力だけで魔力を頼りに進んだが、その甲斐があって泉に到着することが出来た。
思った以上に……荒れているな。もっと綺麗な場所を想像していたのだが……本当に、ここで何かあったのか?
「ジェシー?」
…………なにも返ってこない。
「質の悪い冗談はやめてくれ!」
………………。
「ジェシー……」
ここにはジェシーはいない。もしかしたら帰ってしまったのかもしれないが、それならボクや兵たちの所に行くはずだ。
そうなると……やはり、この泉の中に……?
「ちょっとだけ、触れてみるか」
ちょっとだけなら大丈夫。そう意を決して泉に近づくと、水面がほんのりと光りだした。
な、なにが起きているんだ……急に光が……あっ……あぁ……!!
「アーロイ様……」
「ジェシー!?」
眩い光と共に、ボクの前に突然ジェシーが現れた。
水面に立つジェシーは、明らかにジェシーではない。ジェシーの形をしてはいるが、体の輪郭だけで、そこに目や鼻がついていない。かろうじて、声で判断が出来るってくらいだ。
「本当に……ジェシーなのか……!?」
『ええ、アーロイ様。私は死にましたが、最後に話したくて、こうして意識だけを泉に残したんですの』
「一体何が!?」
『あの女達が悪いんですわ。私から奪おうとしたから、先に奪おうと思って水に入ったら……酷い目に……』
「そうだったのか……! ああ、ボクはどうすればいいんだ……最愛の君を失ったボクは、一体どうすれば!?」
『簡単ですわ。あの女に……いえ、あの連中に復讐をしてください。このままでは、私の魂は報われませんわ』
ジェシーは実体がない。だから、復讐をするならボクしか出来ないだろう。
ボクも奴らに復讐がしたくて仕方がない。ボクのジェシーがを最高の聖女にするつもりだったのがエレナに取られ、ウィルフレッドにボコボコにされて栄誉に傷がついた! さらにエレナは、エレノアと一緒にボクの母親まで……!
憎い。憎い……憎い! 憎い!!
「憎い……復讐……ああ、そうだな。ボクも奴らを殺したい!」
『では、この泉の魔力を少し持っていくと良いですわ。沢山持っていくと、私のようになってしまうので、あくまで少量ですが。さあ、私の手を取って……』
「ジェシー……!」
ボクは最愛の人の手を取ると、ゆっくりと泉の中に招かれた。
思った以上に普通の水だ。パッと見た限りでは全然わからないが、水から体に向かって膨大の魔力が流れてる。
「おお、これがこの泉の魔力……! 願わくば、この力を完全に我が物にした君を見たかった」
『ええ、そうですわね……ところでアーロイ様』
「なんだ?」
『私……とてもお腹が減ったノ。だカラ、アナタノ、マリョク、タベタイ』
「え……?」
気づいた時には遅かった。ボクはジェシーに押し倒されると、泉に倒れこんでしまった。
「一体何を……」
「ゴチソウ」
「ぐあああああああ!?!?」
泉から、とんでもない量の魔力が流れ込んでくる。体中が引きちぎられるような痛みをを感じ、頭は割れるように痛い。
いや、違う! 痛いのはそうなんだが、これはまるで……頭の中を書き換えられている!?
「トッテモ、オイシソウ」
「や、やめ……」
ジェシー……いや、ジェシーだったものは、己の髪を伸ばして自在に操り、ボクを逃げられないように拘束した。
魔法で逃げようにも、泉に浸かっているせいで、魔力が異常に乱れてしまっている。こんな状態では、精密な魔力コントロールが必要なボクの魔法では、発動すらしない。
「……ゴハン」
「ぎゃあああ!?!?」
拘束されたボクの右手に、ジェシーだったものが噛みつく。その痛みはもちろんだが、傷から更に魔力が流れ込み、ボクの体を破壊してく。
それから右足、右目と引きちぎられ、それをジェシーだった物が食す。
「い、痛い……痛いよぉ……! なんでボクが……母上ぇぇぇぇ!」
「イケナイヒト。アイスルヒト、ココ」
「ぎゃあああああああああああ!???!?!!?」
『アナタ、マリョク……アイ……タベル……』
ついには左の手足を食われ、左目も無くなった。もう何も出来ない。何も見えない。ボクはこんな所で死ぬのか!?
嫌だ、死にたくない! 死んだらどうなる? 考えるだけで怖い! 嫌だ……嫌だぁぁぁぁぁぁ!
「死にたくない!ボクは奴らに復讐をして――」
『ドウデモイイ。ワタシタチ、ヒトツ……』
身動きが取れない、辺りが見えないのにわかる。なにかおぞましいものがボクの近くに来ているのを。
嫌だ、怖い! エレナ、ここに来てボクの傷を治してくれ! ウィルフレッド、こいつらを全部斬ってくれ! 精霊共もこいつを吹っ飛ばせ!
『イタダキマス』
ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!! 誰か助けてくれえええええぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!! しに、たくねえええええ、よぉ……!
『オイシィ……オイシィ……イッショ……アイスル……コレカラ……ズット……ワタシタチ……ヒトツニ……』
「ぜぇ……はぁ……な、なんとか撤退できたか……」
エレナ達を前にして逃亡するという、とてつもない屈辱を味わったボクは、強い魔力を辿りながら歩を進めていた。
ボクがこんな惨めな思いをするなんて……このボクが……あんな連中に!
「ああくそ、思い出しただけで、はらわたが煮えくり返りそうだ! いや、今はとにかく先にジェシーの安否を確認しなければ……」
ジェシーは必ず生きている。ボクを置いて死ぬはずがない。あれはエレナ達がボクを動揺させるために言った出まかせに違いない。
「はぁ……はぁ……」
さすがに体力と魔力を使いすぎたか……足が上手く動かない。なんとか木を掴んだり、もたれかかりながら進んではいるが……。
「ここか……?」
ほとんどが気力だけで魔力を頼りに進んだが、その甲斐があって泉に到着することが出来た。
思った以上に……荒れているな。もっと綺麗な場所を想像していたのだが……本当に、ここで何かあったのか?
「ジェシー?」
…………なにも返ってこない。
「質の悪い冗談はやめてくれ!」
………………。
「ジェシー……」
ここにはジェシーはいない。もしかしたら帰ってしまったのかもしれないが、それならボクや兵たちの所に行くはずだ。
そうなると……やはり、この泉の中に……?
「ちょっとだけ、触れてみるか」
ちょっとだけなら大丈夫。そう意を決して泉に近づくと、水面がほんのりと光りだした。
な、なにが起きているんだ……急に光が……あっ……あぁ……!!
「アーロイ様……」
「ジェシー!?」
眩い光と共に、ボクの前に突然ジェシーが現れた。
水面に立つジェシーは、明らかにジェシーではない。ジェシーの形をしてはいるが、体の輪郭だけで、そこに目や鼻がついていない。かろうじて、声で判断が出来るってくらいだ。
「本当に……ジェシーなのか……!?」
『ええ、アーロイ様。私は死にましたが、最後に話したくて、こうして意識だけを泉に残したんですの』
「一体何が!?」
『あの女達が悪いんですわ。私から奪おうとしたから、先に奪おうと思って水に入ったら……酷い目に……』
「そうだったのか……! ああ、ボクはどうすればいいんだ……最愛の君を失ったボクは、一体どうすれば!?」
『簡単ですわ。あの女に……いえ、あの連中に復讐をしてください。このままでは、私の魂は報われませんわ』
ジェシーは実体がない。だから、復讐をするならボクしか出来ないだろう。
ボクも奴らに復讐がしたくて仕方がない。ボクのジェシーがを最高の聖女にするつもりだったのがエレナに取られ、ウィルフレッドにボコボコにされて栄誉に傷がついた! さらにエレナは、エレノアと一緒にボクの母親まで……!
憎い。憎い……憎い! 憎い!!
「憎い……復讐……ああ、そうだな。ボクも奴らを殺したい!」
『では、この泉の魔力を少し持っていくと良いですわ。沢山持っていくと、私のようになってしまうので、あくまで少量ですが。さあ、私の手を取って……』
「ジェシー……!」
ボクは最愛の人の手を取ると、ゆっくりと泉の中に招かれた。
思った以上に普通の水だ。パッと見た限りでは全然わからないが、水から体に向かって膨大の魔力が流れてる。
「おお、これがこの泉の魔力……! 願わくば、この力を完全に我が物にした君を見たかった」
『ええ、そうですわね……ところでアーロイ様』
「なんだ?」
『私……とてもお腹が減ったノ。だカラ、アナタノ、マリョク、タベタイ』
「え……?」
気づいた時には遅かった。ボクはジェシーに押し倒されると、泉に倒れこんでしまった。
「一体何を……」
「ゴチソウ」
「ぐあああああああ!?!?」
泉から、とんでもない量の魔力が流れ込んでくる。体中が引きちぎられるような痛みをを感じ、頭は割れるように痛い。
いや、違う! 痛いのはそうなんだが、これはまるで……頭の中を書き換えられている!?
「トッテモ、オイシソウ」
「や、やめ……」
ジェシー……いや、ジェシーだったものは、己の髪を伸ばして自在に操り、ボクを逃げられないように拘束した。
魔法で逃げようにも、泉に浸かっているせいで、魔力が異常に乱れてしまっている。こんな状態では、精密な魔力コントロールが必要なボクの魔法では、発動すらしない。
「……ゴハン」
「ぎゃあああ!?!?」
拘束されたボクの右手に、ジェシーだったものが噛みつく。その痛みはもちろんだが、傷から更に魔力が流れ込み、ボクの体を破壊してく。
それから右足、右目と引きちぎられ、それをジェシーだった物が食す。
「い、痛い……痛いよぉ……! なんでボクが……母上ぇぇぇぇ!」
「イケナイヒト。アイスルヒト、ココ」
「ぎゃあああああああああああ!???!?!!?」
『アナタ、マリョク……アイ……タベル……』
ついには左の手足を食われ、左目も無くなった。もう何も出来ない。何も見えない。ボクはこんな所で死ぬのか!?
嫌だ、死にたくない! 死んだらどうなる? 考えるだけで怖い! 嫌だ……嫌だぁぁぁぁぁぁ!
「死にたくない!ボクは奴らに復讐をして――」
『ドウデモイイ。ワタシタチ、ヒトツ……』
身動きが取れない、辺りが見えないのにわかる。なにかおぞましいものがボクの近くに来ているのを。
嫌だ、怖い! エレナ、ここに来てボクの傷を治してくれ! ウィルフレッド、こいつらを全部斬ってくれ! 精霊共もこいつを吹っ飛ばせ!
『イタダキマス』
ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!! 誰か助けてくれえええええぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!! しに、たくねえええええ、よぉ……!
『オイシィ……オイシィ……イッショ……アイスル……コレカラ……ズット……ワタシタチ……ヒトツニ……』
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