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第十八話 みんなで協力すれば
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「…………?」
「あ、目が覚めた!」
ゆっくりと目を開けると、私の顔を覗き込んでいたマリーちゃんが、嬉しそうに笑っていた。
ここは、多分マリーちゃんの家でしょう。でもおかしいですわ……私は村の方々の治療に当たっていたはずなのに、いつの間にここに戻ってきたのでしょう?
「昨日はビックリしたよ~。治療が終わったと思ったら、まるでお人形さんみたいに、パタッと倒れちゃったんだよ?」
「わ、私が……?」
どうしましょう、倒れた時のことを思い出せません。まさか倒れてしまうほど、疲労を貯めてしまうとは……何度か経験したことがありますが、最後にやってしまった時から随分と間が開いていたので、油断しておりました。
「うん。それでね、お兄ちゃんが凄く慌ててたんだけど、すぐに冷静になって……この家に運んできたの。なんか、ケッカイがなんとかって言ってた気がする」
結界……そうか、レナード様が結界が張られているここに運んできてくださったのね。
「そうでしたのね……って、このベッドはどうしたのですか?」
「あたしのベッドだよ。助けてくれた人を床に寝かせられないもん。あ、あたしはママと一緒に寝たから、心配しないでね!」
ああ……私ってば、心配をかけてしまった挙句、マリーちゃんから寝床を奪ってしまうだなんて、あまりにも情けない……。
「そうだ! お姉ちゃんが起きたらね、お兄ちゃんとママを呼んでくるって約束をしてたんだった! ちょっと待っててね~!」
マリーちゃんはそう言うと、昨日と同じように元気よく部屋を飛び出した。
私も後を追いたいのですが、まだ疲労が抜けきっていないのか、体が思うように動きません。これで元国のお抱えの聖女だなんて、笑い話にもなりません。
「……やっぱり呑気に寝ていられませんわ。早く次の患者の所に行きませんと」
無理やり体を起こしたとほぼ同時に、家の玄関が開くと、そこにはレナード様とマリーちゃん、そして昨日までぐったりしていた、マリーちゃんのお母様の姿がありました。
「よかった、お目覚めになられたのですね!」
「は、はい。って、それはこちらの言葉ですよ! もう歩けるんですか!?」
「おかげさまで、すっかり良くなりました!」
マリーちゃんのお母様、とても快活な感じでとても好感が持てるお方ですわ。一緒にいると、元気がもらえそうです。
「申し遅れました。わたしはマドレーヌといいます。話は全て娘から聞きました。見ず知らずのわたし達を助けてくれて、本当にありがとうございます!」
「元気になって、良かったですわ。ただ、結界を張っていない状態で外出したら、また瘴気に汚染されてしまうので、結界が張られているこの家から、あまり出ないでいただけると幸いです」
「まあ、そうでしたか! 次は気を付けます!」
「言われてみれば、確かにそうだな……自分達が大丈夫だからって、すっかり失念をしていた……マドレーヌ殿、大変失礼いたしました」
「いやいや、頭をあげてくださいよ! わたしから手伝いたいって頼んだことなんですから!」
村の方々を助けたいという気持ちも、仕事を手伝いたいという気持ちも、とってもありがたい。でも、それでまた体調を崩しては元も子もないから、少しきつく言ってしまいましたわ。
「サーシャ、彼女にも結界を張ることは可能かい? 現状だと、人手は多いに越したことはないからね」
「それくらいなら、問題ありませんわ。少し失礼します」
私は、自分達にかけたのと同じ結界魔法を彼女にかけてさし上げました。見た目状の変化はありませんが、これで数日は瘴気に侵されることは無いでしょう。
「ふう……これでよし」
「なにからなにまで、本当にありがとうございます」
「いえいえ、聖女として当然のことをしているだけですわ。さあ、次の患者の所に参りましょう」
「いや、君はもう少し休んだ方が良い。昨日のうちに、重症な人は一通り回ったはずだからね」
「そうだったのですか!? 私、ただただ必死に治療をしていたので、後何人かの把握は出来ておりませんでしたわ……」
私の代わりに、こういうことをやっていただけるのは、本当にありがたいですわ。おかげで、治療だけに専念できますもの。
「でも、重傷者がいなくなったのは、三つの意味で朗報ですわね」
「お姉ちゃん、三つってどういうこと?」
「一つはもちろん、苦しんでいるお方が減ったこと。もう一つは、私の疲労ですわ。聖女の魔法を使うと疲れますが、患者が軽症なら、私もあまり疲れませんの」
「それならよかった。何も出来ない状態で君だけが疲労するのは、死ぬよりも耐えがたい苦痛だからね……」
大げさなって一瞬思いましたが、私が逆の立場だったら、心配過ぎて夜も眠れなくなっていると思うので、全然大げさではありませんでした。
「そして三つ目……重症な人の治療は一段落したということは、これからこの村の瘴気を浄化し、結界を張る余裕が出来たということです」
「こ、この村の浄化と結界って……そんなことが可能なの? お姉ちゃん?」
「元々、この国には聖女の力を使った結界を張られております。私もつい最近までその結界を展開し、維持する仕事をしておりました。だから、この村を守るくらいの結界を張ることは、さほど難しいことではありません。さっそくその準備を――あっ」
結界の準備をしようとしましたが、足に力が入らなくて倒れそうになってしまいました。しかし、私は床に体を打ち付けることはありませんでした。
なぜなら、レナード様が咄嗟に腕を出して、私を支えてくださったからです。
「大丈夫かい、サーシャ」
「は、はい……ありがとうございます」
「さっきも言ったが、やはり少し休んだ方が良い」
「そういうわけには……」
「無理して結界と浄化をして、もし何か不備があったらどうするつもりだ?」
「それは……」
浄化が中途半端だったら、残った瘴気が増えて悪影響を及ぼすかもしれない。結界が中途半端だったら、再び何かしらの理由で、外部から瘴気が侵入してくるかもしれない。
そうなったら、今度こそ犠牲者が出るかもしれない……レナード様は、そう仰りたいのでしょう。
「大丈夫ですよ、サーシャさん。まだ調子が悪い人達は、わたし達で看病しますから!」
「みんなで協力すれば、きっと大丈夫だよ~!」
「二人の言う通りだよ、サーシャ。君が一人で抱え込む必要は無いんだ」
「皆様……ありがとうございます!」
今までたくさんのお方と出会い、治療を行ってきましたが、こんなふうに優しくしてもらったことなんて、一度たりともありませんでした。
だからなのでしょうか……思わず目頭が熱くなってきて……同時に、お腹の虫が盛大に鳴きました。
「…………」
は、恥ずかしすぎる……数秒前まで、感動で涙が出そうだったのが、今では恥ずかしさで涙が出そうですわ……。
「お腹すいたの? そうだ! あのね、昨日ママを治してもらったら、この果物をあげるって約束してたの!」
「まあ、そうだったの? それじゃあ、聖女様のために一緒に果物の皮をむきましょうか」
「うんっ!」
「レナードさんもご一緒にどうぞ。ずっと何も食べていないのでしょう?」
「お気遣い、感謝いたします。ですが、俺はまだまだ大丈夫ですので、俺の分はあなた方で食べてください。俺は症状が悪化した人がいないか、見て回ってきます」
「あ、レナード様!」
私の呼び止めも虚しく、レナード様は家を出ていってしまった。
レナード様のことだから、ここに残れば私が遠慮するってわかってて、強引にこの場を離れたのだと思います。
私のことを考えてくださるのは、とても嬉しいことなのですが、それでレナード様の調子が悪くなってしまわないかと思うと、心配でたまりません……。
「あ、目が覚めた!」
ゆっくりと目を開けると、私の顔を覗き込んでいたマリーちゃんが、嬉しそうに笑っていた。
ここは、多分マリーちゃんの家でしょう。でもおかしいですわ……私は村の方々の治療に当たっていたはずなのに、いつの間にここに戻ってきたのでしょう?
「昨日はビックリしたよ~。治療が終わったと思ったら、まるでお人形さんみたいに、パタッと倒れちゃったんだよ?」
「わ、私が……?」
どうしましょう、倒れた時のことを思い出せません。まさか倒れてしまうほど、疲労を貯めてしまうとは……何度か経験したことがありますが、最後にやってしまった時から随分と間が開いていたので、油断しておりました。
「うん。それでね、お兄ちゃんが凄く慌ててたんだけど、すぐに冷静になって……この家に運んできたの。なんか、ケッカイがなんとかって言ってた気がする」
結界……そうか、レナード様が結界が張られているここに運んできてくださったのね。
「そうでしたのね……って、このベッドはどうしたのですか?」
「あたしのベッドだよ。助けてくれた人を床に寝かせられないもん。あ、あたしはママと一緒に寝たから、心配しないでね!」
ああ……私ってば、心配をかけてしまった挙句、マリーちゃんから寝床を奪ってしまうだなんて、あまりにも情けない……。
「そうだ! お姉ちゃんが起きたらね、お兄ちゃんとママを呼んでくるって約束をしてたんだった! ちょっと待っててね~!」
マリーちゃんはそう言うと、昨日と同じように元気よく部屋を飛び出した。
私も後を追いたいのですが、まだ疲労が抜けきっていないのか、体が思うように動きません。これで元国のお抱えの聖女だなんて、笑い話にもなりません。
「……やっぱり呑気に寝ていられませんわ。早く次の患者の所に行きませんと」
無理やり体を起こしたとほぼ同時に、家の玄関が開くと、そこにはレナード様とマリーちゃん、そして昨日までぐったりしていた、マリーちゃんのお母様の姿がありました。
「よかった、お目覚めになられたのですね!」
「は、はい。って、それはこちらの言葉ですよ! もう歩けるんですか!?」
「おかげさまで、すっかり良くなりました!」
マリーちゃんのお母様、とても快活な感じでとても好感が持てるお方ですわ。一緒にいると、元気がもらえそうです。
「申し遅れました。わたしはマドレーヌといいます。話は全て娘から聞きました。見ず知らずのわたし達を助けてくれて、本当にありがとうございます!」
「元気になって、良かったですわ。ただ、結界を張っていない状態で外出したら、また瘴気に汚染されてしまうので、結界が張られているこの家から、あまり出ないでいただけると幸いです」
「まあ、そうでしたか! 次は気を付けます!」
「言われてみれば、確かにそうだな……自分達が大丈夫だからって、すっかり失念をしていた……マドレーヌ殿、大変失礼いたしました」
「いやいや、頭をあげてくださいよ! わたしから手伝いたいって頼んだことなんですから!」
村の方々を助けたいという気持ちも、仕事を手伝いたいという気持ちも、とってもありがたい。でも、それでまた体調を崩しては元も子もないから、少しきつく言ってしまいましたわ。
「サーシャ、彼女にも結界を張ることは可能かい? 現状だと、人手は多いに越したことはないからね」
「それくらいなら、問題ありませんわ。少し失礼します」
私は、自分達にかけたのと同じ結界魔法を彼女にかけてさし上げました。見た目状の変化はありませんが、これで数日は瘴気に侵されることは無いでしょう。
「ふう……これでよし」
「なにからなにまで、本当にありがとうございます」
「いえいえ、聖女として当然のことをしているだけですわ。さあ、次の患者の所に参りましょう」
「いや、君はもう少し休んだ方が良い。昨日のうちに、重症な人は一通り回ったはずだからね」
「そうだったのですか!? 私、ただただ必死に治療をしていたので、後何人かの把握は出来ておりませんでしたわ……」
私の代わりに、こういうことをやっていただけるのは、本当にありがたいですわ。おかげで、治療だけに専念できますもの。
「でも、重傷者がいなくなったのは、三つの意味で朗報ですわね」
「お姉ちゃん、三つってどういうこと?」
「一つはもちろん、苦しんでいるお方が減ったこと。もう一つは、私の疲労ですわ。聖女の魔法を使うと疲れますが、患者が軽症なら、私もあまり疲れませんの」
「それならよかった。何も出来ない状態で君だけが疲労するのは、死ぬよりも耐えがたい苦痛だからね……」
大げさなって一瞬思いましたが、私が逆の立場だったら、心配過ぎて夜も眠れなくなっていると思うので、全然大げさではありませんでした。
「そして三つ目……重症な人の治療は一段落したということは、これからこの村の瘴気を浄化し、結界を張る余裕が出来たということです」
「こ、この村の浄化と結界って……そんなことが可能なの? お姉ちゃん?」
「元々、この国には聖女の力を使った結界を張られております。私もつい最近までその結界を展開し、維持する仕事をしておりました。だから、この村を守るくらいの結界を張ることは、さほど難しいことではありません。さっそくその準備を――あっ」
結界の準備をしようとしましたが、足に力が入らなくて倒れそうになってしまいました。しかし、私は床に体を打ち付けることはありませんでした。
なぜなら、レナード様が咄嗟に腕を出して、私を支えてくださったからです。
「大丈夫かい、サーシャ」
「は、はい……ありがとうございます」
「さっきも言ったが、やはり少し休んだ方が良い」
「そういうわけには……」
「無理して結界と浄化をして、もし何か不備があったらどうするつもりだ?」
「それは……」
浄化が中途半端だったら、残った瘴気が増えて悪影響を及ぼすかもしれない。結界が中途半端だったら、再び何かしらの理由で、外部から瘴気が侵入してくるかもしれない。
そうなったら、今度こそ犠牲者が出るかもしれない……レナード様は、そう仰りたいのでしょう。
「大丈夫ですよ、サーシャさん。まだ調子が悪い人達は、わたし達で看病しますから!」
「みんなで協力すれば、きっと大丈夫だよ~!」
「二人の言う通りだよ、サーシャ。君が一人で抱え込む必要は無いんだ」
「皆様……ありがとうございます!」
今までたくさんのお方と出会い、治療を行ってきましたが、こんなふうに優しくしてもらったことなんて、一度たりともありませんでした。
だからなのでしょうか……思わず目頭が熱くなってきて……同時に、お腹の虫が盛大に鳴きました。
「…………」
は、恥ずかしすぎる……数秒前まで、感動で涙が出そうだったのが、今では恥ずかしさで涙が出そうですわ……。
「お腹すいたの? そうだ! あのね、昨日ママを治してもらったら、この果物をあげるって約束してたの!」
「まあ、そうだったの? それじゃあ、聖女様のために一緒に果物の皮をむきましょうか」
「うんっ!」
「レナードさんもご一緒にどうぞ。ずっと何も食べていないのでしょう?」
「お気遣い、感謝いたします。ですが、俺はまだまだ大丈夫ですので、俺の分はあなた方で食べてください。俺は症状が悪化した人がいないか、見て回ってきます」
「あ、レナード様!」
私の呼び止めも虚しく、レナード様は家を出ていってしまった。
レナード様のことだから、ここに残れば私が遠慮するってわかってて、強引にこの場を離れたのだと思います。
私のことを考えてくださるのは、とても嬉しいことなのですが、それでレナード様の調子が悪くなってしまわないかと思うと、心配でたまりません……。
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